忘れていた風景
下の行をクリックした。予感の通り、美里からだった。恐らく三週間振りの連絡だ。
あれ以来だと、三度目だろうか。
「おはようございます。お久し振りです。お元気でしたか?忙しくて今日になってしまいました。秋は行楽のシーズンですね。お仕事じゃなかったら、お会いしませんか」
そのあと駅名と待ち合わせの場所を説明し、午前十時に手ぶらで来てもらいたいというものだった。そのミニメールに中野は驚かされた。
「手ぶらで?わかりました。急いででかけます」と、返信した。
連絡が来たら持って行くつもりで、絵は箱に入れてあった。額縁の段ボールの箱である。
それを持たずに外出した。納得できない気持ちだった。
クリーム色のコットンパンツ、紺色のチェックのシャツ、茶系の薄手のセーターを着た。
晴れてあたたかい。年間ベストワンかもしれない行楽日和だと、彼は思った。
小型車に荷物を詰め込んでいる四人家族の傍を通った。四十代らしい父親は、
隙があったら逃げ出したいというような不機嫌な表情をしている。
自転車に二人乗りの若いカップルが通った。後ろから男の両肩を掴んで立っている娘が、
歩いている中野の前方の道路にガムを吐き棄てて行った。