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RED+DATE+BOOK005

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殴られた箇所がズキと鈍い痛みを呼び起こした。
「亮は?」
「俺は・・・最初に殴りました。」
最初に手を出した方が悪いなんて、そんな法則どこから生まれたのか。
和哉は未だ厳しい顔で二人を見下ろす。
「外で走って来い。一時間したら戻れ。」
「っはい!」
ダッシュで逃げるようにその場から走り出す。
座敷を出てランニングシューズを履き外へと躍り出た。







「あ、おかえりなさい。」
同時刻、楓は部屋のインターフォンを押した人物を部屋に招いていた。
「おじゃましまーす。」
ずかずかと歩いていきソファーに座る。
奥のキッチンからは春がひょこと顔を出してまた背を向けた。
楓の部屋に泊まることになった桜花であるが、楓は春と同室である。
寝室こそわかれているが共同スペースとしてリビングのような部屋が設けられていた。
「亮には会えました?」
桜花は数十分前亮に会いに行くと部屋を出て行った。
しかし返ってきたのは重たいため息。
「青木春、俺に紅茶淹れて。」
「…………。」
春は顔だけこっちを向けて少し頷き楓を見る。
「僕はいいよ。」
「わかった。」
桜花は腕を組み足を組み考え込む。
楓はそんな様子に首をかしげた。
さらり、と薄茶色の髪が流れる。
「……ねぇ。」
伏し目がちに桜花はぼう、と机を見つめる。
「ここにはどのくらい亮の味方がいるの?」
「え?」
「俺が見た限りじゃ…凄く少ない。」
「…………。」
楓は何も言えなかった。
「ここに入ってきた時だって敵意の視線を感じた。他の学校の合宿ならこうはならなかっただろ?」
「それは…。」
「亮はそんなに悪いことした?」
問い詰めるわけでもなく桜花は淡々と言葉を溢す。
「してない。亮は何もしてない。」
カチャンと紅茶が入ったカップとソーサーが置かれた。
春が楓の隣に腰をかける。
「味方は多分部活とクラスメートくらい。後は数人。」




指折り数えるのは直ぐにおわる。

「そう…それでその味方の殆どは京派なんだろ?お前達みたいに。」

「っなんで…!?」

それを知ってる?

楓は驚愕の表情を浮かべ桜花を見た。

些か顔色は悪かった。

「調べた…ってより聞いた。」

カチャンとカップを置いて口を開いた。

「篠宮京。篠宮学園、学園長の一人息子。一、生徒でありながら学園内の影響力が凄まじく、中等部、高等部、に約80%のシンパシーがいる。規則さえ彼を縛る事は出来ない…。とは言ってもこれは表に出てないから問題にならないみたいだけどね。現在はオーストラリアに留学中でいつ帰ってくるのはわからない。そして…」

続く言葉に楓は無意識に唇を噛んだ。

「京派に属するものは彼が絶対である。」

カチャン、春がソーサーにカップを置いた。

「…ソイツ、お前達を特別視してたって聞いた。…不可侵なんだろ?京って奴以外。」

「…はい。」

「その不可侵の存在達が亮に興味を持ち彼に接触した。…確かにそれまで関係を持てなかった一般生徒がぽっと出の転校生と仲良くなったら反感を買うね。」

「…………………。」

「別に楓や青木春を責めてる訳じゃない。」

零すように桜花は話す。

「誰が誰を好きになろうがそれは勝手だ。だけど今の状況じゃ亮が理不尽だ。ねぇ、楓と青木春には発言権は無いの?決定権は?」

「僕達には…」

彼の意見に発言するなんて事はしなかった。

考えてもみなかった。

彼は正しい。

彼は絶対。

彼は僕。

それが箱庭の中で暮らしていく条件。

「した…事がある。」

ハッとして楓は春を見た。

「俺はしたことがある。アイツの言うことを破った事がある。」

「どうなった?」

「秘密を…いや、俺の中の嫌な事が学園に広まってた。アイツにも…嫌なことを言われた。」

「そう…。」

静かな沈黙が地に落ちた。

そしてそれを破ったのは彼からは発せられないだろう程の弱々しいものだ。

「俺達は亮が好きだけど…一緒には、近くにはいれない。」

寂しそうに笑う桜花に楓は息を飲んだ。

「もう守る事も導く事も支える事も出来ない。」

涙を拭う事も、

大丈夫だよと笑いかける事も、

抱きしめる事も


「だから、凄く不本意だけど、もしお前らが亮を大切にしたいなら…亮を好きなら、悲しませないで欲しい。側にいて欲しい。」

「桜花さん…。」



「もう亮が壊れるのを見るのは嫌だ。消えるのも見たくない。まだ傷さえ癒えてないのにこれ以上広げたくない。だから俺は今回此処に来たんだ。」

「それは俺達に亮を托すという事?」

「托せる器がいないけどね。まぁ、お前らしかいないんだからしょうがないでしょ。」

「俺じゃ役不足?」

「当たり前だろ。自分のファンも管理出来ないくせにお前一人に亮ちゃんは任せられない。」

「でもちゃんと気づいた…気付かされた。」

楓は桜花と春のやりとりをみて、なんだか嫁を貰いに来た人と嫁の父親だなぁと感じた。

「まぁ、どっちにしても秋と冬。」

「え?」

「得に冬、気をつけてあげて。」

「冬?亮は寒いのが嫌いなんですか?」

「亮の大切だった翔が事故にあったのが冬。去年の話。多分…亮は雪が降ったら思いだす。」

あの記憶を。

一時は消却してしまった彼の事をはっきり。

そして自分の罪を。

「だけど余計な事をしたらぶっ殺す。手、出してもぶっ殺す。」

桜花は据わった目を春に向ける。

春は少し考えてから口を開いた。

「我慢出来たらする。でも亮が嫌がらなかったら我慢しない。」

「お前本当ムカつくよね。大人しく亮には手を出さないって言えないわけ?」

「嘘はあまりつきたくない。」

「ほぅ。」

穏やかではない空気に楓は冷めてしまったであろう紅茶を煎れる為にキッチンへと向かった。

「…でも春があんなに喋ってるのってあんまりないな。」

もしかして春も桜花さんを尊敬してるのかも、そんな事を思いながら湯を沸かすのであった。




:::::::::::::::::::::::::

電灯の下二つの足音が響く。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

無言で走る二人の距離は1メールほど開いている。

熱帯夜というわけではないが夏の夜にランニングをしてれば汗もかく。

亮は背中にしっとりかいた汗とこの状況に盛大に顔を歪めていた。

燻る胸中は口に出すものかと渦巻くが比例するように黒い感情が溜まっていく。

みんな、勝手だ。

桜先輩も純平も恵も……俺も。

だけど、多分俺以外は勝手な行動に後悔なんてしてない。

いつまでもズルズル引きずってるのは俺だけだ。

俺だけ何も考えずに何も知らずに後悔の中にいる。

どこにも動かないで思い出という瓦礫にすがっている。

ズブズブと沈む思考に亮は殊更に顔を歪めた。

そこから気を反らしたのは隣の人物だ。

「怒ってるか?」

正面を向いたまま尋ねる頬は少しだけ赤い。

「……………。」

喋りたくないから返事は無言である。

「おい。」

とん、と軽く体当たりされた。

「…………。」

それでも無言でいれば今度はどん、と体当たりされる。

これには亮もプツンと頭の線が切れた。
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅