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RED+DATE+BOOK005

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「女じゃないのに。」

そこで初めて春が言わんとしていることが分かった。

「あー・・・うん。緊張する。」

「小林も?」

「うん。色っぽいよね。」

「困る。」

「うん。」

小林は青木も同じだったのか、と妙な親近感が沸いた。

それまで挨拶程度しかしてなかったが彼も亮といて気まずいなんて事があったとは。

そして何も知らない亮は頭をかきながら戻ってきた。

タオルから伸びる足は水滴が流れる。

「なんも連絡なかったー。」

タオルを取った時に顔を逸らしたのは小林だけではなかった。








「あ!!!恵!おせぇぞ!!」

恵が来たのは亮が上がってからだ。

丁度亮が髪をガシガシ拭いているときにやってきた。

「わりぃわりぃ。」

恵は悪びれもなく服を脱いでいく。

上半身を脱ぎ終えたところで恵は亮をじっと見た。

「お前・・・腹筋また割れた?」

「そういうお前は割れてねえな。」

亮はグーで腹をパンチする。

「で、こっちは?」

そして指はズボンのパンツにかかる。

「ふざけんなー!変態!」

「まぁまぁ。」

亮は必至でズボンを上げて恵は手を離さない。

傍から見ればなんとも子供っぽい光景だ。

「死ねっ!この金パが!」

最終的には亮の防御が勝った。

恵は殴られた頬に指を這わせながら睨んでくる亮の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「ばーか。」

色々な感情で述べた一言に亮は「うるせぇ!」と手を払いのけた。



::::::::::::::::

「あ・・・あれぇ?」

亮はパックを手にしながら首を傾げた。

春と別れた亮はちょっと探検してみようという気持でふらふら一階を彷徨っていた。

途中で「やっぱ風呂上りは牛乳ですよねー!」と買ったパックの牛乳を片手にぶらぶらと歩いていたのだ。

実は早々牛乳は飲み終わりゴミ箱を探しているのだが目当てのものは見つからない。

かといってここまで来て戻るのは少々もったいないである。

とは言うのも篠宮の寮は所処に絵や彫像などの装飾品が置かれてあって美術館のようなのだ。

芸術に興味があるわけではないが普段見慣れないものは目を引く。

ストローを口に咥えながらガラスケースに入った壷の前でうーん、と唸ってみたり、壁に飾ってある人物像の目を凝視してみたりしていた。

してみたらこの結果。

まんまと道に迷った。

どうやら外れに来てしまったようで人もいない。

一人頭をかきながら外をみる。

ガラス張りになったそこから見えるのは遊歩道でポツンポツンとオレンジ色の明かりが地面と外灯から灯っていた。

「あ。」

そこに心覚えのある人物。

亮はガラスに両手をつけてその人物をまじまじと見てから外に出るための扉を探した。









「じゅんぺー!!」

聞こえた声に純平はビクンと肩を揺らした。

聞き間違いであってくれと願いながら振り向くと遠くの外灯の下をひょこひょこと走ってくる人物がいた。

今、一番会いたくない人物であった。

「……。」

「はぁ…よかった!」

亮は純平の前まで行くと彼を見上げた。

「道に迷っちゃってさぁ。じゅんぺー見かけたから走ってきたんだ!すっげーのな!この道!タータン?裸足でも全然痛くねぇの!」

そう喋る亮の手には靴が片方ずつぶら下がっている。

純平は目を両手に移すと亮が汲み取ったように苦笑した。

「室内履きだからさすがに外じゃ履けないだろ?」

「・・・そうだな。」

「じゅんぺーは何してたの?あ!また自主練か?お前えっらいよな!」

「まぁな。」



:::::::::::::::::


「もう風呂入った?陸部はもっと前から合宿やってんだっけ?やばいよなあの風呂!?すっげぇの!寮になれば毎日あの風呂って凄くねぇ?」

「そうか?」

「うん!恵も驚いてたし!あ。恵っていうのは食堂で「知ってる。」

低い声が亮を遮断した。

亮は少しの違和感を覚えたがそのまま笑顔で話す。

自分の友達に他の友達を紹介するのは嬉しい。

純平と恵が友達になってくれるのだって嬉しい、そういう思いから亮は言葉を続けた。

「アイツ一緒に風呂入ろうって言ってたんだけどさー中々来なくて。じゅんぺーまだ入ってねぇなら行けばいるかも!」

「・・・・・・・・・。」

「じゅんぺーと恵、結構気が合うと思うんだよな。」

「それは、アイツが俺と似てるからか?」

「え?」

ザァ、と風が木々を揺らす。

「似てる…あー。そう言われてみれば似てるかな?どっちも…」

亮の言葉は続かなかった。

襟首を掴まれてぐぃと純平の下に引き寄せられたからだ。

つま先は付いているが彼らには5?以上の差があるから必然的に亮は無理な体勢になる。

しかしそれより亮は純平の目に息を呑んだ。

鋭く、冷たくそれでいて怒りを表すようにぎらぎらと瞳が輝いていた。

「な・・・何?」

ひく、と鳴る喉を押さえて声を絞り出した。

「お前、何がしたいんだ?」

「え?」

「好きでもねぇやつに懐いて面白いか?」

純平の言っている意味が分からなかった。

「俺がいつ好きじゃないやつに懐いたんだよっ!?」

自分を持ち上げる腕を押し手を振り払った。

二人の距離は瞬時に遠くなる。

「意味わかんねぇんだけど。」

はぁ、と亮は息をついてから戸惑う瞳で純平を見上げた。

「意味わかんねぇのはお前だろ。」

「何がだよ!?」

「お前を好きになったらお前は相手を嫌いになるんだろ?」

「っ。」

「何がしたいんだよ。」

唇を喰いしばり亮は純平を見た。

それは亮にとって踏み込まれたくない領域であり、純平はそれでもいいと許してくれた存在だ。

だから亮は純平を振り切ることは出来なかった。


:::::::::::


「・・・ごめん。俺なんか純平の嫌な事した?したら・・・謝る。」

謝るのは何の解決にもならない。

只、逃げたいだけだ。

「お前っ!!」

再び襟首を掴まる。

こんなに怒った純平は初めて見た。

「俺は・・・俺のせいで好きな、大事な人を傷つけたくないだけだ。」

ちりちり痛いのは昔の記憶と自分が純平にさせている顔だ。

「・・・・・・・・・。」

純平はパッと手を離して力が抜けたようにしゃがみこんだ。

「馬鹿みてぇ・・・。」

ずる、と最期に手が降ろされる。

亮は静かに純平の傍にしゃがんだ。

「どうしたんだよ・・・じゅんぺ。」

純平は俯いて表情が読み取れない。

「佐藤恵って本当にお前の幼馴染?」

「うん。」

「それだけか?」

「え?」

ゆっくり顔を上げた純平は泣きそうな笑顔で告げた。

「お前が好きだ。」

「だって俺は・・・」

「知ってる。知ってるから何も言うな。」

再び俯いてしまった純平、亮はドクドクなる心臓を掴みながら声を絞り出した。

どうしよう。これじゃあダメだ。

もう俺は誰も傷つけたくない。

「俺は好きになっちゃいけないんだ。」

か細い声に純平は顔を上げた。

「だって・・・俺が好きになるとその人は傷つく。周りも・・・」

視界が滲んで純平が泣いているように見える。
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅