忘れていた風景
中野も絵画教室の仲間と尾瀬へ行ったことがあった。そのときは里子の姿ばかり探し求めていた。彼女も尾瀬のファンのひとりだった。
「尾瀬はいいところだって、母が云ってました」
ミーちゃんがしんみりとした口調で云った。
「そうよ。わたしは大好き。来年の六月に、一緒に行きましょ」
ユウさんがそう云った。
「殆ど一年後の話だね。でも、早く予約しないと山小屋には泊まれないかも知れないな」
「人気があるところには集中しますからね。さて、次の画廊へ行ってみましょうか」
と、カリスマ氏が云った。その後、三箇所の画廊を観てまわってから、カラオケクラブへ行くことになった。
神風さんとユウさんが柳並木の下を手を繋いで歩いているのを見ると、中野は同じ道を里子と手を繋いで歩いたことを思い出した。三十年も前のことが、昨日のことのように思えた。
随分時間が経ったような気がしたが、まだ午後四時過ぎで、相変わらずの猛暑が居座っていた。