RED+DATE+BOOK005
しかしそれも杞憂で亮はちゃんと桜花を見つけた。
以前と同じように笑顔で桜花の前に立っていた。
それが堪らなく嬉しかった。
だから彼を貶す人間は許せなかった。
それを許諾している人間も。
知らないふりは一番の罪だ。
自分が気づかない最大の罪。
だけど・・・。
桜花は先ほどの光景をフラッシュバックさせて苦笑いをした。
まさか、飛び降りるなんて。
亮が青木春を止めるよりも先に自分の心臓が止まってしまうかと思った。
やりすぎた感は否めないが後悔はしていない。
ああでもしないと気づかない。
只、随分酷いことを言われてたのだと改めて感じた。
聞いてはいたが実際見るのとは大きな違いだ。
胸を抉られる様に悲しく息が詰まるほど怒りを感じた。
本人はそれ以上だろう。
そして何も出来ない、何も出来なかった自分に嫌悪した。
咄嗟に亮に謝りたくなった。
でもそれはしなかった。
謝っても意味が無いことを知っていた。
謝ることは罪の緩和でしかない。
それに彼はそんな事要らないのであろうから。
どうすればいいのだろう?
皆目検討がつかなかった。
でも、彼の事を考える、それだけで心が暖かくなるのを感じた。
「桜花・・・さん。」
小さいが通る声がして桜花は顔を上げた。
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「・・・なに?」
目の前に青木春が立っていた。
「ありがとうございました。」
「なにが?」
「はっきり言ってくれて・・・貴方が言うとおり俺は知らないふりをしていた。」
「・・・・・・。」
「もう、目をそらさない。気づかせてくれてありがとうございます。」
「・・・・・・はぁー。」
桜花は大げさにため息を吐くと眉間に皺を寄せてケッと横を向いた。
「言っておくけど、お前のためじゃなくて亮ちゃんのため。」
「はい。分かっています。」
「あっそ。でもお前最悪なのは変わってないから。・・・・・・。」
桜花は少し考え口を開いた。
「ねぇ、亮とキスしたんだろ?亮は平気だった?」
春はその問いに少しだけ眉を寄せて答えた。
「・・・愛してるはダメだって言われました。分からないって。」
「そ・・・か。」
桜花は何かを堪えるようにぎゅっと一度目を瞑ると次には何も無い顔をして春に向き直った。
「ふざけんな。亮ちゃんの唇は俺のもんだっつーの。次やったら殺すからね。」
春の方が身長は高いが桜花は見下すようにそう告げた。
「・・・でも亮はキスは嫌じゃないって言ってたから。」
「だから誰の断りなしに亮ちゃんにキスしてんだよ?」
「桜花さんは誰にも断りいれないで亮にキスしてた。」
「俺はいいのっ!!お前はダメっ!」
「何故?不公平だ。」
「世界の何処に公平があるのさ?いい!俺のものは亮のもの!だから亮のものも俺のものなの!」
「・・・亮はものじゃない。」
「がーーー!!!お前じゃ話にならないっ!楓はどうしたのさ?」
「楓はまだ帰って来てません。」
「とにかくっ!亮ちゃんとキスしたいならそれなりのリスクは覚悟しておくんだねっ!」
「分かりました。」
「・・・そんな返事求めてないんだけどね。」
桜花はやさぐれたようにそう呟いた。
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「桜先輩お待たせっ!!」
シャツのボタンを2個ほどあけて篠宮高校の制服を纏った亮が春と桜花の元にかけてくる。
桜花はさっと亮の手を繋ぎにっこり笑った。
「亮ちゃん、行こう?」
「うん!じゃあ明日は春!」
「じゃあね、あおきはる。」
桜花はクスッと笑いながら春の横を通り過ぎた。
「亮、桜を頼む。」
和哉先輩に声をかけられてはい!と元気良く返事をする。
「じゃあまた明日!!」
「桜先輩!此方桐生正人さん。いっつもご飯作ってくれたり送迎してくれてるんだ。」
「こんにちは・・・えっと・・・さく・・・」
「羽沢桜花と申します。初めまして桐生さん。」
「初めまして。どうぞお乗りください。」
「ありがとうございます。」
正人が扉を開けて桜花が車に乗り込む。
その一連の動作に亮はほう、と感嘆した。
正人と桜花はあまりにも様になっている。
「どうしたの?亮ちゃん?」
車の中で首をかしげている桜花と同じく如何なされました?という顔で見ている正人。
「なんでもない。」
亮はちょっとしゅんとして同じように車に乗り込んだ。
「では、桜花さんはお泊りになるんですね?」
「うん!あ・・・でもいきなりってまずいかな?寝るのは俺の部屋に一緒にって思ってたんだけど。」
「大丈夫だと思いますよ。客間も空いていますし。」
「でも、俺は亮ちゃんと一緒に寝たいな。」
一瞬、本当に一瞬場の空気が止まったように感じたが桜花がにこにこと笑っているし正人もにこりとしているので亮は気のせいかと思った。
「じゃあ俺の部屋に布団敷こうか。桜先輩はベットで寝ればいいし。」
「では、後でお布団お持ちしますね。」
「いいよ!桐生さん俺自分で持っていくから。」
「亮ちゃんのベッドで二人で寝ればいいんじゃないかな?」
気のせいじゃない!
空気が重くなり温度が下がったのは決して気のせいじゃない。
「う・・・うん。でも二人で寝るには狭いかもしれないよ?」
引きつった顔で亮は告げた。
「全然平気!」
そして桜花は満面の笑みで返したのだった。
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「あらあら!桜花君。お久しぶり。」
家に着けば杏那を抱いたお袋が出迎えてくれた。
「杏里さんお久しぶりです!お元気でしたか?」
これどうぞ、と差し出したのは包装紙に包んである箱。
え?桜先輩何時の間に用意したの?
「まぁ、ありがとう!泊まっていくんでしょ?」
「お世話になります。」
とんとんと進む会話に亮は置いてけぼりをくらう。
あれ?なにこのテンポ?
「なんで桜先輩泊まるって知ってんの?つーか感動すくなくねぇ?」
杏那をお袋の手から抱き上げて尋ねれば
「だって私、桜花君とメル友だもの。ねー?」
ねー。じゃないって。桜先輩も一緒にねーじゃないって。
「今日は、杏那ちゃん。」
桜先輩が杏那ににっこりと笑って挨拶する。
「随分大きくなったね。」
「めちゃめちゃ可愛くなったんスよ。」
杏那が腕を伸ばしお袋から杏那を渡された。
きゃきゃと笑う姿は天使より可愛い。
でへでへ笑ってたらいつの間にか桜先輩は俺の方を見てた。
すっげぇ綺麗な微笑だった。
「あ・・・う。」
ばっちり目があった俺はというとなんだか恥ずかしくて苦笑してしまった。
「桜先輩!部屋行こうぜ!」
照れ隠しにそう言って杏那をお袋に任せる。
「お世話になります。」
ぺこっと桜先輩が深くお辞儀をした。
「桜先輩狭くない?」
「うん。亮ちゃんは?」
「大丈夫。」
夜。
ご飯も食べて風呂も入って後寝るだけ、となった夜。
宣言通り桜先輩と俺は同じベッドで一緒に寝ている。
俺のベッドはシングルサイズより少し大きい。
両手両足大の字で寝れる大きさだ。
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅