忘れていた風景
「まあね。三歳からだよ」
「わあ、わたしも三歳からだって、母が云ってたの」
ミーちゃんは笑った。
「でも、考えてみりゃあ、どこのガキも三歳くらいでクレヨン握るか」
「それもそうね。喜んで損したわ」
中野は卑しいとは思いながらも慌てて刺身と、焼き鳥の残りを腹に入れた。
「さて、もうそろそろ……」
「出ましょうか。私が出すから、
気にしないでね」
「かっこ悪いけど、無い袖振れないというわけだ。頼むよ。ご馳走さま」
店から出てみた中野は愕然とした。眼の前に畑が広がっていたのだ。その奥は広大な果樹園らしい。そこは東京の都心から遠く離れたどこかだった。
「ここはどこ?私はだれ?」
中野が呆れながら、ふざけて云った。
「何なの?どういうこと?」
中野はまた空を見上げたが、少しだけ星が見えた。