RED+DATE+BOOK005
「ダメだよ亮。これは見せしめなんだ。あいつ等にも思い知らせなきゃいけない。」
分からない。
そんなもの全然わからねぇ!!
「土下座なんかしたら一生縁切ってやる!!!」
その言葉にはピクリと反応した。
しかし顔は下を向いたままだ。
そして両手を床に着いた。
っ!!!
ドプって嫌な音立てて腹から何かが湧き出た。
ムカつくとか悲しいとか、そんな表現じゃなくて、純粋な怒りだった。
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「止めろ馬鹿っっ!!!!」
気づいたら、手すりに手と足かけてギャラリーから飛び降りていた。
映像が止まって見えたのは一瞬で、木から林檎が落ちるように。
空から雨が落ちるように、俺の身体も勿論落ちていった。
「亮っっ!!!!」
いろんな人の声が聞こえて内臓がくんって上に持ってかれて耳の傍を風が通って。
俺の体はその間に無意識に衝撃に耐えるように足に力が入った。
でも、ぼすんって音がした先には春がいて。
打ったのは足じゃなくて胸の方で。
見上げた先にいたのは凄い驚いてる顔をした春だった。
「そ、そんな事すんな馬鹿。」
俺は抱きしめられるように春の胸にいた。
多分、春が下で俺を受け取ってくれたみたいなんだけど。
春は泣きそうに顔をゆがめて大声を出した。
「何やってるんだ!!!?」
「っ!」
うえ!?春ってこんな大声出すの!?
初めて聞いたし!!
つーか怒らせてるの俺!?
むしろ怒るのって俺の方じゃねぇ!?
「飛び降りるなんてっ!もし怪我でもしたら・・・!!」
次いで少し青ざめる。
あ、すみません。咄嗟の判断だったんです。
俺がなんていうか言いあぐねているとぐいって身体を引き寄せられて抱きしめられた。
「は・・・春?」
苦しいくらい抱きしめられて春は俺の肩口に顔をうずめている。
その身体は震えていた。
泣いてる。
「泣くなよ春。土下座なんてしなくていいからさ。」
よしよしって感じで頭を撫でてやる。
そんな事しなくていいよ、ってわかってほしかった。
「ごめん、亮。」
ひく、と擦れた声が耳の近くでしたからそれにうん、って頷いておいた。
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「ちょっと、いつまでくっついてるつもり?」
冷ややかな声が降りてくる。
チラを声のした方を見れば桜先輩がいる。
何時の間に降りてきたのか・・・。
「桜先輩!やりすぎっす。」
ぞろぞろと明星の生徒が体育館に降りてきていた。
桜先輩は腕を組んだままツンと横を向いてしまう。
「だって本当の事言っただけだもん。」
「それより、亮くん大丈夫ですか?」
やまにゃんがひょいと桜先輩の前に出て心配そうな顔で俺を見る。
前から思っていたけどやまにゃんって桜先輩に対して強気だよな。
「大丈夫!春受け止めてくれたし。」
春は俺を抱きしめる手を緩めて顔を上げた。
「本当に亮痛い所とかない?」
「俺は平気。むしろ春こそ・・・ああいうのって受け止めるほうが危ないんだろ?」
「俺も大丈夫だよ。」
いつもの笑顔にほっとした。
「亮くんも無事だったみたいですし・・・じゃあ、僕等は帰りましょうか。」
「え?もう帰るの?」
どうやらもうやまにゃん達は帰ってしまうようだ。
話したいこといっぱいあったのに・・・。
「ねぇ、亮ちゃん。夏休み帰ってくるよね?約束したんだよ、来れなかった人たちから。」
ひょいっと桜先輩がやまにゃんの背中から顔を出す。
「約束?」
「そう。夏休みになったら亮ちゃんの所連れて来るから今回は待機だって。中等部のあいつ等も会いたがってたみたいだし。」
「お盆なら・・・多分行くと思う!」
「では、そう伝えておきますね。じゃあ、亮くんまた今度。」
「うん。また!」
翠のみんなは体育館入り口にズラッと並ぶと先のように挨拶をして頭を下げた。
「あ、そうだ篠宮の皆様。」
やまにゃんがよく通る声でまだ体育館に残っている篠宮生徒に顔を向ける。
「僕達の亮くんに手をだしたら本気で潰しますので御覚悟をお願いしますね。」
にっこり笑って眼鏡のレンズがキラリと光った。
「何いってんだよやまにゃん〜!俺送る!バス何処だっけ?」
「いいんですか?バスは校門前に来てると思います。」
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やまにゃん率いるみんなと一緒に歩く。
「す・・・翠様、これ。」
「ん?」
ぽっと渡されたのは綺麗にラッピングされた袋。
「クッキーなんです。」
俯き気味で声を発する彼は明星でちょくちょく見ていた。
「貰っていいの?ありがとう!」
うわーい!クッキーだ!!
そういやよく貰ってたな〜。と遠くない記憶を思い出していたら今度は違う人が「貰ってください!」と袋を差し出した。
バスの前に着く頃には俺の手の中にはいっぱいの贈り物があった。
「じゃあみんな元気でね!」
「翠も!」
みんな窓から顔を出してぶんぶん手を振ってくれる。
俺は手を振ることは出来なかったから笑顔でみんなを見上げた。
門を出たらバスはすぐに見えなくなった。
それでも俺はそこに数分立っていた。
腕の中が暖かかった。
心の中が暖かかった。
「夏・・・には絶対。」
先ほど交わした約束を噛み締めながら飲み込む。
ほっと気分が上昇して幸せを感じた。
「あれ〜?もう帰っちゃったの?」
「へ?」
ジャージ姿から明星高校の深緑の制服を着た桜先輩がこっちに歩いてくる。
ネクタイは俺があげた緑のチェックだ。
「桜先輩・・・乗らなかったんですか?」
え?だって桜先輩はバレー部のマネージャーじゃないしなんたって翠の隊長なのに。
「うん。まだ亮ちゃんと一緒にいたいし。」
半分持つよという申し出にお願いする。
「じゃあ・・・桜先輩も篠宮の寮に行くの?」
一緒に体育館に向かう。
寮は確か学校の近くにあるあの大きい建物だ。
帰り道とは逆方向だし行った事もないけど遠くから見たことはある。
転校時にチラと見たパンフレットにはアパート並の整備があったはずだ。
「ざこ寝は勘弁なんだけど・・・。」
・・・うん。恵達と一緒に寝る桜先輩なんて想像できない。
「・・・じゃあ・・・俺ん家来る?」
「え?」
キラキラと目を輝かせて桜先輩は俺を見た。
「母さんも喜ぶと思うし・・・。」
「うん!亮ちゃんの家行きたい!!」
外靴を脱いで体育館に入る。
「じゃあ、待ってて!俺も着替えてくる!」
ひんやりする床を蹴って更衣室に急いだ。
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元気に走っていく亮を微笑んで見送る。
そして桜花は一つ息を吐いた。
「はぁ。」
その息はとても熱っぽいものだ。
変わってなかった・・・。
桜花は思った。
いや、身長も伸びてたし雰囲気も少し大人びたような気がする。
でも、本質は変わってなかった。
桜花はこの日を誰よりも待ち遠しく思っていた。
顔には出ていないが亮を見たときは鼓動がありえない速さで鳴っていたのだ。
自分の知らない人の中にいる亮を見つけたときは少々の不安が心の隅でうごめいた。
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅