忘れていた風景
「あとね、半端な空席を埋めて効率良く運行するために、一人で列に並んでいる人を優先的に案内する、通 称『シングル・ライダー』という制度もあるのよ」
「わが娘は賢いねえ」
中野がそう云うと、美里は、
「お父さん、やっとわたしの賢さを認めてくれたのね。ウルウル」
と云ってまた笑った。
作りものの火山が突然大音響と共に噴火したので、中野はかなり驚かされた。
「驚いた?心臓マヒで倒れないでね、お父さん」
「それより、広いから行き倒れになりそうだよ」
「大丈夫よ。親思いの娘がついてるから」
「そうですか。それは心強いおことばです」
やはり作りもののイタリア風の港には豪華客船が停泊している。時々スピーカーから渋い声の外国人が日本語と英語で解説をしていた。
「お父さん。いつかはあんな船で世界旅行しましょ」
ハーバー沿いにはきれいな建物がたくさん建っているように見えた。
「はいはい。あなたとならば世界の果てまで同行しますよ」