RED+DATE+BOOK005
そんなたもっちゃんの声を背景に俺は二人の間に飛び込んだ。
「ストーップ!ストップストップ!!桜先輩!別に楓は俺になんにもしてないよ!むしろめちゃくちゃ仲良くしてるよ!!」
必至に桜先輩に詰め寄れば笑い声が聞こえてきた。
場所は後ろから。
「楓?」
「亮、大丈夫だよ。」
クスクス笑いながら楓は頷く。
「亮ちゃん、俺は別に楓のこと虐めてなんかいないよ?」
「へ?」
「楓とはメル友なんだ。友達、だから。」
「そう。あれから何回も桜さんと連絡取ってたんだ。」
「へ?」
「和哉がさ、雑魚寝はやめろっていうから楓の部屋開いてないかな〜?って思って話してただけだよ。」
「そうだったんだ・・・。」
早とちりってやつですね。
「で?楓の部屋は開いてるの?」
「羽沢、それ人に者を頼むときの態度じゃねーだろ。」
「磯部は黙ってろよ。」
「僕の部屋でよければ大丈夫です。簡易ベットもありますし。桜さんお風呂も使いますよね?」
「勿論。」
「じゃあ、案内します。」
「亮ちゃんまた来るから〜!」
ひらひらと手を振る桜花と楓を見送ってから亮は部屋に入った。
「バスタオルとタオルと下着ー。」
鞄から道具一式を出し立ち上がる。
「さぁ!風呂だ!!!」
温泉並みの風呂に入れるなんてなんて贅沢!
こんな設備があるなら寮もいい。
まぁ、入寮する金額は置いておいてだ。
「たもっちゃんはどうするー?」
恵と共に入り口に立って先輩を振り返る。
「俺は食休みしてから。はしゃぎすぎんなよ。」
既に保は雑誌を見ながら隅っこで横になっていた。
「えーっと・・・で?」
「そこ右。」
「ぐえ。」
きょろきょろすると恵が首根っこを掴んで引っ張る。
「ちょ、ちょちょちょ・・・。」
首が絞まってますがな!!
「あ。」
恵は何かを思い出したように足を止めた。
亮は慌てて体勢を立て直す。
「ボディブラシ忘れた。」
そう言えば恵は持っていた荷物を全て亮に預けた。
「とってくる。」
「全部ぶちまけておいて置いてやる。」
「やれるもんならな。」
相変わらず気の抜けた返事を返し恵は元来た道を引き返していった。
亮は悪態をついて先に風呂に入ろうと歩を進めようとして気づいた。
「・・・場所わかんねぇ。」
小さい頃の思い出といったら絶対隣にアイツがいた。
他人、と呼べる存在と多くの時間を共有していたのだ。
アイツの事なら全て知っているなんてそんな驕ったことは言わない。
それに知っているだけではどうしようもないのだ。
そこに自分がいなければどうすることも出来ない。
そんな関係に自分の存在意義はあるのか。
久々に見た幼馴染は変わっていなかった。
俺への態度だって皆への態度だって全て。
だが、変わらないことなんてない。
たとえば、彼に出来た新しい友や、それによって生じた摩擦。
亮を大層大事にしている先輩ほどではないが彼が面白くないと感じたのは十分理解できる。
それでもそこまで気になるという事はなかった。
そう、「なかった」のだ。
「どうしたー?」
寝床としている大広間に入れば保先輩が未だ雑誌を読んでいた。
チラと目をよこして再び雑誌に視線を戻している。
「忘れ物っすー。」
鞄をあされば目当てのものは直ぐに見つかった。
取っ手についている紐を指に掛けてくるんくるんとまわす。
「いってこいー。」
同じ姿勢でかけられた言葉に返事をした。
部屋を出て元来た道を進もうとすると前方から来る人物がいた。
いつの間にか自分の口元が笑みを作っているのを感じた。
「ねぇ、キノシタクン。」
亮の友達であるという彼に声をかけていた。
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「あ?」
純平は眉を寄せて自分の名を呼んだ男を見た。
確かこいつはアイツの学校の・・・。
「ちょっと時間ある?」
人の良さそうな笑顔で詰め寄る彼に純平の皺はもっと深くなった。
純平は少々考えた後、時間がないと通り過ぎようとした。
しかし低い声で付け加えられた言葉により足を止めた。
「亮のことなんだけど。」
その名前に身体が揺れた。
「どっか、静かに話せるところある?」
最初と変わらぬ笑みで恵は首を傾げた。
純平と恵は外に出て寮内の周りを歩いていた。
周りとは言っても整備された森が広がっており、遊歩道まである。
星がちらほら輝く時間帯になってはいたが地に埋め込まれたライトとデザインに凝っている外灯が配置されており暗いから困るという事は無かった。
「何の話だ?」
相手の顔を見ることなく純平は声を出した。
「いやー。亮が友達って言ってたからどんなに優しい人かと思って話してみたかっただけー。」
へらへらと笑う姿に純平は顔を歪めた。
「ってのは冗談で。」
不機嫌になったと分かったのだろう恵は苦笑して首を振り純平を見据えた。
「亮に愛してるって言ったことある?」
「は?」
乾いた疑問詞がもれた。
藪から棒に何を言い出すのだ?という表情だ。
「あれ?もしかして俺の早とちりかなぁ?」
うーん。と首を傾げる恵。
「・・・何聞きたいのかわかんねぇけど、俺は別にアイツの事なんか「ああ!」
言葉を遮ってポンと思いついたように恵が声を上げた。
「ごめん、間違えた。愛してるって言えないのか?だ。」
弧を描いた唇で弾んだ声で目はいたって冷静な恵は違う?とおどけて見せた。
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「何のことだ?」
純平は恵を睨んだ。
頭の中はじわじわと頭痛ともいえない痛みがせり上がってきそうだ。
亮がコイツに言った?
コイツは誰だ?
亮の何だ?
「うーん。そうだよな。簡単には教えてくれないよな。」
恵は納得するように頷いた。
「俺、アイツの、亮の幼馴染なんだよ。もう十年以上一緒なのね。」
純平の疑問は聞かずとも相手がすんなり教えてくれた。
「で、亮がアンタを見る目、俺と似てたから気になった。でも、アンタが亮を見る目は俺とは違う。」
「何が言いたい?」
「亮に聞かれなかったか?俺のとこ愛してないだろ?って。好きはいいけど、愛してるじゃ、そんな重いもんはいらないって。」
頭の痛みが酷くなった気がする。
それは秘密にしていたことが当事者ではなく第三者から告げられたからだ。
漏らしたものは自分じゃなければあと一人しかいない。
「アイツが言ったのか?」
発した自分の声は驚くほど冷たかった。
「や。言ってない。俺の憶測。でもやっぱアイツ聞いたんだな。で、何て答えたの、キノシタ君は?」
「どうして俺に聞く?なんで答えなくちゃいけない?」
「どうしてって・・・先に言ったじゃん。話して見たかったんだって。まぁ、聞かなくたって答えはわかってるけどね。」
「どういう意味だ?」
「愛してないって言ったんだろ?そうじゃなきゃ、アイツが友達なんて言うはずがない。」
「・・・・・・・・・。」
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅