忘れていた風景
そこは、小じんまりしたカラオケスナック、という印象の店だった。平日の夜にはホステスのいるクラブらしいのだが、高級クラブという雰囲気でもなかった。
中野はなぜか酔いたくなって飲み慣れない焼酎の水割りを何杯か飲んだ。
「たくちゃんはバツいちでしたね。同じ境遇の者どうしで、仲良くしましょ」
ユウさんが隣の席にきた。
「カミさんとは六年?じゃなくて七年前に別れました」
「そうなの?わたしは去年よ」
「じゃあ、私のほうが大分先輩ですね」
「もう寂しくない?」
「そうですね。寂しくはありますよ。なんだか変な日本語ですね」
「……そう、七年経っても寂しいのね」
「独人暮らしは何年経っても寂しいですよ。人間は家族を必要とする生き物なんでしょうね」
「そうよね。やっぱり、家族は必要よね」
「ユウさん。デュエット、お願いします」
神風氏がユウさんを連れて行った。「居酒屋」のイントロが始まった。