忘れていた風景
「あっ!また涙。そんなに笑えた?さっきも泣いたでしょ。カラオケで。高齢者は困るな」
「やっぱり性格きついや。さては猫被ってたな?」
「そうかもにゃん」
ミーちゃんは顔の前で両手を丸めた。そして、可愛らしく笑った。
ミーちゃんが注文した刺身の盛り合わせと焼き鳥の盛り合わせがきた。
タクシーはこのところ極端に景気が悪いので、中野には夢のようなご馳走だった。
仕事の日は格安の牛丼弁当ひとつを、昼と夜に半分づつ分けて食べている状態なのである。
「やっぱりね。その若さで中高年のコミュニティサイトにいるってことは、そういうこと
だったんだね」
「まだ気がついてないの?」
「何がさ」
「あなたは第一容疑者なのよ」
中野はそう云われてはっとした。
「私が父親だって?……」
「一応ね、まだ可能性は残ってる」
「まさかぁ。そんな可能性はないね」
そう云ってから焼き鳥を取って食べた。