忘れていた風景
それでも十一月の爽やかな風は、中野を不機嫌にはしなかった。野良猫が道路わきに置いてある発砲スチロールのトレーの中の餌を食べている。きれいな白と赤毛の猫なので、
飼い猫かも知れないと思った。昔飼っていた猫の名前が「ミー」だったことを、中野は思い出した。それを一刻も早く、美里に話したいと思った。
*
指定された駅の自動改札の傍に、彼女が嬉しそうな顔で立っていた。
「少し遅れたかな?電車は乗り換えが面倒だね」
中野は緊張しているような面持ちで云った。
「クリーム色のガーリーなワンピースに茶系ニットのカーディガン、エスニック柄のレギンスで大人可愛いくまとめてみました」
そう云うと、美里は笑顔のままその場でぐるっと回って見せた。中野は美里が自分の服装を解説したらしいことは判ったが、半分以上は解らない用語だった。
「何よぅ。親子ごっこをしようと思ったのに、ペアルックみたいじゃない」
「親子ごっこだって?だけど、こっちは殆どノーマネーだからねぇ」