忘れていた風景
「たくちゃん。わたしじゃだめ?」
隣の席に須永さんが来た。
「レモネードさんは、さすがに黄色が似合いますね」
「ありがとう。わたしね、身長が166センチあるの。どう思う?」
「かっこいいですよ。元ファッションモデルという感じです」
「須永さん。デュエット、お願いします」
カリスマ氏が連れて行った。
間もなく、「ロンリーチャップリン」のイントロが聞こえて来た。
「たくちゃん。例の絵は私にお願いしますね」
ミーちゃんがきた。
「トワ・エ・モアの、『或る日突然』を、一緒に歌ってくれたらオーケーです」
その歌は昔、里子とよく歌った歌だった。中野はかなり酔っていた。
「やったー!わたし歌えますよ。レコードがあったの。ドーナツ盤」
ミーちゃんは嬉しくてたまらないといった笑顔を見せた。
「懐かしいなぁ。ドーナツ盤なんてことば、随分久しぶりに聞きましたよ」
中野も笑っていた。泣きたいくらいに懐かしい気持ちだった。ミーちゃんは早速リモコンでその曲を予約した。その素早さに中野は若さを感じた。