RED+DATE+BOOK005
そして悔しいことに標準サイズよりやや(強調)小さい俺と俺より華奢で身長だって低い桜先輩が一緒に寝ても息苦しさなんて全然感じない程だった。
「電気消すよ?」
「なんだかえっちいセリフだよね?」
「あはは。」
クスクス二人で笑いながらリモコンで電気を消す。
天井に備え付けてあるドーム型からはオレンジの光がぼんやりと照らしているだけだ。
もぞ、と動けばやけに布の音が響く。
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「じゃあ、桜先輩おやすみ。」
「おやすみ、亮ちゃん。」
ゆっくり息を吐いて目を閉じれば今日あったことが浮かんで消えた。
もう一度息を吐いて、亮は静かに目を開けた。
「ねぇ、桜先輩?」
やけにかすれた声が出た。
「ん?」
「俺、桜先輩に謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
「・・・・・・。」
沈黙を許可ととり天井を見つめたまま口を開いた。
頭に浮かぶのは可奈人の言葉。
「桜先輩の俺に対する好きと俺が桜先輩に対するものとは違うんだ。俺、甘えてた。知ってて甘えてた、凄く残酷な事してた。」
「・・・・・・。」
「ごめんなさい。いっぱい傷つけて、ごめん。ごめんなさ・・・。」
ギシッとベッドが軋む音がして反動を感じた。
「亮は、」
桜先輩が俺の上に乗っていた。
両手を俺の顔の横に置いて覗き込むように桜先輩の顔が俺の顔の正面にあった。
重力にしたがって落ちた桜先輩の髪は俺の頬を撫でた。
「亮は、俺が傷ついたと思ったの?」
「う、ん。」
喉がからからに渇いていた。
目の前の綺麗な顔は無表情なのに目は暗闇の中でも爛々と輝いていた。
「甘えてたの?俺に、なんで?」
「なんで・・・だって・・・。」
だって、俺を桜先輩は好きって言ってくれた。
俺を見てくれた。
だから、俺は、
「俺は桜先輩から嫌われたくなかった。桜先輩を離したくなかった。」
最初は桜先輩が好きと言ってくれた事が嬉しかった。
だけど、気づいてしまったのだ、愛じゃいけないと。
そしたら怖くなった。
だけど桜先輩は優しくて、とても心地よくて離したくなかった。
だから自分の中だけで線を引いた。
「ごめんなさい。」
「謝らなくていいんじゃない?だって知ってたでしょ亮は。俺がその区別をちゃんと理解してるって。」
「でも・・・。」
「謝罪なんていらないんだよね。」
少し呆れたようにため息を吐いた後唇が弧を描いた。
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「俺、嬉しいの。」
「・・・嬉しい?」
鈴を転がしたような甘く無邪気な音が空気を振るわせた。
「だってどのポジションにいたって俺、亮に大切にされてるじゃん。俺は別に翔じゃないし翔になろうとも思わないけど、亮から必要とされるのは嬉しい。」
「俺の所嫌いにならないの?」
桜先輩は一瞬きょとんとして次いでクククと肩を震わせた。
「あは!亮、よくそれ翔に言ってたね!そのセリフの後よく翔が亮を抱きしめてたけどやっとその訳が分かったわ!狙ってやってないっていうのがまた!」
「え?何?」
「俺の好きな子が同じベッドで上目遣いでそれもちょっと涙が滲んでて唇まであと数十センチなんて据え膳食わぬは男の恥だと思わない?」
「は・・・む・・・!!!」
唇を塞がれるように口付けされ口内に舌が入れられる。
絡められるように撫でられた後ちゅ、と舌を吸われて身体が震えた。
ゆったりと糸を引くように離された唇を夢見心地で見つめればクスと桜先輩は笑った。
「誘ってるようにしか見えないよ、そんな顔。」
暖かい手で前髪を掻き揚げられもう一度唇が降ってきた。
触れるようなキス。
「ねぇ、していい?」
「な・・・何?」
「セックス。俺の中で亮はそういう対象だよ。その位好き。」
「え・・・あ!」
するりとわき腹を撫でられ身体が硬直する。
「でも、亮は嫌かな?身体だけの関係とかセフレとか嫌いそうだもんね。」
聞いてはいるが桜先輩の中では断定されている事なのであろう。
「俺は亮と繋がれるならそれでもいいんだけどな。」
悪戯そうにわらって桜先輩は俺を抱きしめた。
「ねぇ、俺の愛の重さ分かってくれた?俺が亮を嫌いになるなんてあるわけないって。」
「さくら・・・せんぱい。」
「泣かない泣かない。俺の好きな亮ちゃんは泣き虫な子じゃないよ。」
よしよしって撫でてくれる手が優しくて余計に涙が溢れてくる。
「うーっ・・・さくらせんぱ、かっこよすぎる・・・。」
肩口に顔を押し付けて唸れば軽快な笑い声が聞こえた。
「大好きだよ、亮。ずっと一緒にいるよ。」
「っ、うん。ありがとう桜先輩。」
ごめんなさいは言わない。
それよりもっとふさわしい言葉を。
「でも、亮覚えておいてね。」
「な・・・なにを?」
「残酷な事をしたってのは自分もされた可能性があるって事を。」
「え・・・。」
「俺は亮は大切だけど、・・・ね?」
「う?うん。」
「あはは!分かってない顔だ!」
髪の毛をくしゃくしゃにかき混ぜられる。
桜先輩が髪をいじるのに満足すると隣にバフと寝ころがった。
手をきゅと握られる。
「おやすみ亮。」
「おやすみ、桜先輩。」
ズクズクしていた心は繋がった手のように暖かくなっていた。
最後に言われた言葉の意味は後に桜先輩じゃない人から聞かされるなんてこのときの俺は思いもしなかった。
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「お前、明日からなんだろ?」
次の日、体育館に向うと些かげっそりした感じの恵が声をかけてきた。
「なんかあったのか?」
恵ははぁーと盛大にため息を吐くと俺の肩に両手を置いて項垂れた。
「和哉先輩の恐怖話。」
ボソッと低く呟かれた言葉に背筋が凍った。
「・・・うん。そうか離せ、どけろ。」
脱兎の如く逃げ出したい気持を押しとどめながら肩にかかる手を退けようとするが、
コイツ・・・!!!
恵は離すつもりはちゃんちゃら無いらしく爪が白くなるほどに人の肩を掴んでいる。
ぬっとおどろおどろしく顔を上げた恵。
死相が見える。
「ある、雨の日にな・・・」
「ぎゃあああああ!!!!!」
自分の耳を塞いで遮断!
ATフィールドを展開・・・したい!!
「学生がチャリで傘差しながら片手運転して交差点で・・・」
「いやだっ!聞きたくないって!!あーあーあー!!!」
ばたばたと暴れるが悲しいかな、恵の方がでかいので後ろから腕を掴まれてしまえば抵抗は無抵抗に近くなる。
「あ、そういや・・・。」
恵はいきなり恐怖話を終わらせると思いついたかのように喋りだした。
「ここって俺らの他にも合宿してんのな。」
「へ?そうなんだ?」
「ああ。俺らの寝てた場所の隣でも布団とか運んでたし。」
「へー。篠宮の寮はどうだった?」
「無駄に金かけすぎって感じだな。お前大浴場とか行ったか?」
「ううん。俺、寮にすら行った事ないし。」
「風呂が5種類だぞ。どこの温泉だっつーのな。」
「マジで!?超はいりてぇ!!」
「夏休み中だってのに朝はバイキングで夜もがっつりいいもん食えるし。」
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅