RED+DATE+BOOK005
「いたせりつくせりじゃねーか。いいなぁ〜俺も明日からがっつり食おう!!」
恵はそうしろ、とにっこり俺に笑った後に続けた。
「・・・それでな、交差点で止まったんだよ・・・」
「ぎゃぁぁぁぁぁー!!!!こっちくんなー!!!」
絶対和哉先輩の怖い話は聞かないと心に誓った。
「亮!こっちだよ。」
次の日、部活が終わってから連れて来られたのは篠宮学生寮。
そう、寮なはずなのに俺の目の前にあるのはどう見てもどっかの高級ホテル。
あえて言うならヨーロッパにありそうななんとか宮殿。
それと首都部にありそうなシャープな建物。
ゆるやかなカーブを描きながら両サイドから入り口にむかって連なっている。
窓があるから個人個人の部屋なんだろうが、あそこに学生が住むなら宮殿は誰が住むんだって話だ。
「はへー。すげぇとは思ってたけどマジですげぇ。」
これって観光地になるんじゃねーの?
歴史的建造物に指定されないのか?な勢いだ。
自動ドア(学生なのに自動ドアだぜ!それも大きさが半端ねぇの)をくぐれば上はシャンデリア、下は大理石だ。
俺は旅行鞄を持ちながら唖然としてしまった。
明星の部員はもう見慣れてしまったのか疲れたーやらあっちぃやら言いながらぞろぞろと移動している。
「亮?」
案内兼で一緒に来てくれた春が声をかけるまで俺はぽかんと口をあけっぱなしにしながら回りを見回していた。
「なんか・・・すげぇな。」
「うん。亮、大理石の上で転ぶと痛いから気をつけてね。」
「おー。」
周りを見回してみれば篠宮の生徒がちらほら。
やはり夏休み中のせいか人数は少ない。
「そういえば、楓今日の夜に来るって。」
「え?マジ?寮に来るの?」
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春はコクリと頷いてこっち、と角を曲がる。
「じゃあ明星のみんな紹介しないと!明星にも紹介したいな!」
「うん。ここだよ。」
「うっわー!!茣蓙!それも超広い!」
たどり着いた場所は宴会場に使われそうなほど広い部屋。
隅にはスポーツバッグ及び旅行鞄がきちんと置かれている。
因みに、俺が明星にいた頃もそうであったように和哉先輩の整理整頓は厳しい。
お家が寺というのも関係してるのかしてないのか礼儀作法、行儀作法には五月蝿い。
桜先輩曰く、初対面はえらく他人行儀でお堅いイメージだったらしい。
いまでは大分、というか物凄く改善(悪)されてはいるがこういうところはしっかりしている。
「布団並べれば新体操できるな!競技床!」
はいっ!と両手を上に挙げて爪先立ちすれば後ろからおもいっきりひざかっくんされた。
「うぉ!っ・・・!あぶねぇなぁ!!!」
後ろを見ればやっぱりというか
「馬鹿やってんじゃねぇよ。お前こっちに来て馬鹿にされたのってよく分かるわ。」
恵でした。
「じゃあ、俺は部屋に戻るから。お風呂は一緒に入ろう。番号は402だよ。」
「おう!じゃあまたな!」
付き合ってくれた春と別れて皆が置いてある場所に自分の荷物を置く。
「亮ちゃん、ご飯食べに行こう?」
「あ、うん!」
桜先輩が手を出してくれるから細い手に手を伸ばす。
そしたら細い指が俺の指に絡みつく。
所謂、ラブ繋ぎってやつ。
明星にいた頃は全然気にしなかったんだけど昨日の今日っていうか・・・。
それでなくても目立つ桜先輩だから視線が気になるというか。
「亮ちゃん、顔赤いよ?」
下から上目遣いで覗き込まれる。
うっわ・・・!
変に心臓が騒ぎ出して息を飲んだ。
待って!ちょっと待って!!
桜先輩ってこんなに可愛かったっけ!?
不自然にならないように注意しながら亮は繋いでない手を口に持っていって桜花から顔を逸らした。
桜花は一瞬、はて?と首を傾げようと思ったが瞬時に思考が回転して答えをだし、口元に弧を作った。
それからの行動はすばやい。
「どうしたの?亮ちゃん?」
ずい、と身体を密着させて至近距離で顔を近づける。
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「えあ・・・お、俺汗臭いから・・・!!」
部活でたんと汗を流してきた後だ。
終わってから直行で此方に来たので着替えてすらいない。
スケジュールとしては夕食をすませてからバスタイムだ。
控えめに桜花から身を引こうとするが逆に首に腕を回されてしまう。
「別に、いい匂いしかしないよ?」
いい匂いなのは桜先輩ですからっ!!
じっと見つめてくる桜花の視線から離れることが出来ない。
麗しい顔はそのまま近づいて唇が触れ合う瞬間、反対のベクトルに圧力がかかった。
「他校では弁えろ。」
ずいっと二人の間に割って入ったのは明星高校バレー部部長、上野和哉だ。
「和・・・哉先輩!」
二人とも頭を抑えられながら引き離される。
「ちょっと!和哉!!」
桜花がキッと睨みつけるが和哉はそのまま亮の頭を桜花とは反対の方へやってしまう。
「恵!亮を連れて行け!」
「うーっす。」
「桜はこっちに来い。」
「わかったから頭から手離してよね!!」
亮はキーキーと怒っている桜花に苦笑して今度は違う手によって掴まれている頭を振った。
「はーなーせっ!」
「本当お前いい位置にあるよな。」
しゃあしゃあという恵と並べば、
「それにしてもやっぱ羽沢とお前のラブシーンは見ごたえあるな。」
恵とは逆サイドから同じバレー部部員であるたもっちゃん事磯部保[イソベタモツ]が話しかけてくる。
因みに俺より年上な!2年生ってやつ。
「ラブシーンって・・・たもっちゃん・・・。」
「お前がこっちいた時はもう見慣れてたし笑って過ごせたけど、久々に見るとグッとくるもんがあるな。」
「はぁ?なんだよソレ?」
「なんつーか・・・百合的な危ない香り?ま、髪長かったときの方がお前も女の子みたいだったんだけどなー。」
「百合って何?」
「しらね。」
俺は心の中で使えねぇやつと恵を罵ってから会話に戻った。
「ねー!たもっちゃん!聞きたかった事あるんだけど俺が転校しても翠は残ってたのか?」
「一日目見た通りだよ。お前行った後大変だったんだからなー!!」
恨めしい目で見られて顔が引きつる。
「だ・・・だけど、転校する二週間前にはみんなに言ってたし・・・。」
「せめて一ヶ月前位から言っておけ・・・って言ってもあんま変わんねかっただろうけどな。お前が行ってから通夜みたいに沈んでるしよ。」
「俺等のクラスなんてお前の席見るたびに泣く奴いたしな。」
迷惑かけすぎなんだよという目で恵から見られる。
「ああ見えて羽沢だってそうとう落ち込んでたんだぜ。」
「え?」
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「お前が行ってから何日かは目の周り真っ赤に腫らせて、でも俺たちの前じゃすっげぇ気丈で泣き出す翠の奴等叱ってたけどな。」
「保先輩、それ口止めされてませんでしたっけ?」
「あ。お前、絶対言うなよ!!」
「う、うん。」
あの、あの桜先輩が泣いた?
「この合同合宿だって結構羽沢が頑張ったんだぜ。」
「お前、桜先輩に感謝しとけよ。」
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅