忘れていた風景
最初の地球の内部を探検するという設定の乗り物は愉しかった。中野は今朝の夢に別れた妻が現れたのを思い出していた。
そのあとは長い距離を歩かされた。途中には長い上り坂もあった。陽射しが意外につよいので
かなり汗をかいた。
「お父さん大丈夫?わたしがおんぶしてあげましょうか?」
美里はおどけた感じで云った。
「いやいや、昔は山男だったのじゃ、このくらいではへこたれん」
「だめよ、その云い方は時代劇に出てくるおじいさんじゃない」
「そうか、それは拙かったなぁ」
深い森を見ながら更に歩かされた。中野は疲れ始めていた。
乱気流に巻き込まれながら大荒れの嵐を消しに行く気象観測用の不安定な飛行機というのにも乗った。中野は少し気持ちが悪くなった。
「ちょっと、顔色が悪くなったね、お父さん」
「美里、私が死んだら財産は全てお前に譲ることにしたよ」
「お父さん、そんな哀しいことは二度と云わないでください」
美里はそう云って中野に抱きつくと泣く真似をした。