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忘れていた風景

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「いいわよ。出世払いで」
「親孝行な娘だねぇ。情けない話だけど、年金でももらえるようになったら恩返しさせてもらうよ」
「ねえ。呼び方はどうしよう。パパ、お父さん、お父ちゃん。どれがいい?」
 ふたりは連絡通路を歩き始めた。
「そんなことより、一体どこへ向かってるのかな?」
「昔からね、お父さんがいたら最初に連れて行って欲しかったところよ。日曜日に友だちの家族が愉しそうに水筒とか、お弁当を持って出かけて行くところを、いつも隠れて見送ってたの。数えきれないくらいにそういうことがあったわ。今日はあの子がスキップで、
可愛い服を着て出かけて行く。先週は別の子がもっときれいな服を着ていた。もう、羨ましくて、辛くてでも、どうしても見えなくなるまで……」
 美里は急に涙声になり、大粒の涙を溢れさせて通路の端にしゃがみ込んでしまった。
中野は身をかがめて嗚咽する彼女の右肩に自分の右手を置いた。
「ここで泣くとはねぇ。お父さんが欲しいと思っている人なんて、何万人もいるんだよ。
自分だけ哀しいなんて、思ってちゃだめだ」
「だって、哀しかったもん。父親参観日にお母さんが来てる子なんてわたしだけだったもん」
美里は泣きながらやっとのことで云った。
作品名:忘れていた風景 作家名:マナーモード