RED+DATE+BOOK005
じぃんと心に染み渡る言葉。
俺はこんなにみんなから愛されてる。
こんなに、こんなにいっぱい!
「嬉しいよ・・・俺も・・・みんなに会いたかった!」
じわりと滲む涙は何度拭いても零れ落ちる。
だけどこの涙は全然しょっぱくなかった。
「うざ・・・。」
「ね〜。人の学校来てどういうつもりなのかな?」
こそこそと、しかし何故かよく通る声で聞こえてくる音。
ピタリ、とソレまでの空気が変わった。
俺もその声を聞いた。
「あ〜・・・此処じゃなんだから外出る?」
勿論これは俺だから言われる言葉だ。
俺は居た堪れなくて、むしろ篠宮学園でこんな風に言われている俺が恥ずかしくて提案する。
「むしろさぁ、青木君とのキス写出回ったのによく彼女なんかと堂々とキスできるよね?」
「言えてる!っていうか誰でもいいんじゃない?」
「あは!淫乱って奴だ!」
耳から耳に出てくのに通るたびにそれはぐさりと何処かを傷つけていく。
それでも俺は今が大事だから。
「みんなは何時頃戻るの?今日中に帰るって聞いたんだけど?」
やまにゃんに笑顔でそうたずねれば彼は悲しそうな、気まずそうな顔を苦笑に変えて俺を見てくれた。
「そうですね・・・後30分位で出なくてはならないと思います。」
「え!?もうそんな・・・「今の言葉、もう一回言ってみなよ?」
・・・・・・・・・。
幻聴じゃない。
この声は・・・
「桜先輩っ!いいで・・・むぐ!」
思ったとおり。
桜先輩は先ほどまでこそこそと内緒話に華を咲かせていた二人に絡んでいた。
俺は慌てて桜先輩を止めようとするが大きな手に口を押さえられてしまう。
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振り向けばやまにゃんが先ほどより安心した顔で苦笑していた。
おい!黒縁眼鏡!安心した顔してる場合じゃないって!
「ねぇ?誰が彼女だって?篠宮の学生って馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどマジで馬鹿だったんだね?」
「ちょ・・・!!!誰が馬鹿だって!?」
桜花の挑発が上手いのか沸点が低いのか直ぐにのってくる篠宮生徒。
「だって女と男の区別もつかないんだもん。動物だってそのくらい出来るよ?」
ははっ、ってどう見ても嘲るような笑い声を立てる桜花。
言われたほうはびっくりするように目を見開いて次いで顔を真っ赤にさせた。
そりゃ・・・宮先輩だって女に間違ったんだ。
桜先輩は中性的な顔をしていてむしろそこいらの女性より美しいし艶めかしい。
間違う方が当たり前なのだが・・・。
「じゃ・・・じゃあ!アイツはやっぱり淫乱だ!!」
「アイツって亮の事?」
「そうさ!お前アイツの彼氏なのか?アイツはこっちの学校じゃ誰にでも尻尾振ってるよ!困ってるんだ。つれて帰ってくんないかな?」
尻尾ってっっ!!!
俺は犬か何かか!?
「青木君とキスしてる写メールも出回って・・・本当に迷惑してるのは青木君なんだ!僕達にだっていい迷惑だよ!」
う・・・コレは否定できない・・・。
桜花は何も言わず興味無さそうな目でソレを見ていたが相手が言い終わるのを見ると「ふ〜ん。」とやはり無関心な相槌を打った。
「先ず、俺は亮の彼氏じゃないよ。彼氏、なんて別れたらそれでさよならみたいな脆い関係になった覚えはない。次に、連れて帰れるならもうやってる。で?写メ見せてくれない?」
にっこりと右手を差し出す桜花。
戸惑ったような時間が流れたが「コレだよっ!」と強気に画面を桜花の目の前に出した。
「・・・合成じゃないんだ?」
「違うよ、目撃者もいるみたいだからね。」
手に取りつつしげしげと見た後、先と代わらぬ笑顔で機械を返す。
そして
「ねぇ?君はアオキハルが好きなの?」
と聞いた。
「そ、そうだよ!」
シャン、と場の空気が変わったことに気づいたのは何人いただろう。
おそらく、俺の後ろで息を飲む音が聞こえたからやまにゃんは気づいたのだ。
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「ぼくも、ね。好きな人がいるんだ。とてもとても大事で、心は絶対傷つけたくない大事な人が。」
マリアのように、恋をする乙女のように頬を染めながら慈しむ彼。
とても可愛らしく美しい。
しかし亮は一人称が変わったことにさぁっと血の気を引かせた。
マズイ・・・桜先輩がキレた。
桜花は目の前にいた人物の腕を掴むとそのまま二段ある階段をおりて行き手すりに手をかけた。
「青木春。」
下にいた春はギャラリーのある上を向く。
「君、全然ダメだね。ねぇ、彼が亮のことなんて言ったのか分かる?」
春の隣にいる人物をじっと見た後無言で首を振った。
「淫乱だって。インラン。君とキスをして、ぼくとキスをしたから。篠宮の生徒に尻尾を振るって、彼等にとって亮はいい迷惑らしいよ。」
「っ・・・。」
今すぐにでも桜先輩を止めなきゃと思ったのだけど、足が竦む。
喉は声が出ない。
桜先輩は、みんなは篠宮でそんな風に言われる俺を見てどう思っただろう。
全身に不安が襲い掛かってきた。
同じように思ったのだろうか?
「ねぇ?君、亮がすきなの?友達なの?」
春は一呼吸置いた後「友達です。」と淀みない声で告げた。
とたん高い笑い声が響く。
「あははは!!!友達なんだ!?酷い友達もいたもんだね!彼は君が好きらしいよ。」
ねぇ?と首をかしげながら桜花は自分が掴んでる人物に顔を向けた。
「君が亮を友達だと思っていることを彼は知っているのかな?知っていて彼もこんな残酷な事をするのかな?でも、悪いのは彼じゃないよね。悪いのは全部お前だよ、青木春。」
「ちょっと!!どういうつもりだよ!!青木君に謝れよ!」
それまであっけに取られたように桜花をみていた篠宮の生徒が叫ぶ。
「なんで謝る必要があるの?ねぇ、分かってる?君は好きな人の友達を貶したんだよ?それで嫌われないと思ってる?」
彼は今、理解したという表情に変わり無意識なのか口を押さえた。
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「嫉妬したんでしょ、亮に?彼の友達だっていう亮に。嫉妬は仕方ないよね?ぼくだってするもん。だけど、亮に酷いこと言うのはぼくが許さない。僕達が許さない。でも、お前はそれを許諾したんだ。」
「っ・・・違う!」
切羽詰ったような春の声。
こんな声、聞いたことない。
「違わない。お前はこうやって知らないふりをして自己満足で守った気になって逆に傷つけてる。そんな奴、亮の傍にいる資格がない。」
「桜先輩っ!」
枯れていた声はすんなり出た。
何時の間にかやまにゃんの手は俺の口から離れていた。
「亮、土下座でもしてもらおうか?」
唇は弧を描いてゾク、と戦慄するような微笑みをむける桜花。
「いい!桜先輩言いすぎだ!」
「どこが?早く膝着きなよ。」
桜先輩の目は据わっていて俺の制止なんて聞きやしない。
それは春も同じで・・・。
「春っっ!!?」
状態を低くして膝を着くクラスメート。
嫌だ!
こんなの俺は嬉しくない。
「やめて春っ!」
春は俺の言葉なんて聞こえないように両膝を着いた。
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅