忘れていた風景
「気のせいか、泣き方が下手になったな、美里」
「お父さん役もあまりうまくないわね」
「贅沢は云うな、娘よ」
そう云いながら笑った。
やってみると親子ごっこも結構愉しかった。レストランでは仕方なく長い行列に並んだ。
大規模娯楽施設というものは、世界中に点在しているようだが、どうしても必要なものだからなのだろうか。こういうものを建設するための費用は莫大なものであり、それだけの費用を毎日餓死している発展途上国の子供たちのために使うことができれば……。
「どうしたの?黙り込んで……」
「人間は凄いものを作るなぁ、なんて思っていたのさ。こういうところは久しぶりだよ」
「たまにはいいでしょ。お父さん」
「可愛い娘がいればどこにでも行けるんだとも、思ったね」
やっとレストランの中に入ることができた。
「優しいお父さんとなら、どこにでも行くわよ」
騒々しい中での、落ち着かない食事だった。料理の価格設定は高めだが、満足できる味ではなかった。だが、美里に払ってもらっているので、中野はそういうことを云わなかった。
レストランを出てからはピラミッドを見ながら歩いて行った。