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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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破天荒アリス!

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アリスがゆく!(3)


 妖精に連れられて、草木でできた小さなトンネルを赤ちゃんみたいにハイハイ歩きで抜けると、そこはトンネルとはギャップのある広大な妖精の住む里だった。
 妖精の住む隠れ里には、ラッパのような形をした花が音楽を鳴らし、それに合わせて軽快に動いてリズムを取っている大きなキノコや空を飛び交う妖精たちが楽しそうにおしゃべりをしていた。ファンタスティック、まさに幻想的な世界がそこには広がっていた。
 上や下や、はたまた左右を首が痛くなり目が回ってしまうほど、まさに見回しながらアリスが歩いていると、杖を付いたちっちゃな老人がアリスの前に現れた。
 羽を生やして白ヒゲを蓄えた、ちっちゃくとも威厳のありそうな老人はアリスにしゃがれた声で話し掛けてきた。
「わしはこの里で長を務めておる者じゃ。おぬしがわしらの姫様を助けてきてくれると聞いたが、それは本当か?」
「お姫様なんて、あたしの魔法でちょちょいのちょいで助けてきてあげるわよ。まあ、アタシに任せとけばなんの問題もないわね」
「おお、それは心強いお言葉じゃ。どうか姫様のことを頼み申したぞ」
 小さな老人が何度も丁重に頭を下げるので、余計に小さく見える。
 そんなへりくだった態度の老人を腕組みをして不満そうに見つめるアリス。里の長たるものにこんなにまで頭を下げられているのにも関わらず、アリスは何に対して不満なのだろうか?
「こんな可憐でか弱そうなこのアタシが、危険を冒してお姫様を助けに行くんだから、ほら、何かあるでしょう?」
 もし、本当にか弱いのなら、お姫様を助けには行かないと思う。それにアリスがか弱いなど到底思えない。
 何かと言われても老人には心当たりがない。困惑してしまうばかりだ。
「何かと申しますと?」
「ほら、見返りとか、財宝とか、地位や名誉に権力とか、家とか車とかブランド品とか……いろいろあるじゃない」
 いろいろあり過ぎだ。
 老人は少し困惑したが、近くにいた妖精に言い付けてつるぎを持ってこさせた。
 妖精たちは5人がかりでつるぎを持ってくるとアリスに手渡した。
「その剣はこの里に伝わる宝剣じゃ。これを差し上げる代わりに姫様を助けて下さらんか? もし、姫様を助けてきてくれた暁には、山ほどの財宝も差し上げましょう」
「まあ、しょーがないわね。今のところはこれで」
 アリスは宝剣を鞘から抜くとぶんぶんと片手で振って見せた。
「重いわね、これ」
 実は片手で女性が振り回せる品ではないのだが……アリスはそれをぶんぶん軽がると振り回している。この剣の重さ実に10kg以上はあるはずなのだが……アリス恐るべし。
 アリスは剣を振っていてあることを思い出した。そう言えば絵本の中でこの剣を使って王子さまが悪い怪物を倒したような記憶がある。
 だが、剣は受け取ったものの、自分はこの場ではチョー可愛い美少女魔法使いという設定なので、剣ではなくて魔法の杖はないのかと尋ねてみた。
「あのぉ〜、あたし魔法使いだから、剣じゃなくって魔法の杖が欲しいんだけど?」
「残念ながら、魔法の杖はこの里には御座いません」
「……気が利かない夢だなぁ」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、別にこっちの話ですから」
 自分の夢のクセしてなんて融通の利かない夢なんだとアリスは心の中では腹が立っていた。夢に腹を立てても仕方がないと思うが?
「今日のところはこの里でお休みになられて、明日の朝出発なさると良いでしょう」
 老人はそう言うと、遠くにいた妖精を大声で呼んで手招きをした。
「おーい、パックや。こっちにおいで」
 老人の声を聞きつけた可愛らしい男の子の妖精は慌てたようすですっ飛んで来た。
「な、なんですか?」
「お前にこの方の世話を任せるのでな、失礼の無いようにするのじゃぞ」
「えっ、俺が? ヤダ……っ」
 男の子の妖精は慌てて一瞬口を押えると、すぐに再びしゃべりはじめた。
「喜んでお受けします」
「嫌なら他の者に代えてやってもよいぞ」
「俺がやります」
 老人は再びアリスのほうへ顔を向けると、
「不束者[フツツカモノ]じゃが、きっとお役に立つと思いますじゃ。わからないことがあればこの者に聞いてくだされ。では、わしは家に戻りますので、これで失礼されて頂きます」
 老人はアリスに深々と頭を下げて、ふわふわぁと家に飛んで帰ってしまった。
 残されたパックは嫌な顔をしながらもアリスにあいさつをしてきた。
「俺の名前はパック、よろしくな。で、あんたの名前は?」
「アタシはアリス」
「アリスねえ……確かに顔は可愛いけど、遠くから長老様とのやり取りを見ていた限りは性格悪そうだな」
 勘が鋭い妖精だ。いや、勘がどうこうではなく、あからさまにわかることかもしれないが……。
「あんたねぇ、ちょっと態度デカイんじゃないの? あんたらのお姫様助けに行ってあげるのよ、このアタシが!」
「うわっ、やっぱ性格わりぃな。こんな奴の世話役なんてまっぴらごめんだぜ」
「だったら、別に世話なんてしてくんなくてもいいわよ」
「長老様の命令だからしょうがねぇだろー」
 どっちもどっちだ。どちらとも性格が悪いと思われる。
 アリスのお腹が突然、ぐぅと鳴いた。 
「なんだ腹減ってんのか?」
「そうよ、悪い? 本当は今日ケーキ食べに行くハズだったのよ」
「ケーキが食いたいのか?」
「そうよ」
「だったら早く言えよ」
「えっ?」
「着いて来い」
 パックは自慢げな笑みを浮かべるとさっさと飛んで行ってしまった。
「待ってよ!」
 アリスは剣を鞘に収めて急いでパックのあとを走って追った。
 相手は小さな妖精だというのに移動するスピードが速い。きっと、飛んでいるせいなのだろうがアリスにしてみれば。あんたね、自分勝手もいい加減にしなさいよ、あたしは普通の人間で羽根なんて生えてないんだから、もっと気を使いなさいよ。と言った感じの表情をしている。表情をしているだけで本当にそう思っているかは別である。
 だいぶ走ってついた場所は、御菓子がたくさん置かれたお菓子屋さん風の場所だった。
「アタシこの世界のお金なんて持ってないわよ」
「お金? ああ、人間の世界じゃそんなのがあるんだっけか。けど、この里じゃお金なんて物は存在しないのさ」
「じゃあどうやって買うのよ?」
「買う? 買うなんてとんでもない。お金が無いんだから買うわけないだろ。バカだなぁ」
 バカという言葉を聞いてアリスのこめかみに血管が浮いた。今の一言はそーとー頭にきたらしい。
「今日はねぇ、図書委員の仕事で呼ばれてケーキは食べにいけないわ、本棚の整理してたら本の下敷きになるし、こんな世界に来るはめになるし、今は長い距離走らされて、終いにはバカ呼ばわり? ふざけんじゃないわよ!!」
 アリスの両手は小さなパックの身体を握りつぶすかの如く、パックの身体を強く握っていた。
「まあ、まあ、放してくれよ。いいこと教えてやるからさあ」
 パックの身体から手がすっと放された。アリスは『いいこと』という言葉に弱かった。
「何いいことって?」
「この里にある物は人間の世界の言葉でいうとタダなんだよ」
「えっホント!? タダ!?」