忘れていた風景
「生きていたら……まだ六十歳前だから生きている筈よ……そうだ。たくちゃんと同じくらいの年齢だし、たくちゃんと知り合いだったかも知れないのよ」
「……昔の知り合いで同棲時代してた奴はいませんけど、いや、待てよ。忘れているのかな。何となくそういう男がいたような……」
「同棲時代?」
「昔の映画のタイトルです。流行語だったかも知れません」
「そうなの?で、そういう友達とか居た?」
「三十年くらいも前のことですからね、昔の日記でも引っ張りだすか」
「ただ、記録としては特定できても、現在も会える人じゃないとね」
「そうですね……今も会える奴はいませんよ」
「そうなのね。三十年。長い時間よね」
「……サイトがある」
中野はそう云った。するとミーちゃんは笑いだした。
「だって、そのために入会したんだもん。だからたくちゃんを発見して接近したのよ」
ふたりで暫く笑った。
「そうかぁ。私も血のめぐりの悪いおやじだなぁ」