忘れていた風景
「そうでしょ。わたし、可愛いもんでしょ」
「と、まあ、そういうわけで、せっかくだから乾杯しますか」
「そうね、愉しい一日をありがとう」
ふたりで乾杯をした。
「お通しもきてたのね」
「ぬたですね……或る有名な作家が若い頃、東京に出てきて、ぬたを初めて注文したそうです。その作家は、店のひとに、ぬたを探したけど入ってないぞって、文句をいったそうなんです。そんなことで恥をかいてしまった、という想い出話のエッセイを読んだことがあります」
「そういうことってあるわね」
ミーちゃんは笑った。
「同じ作家がオニオンスライスを注文して、店の人に向かってライスはまだかって、
また文句を云ったとか」
ミーちゃんはその前よりも笑った。
「末尾がライスだからなのね!」