破天荒アリス!
まあ、とにかく王子はまだ生きてるみたいだし、どーせこれ夢だし、などどアリスは思って王子をそのまま森の中に放置しておくことにした。
「どーしよ」
アリスはこれから何をしようと考えた。王子さまが妖精のお姫さまを助けに行くって言っていたから、自分が気絶した王子さまの変わりにそのお姫さまを助けに行こうと考えた。だが、どこに行ったら、そのお姫さまがいるだろうとアリスは考えたが、自分の夢なんだから、どうにかなるだろうと思い適当に歩き出した。
しばらくして、アリスの前に可愛らしいウサギが現れた。でも、普通のウサギじゃない、二本足で立ち耳の先まで入れるとアリスと同じ位の大きさで、頭には小さめのシルクハット、茶色い毛の上にジャケットを羽織り、手にはステッキを持ち、首から懐中時計をぶら下げていた。
ウサギはアリスを見ると片手を軽く上げて声を掛けてきた。
「やあ」
「こ、こんにちわ」
当然のことだがアリスはウサギと会話をしたのは初めての経験だった。
ウサギはアリスとのあいさつが終わると遠くを見つめ何かを待っているようにぼーっとし始めた。
「なにしてるの?」
「べつに」
「べつにじゃないでしょ、こんなところにいるなんて?」
「ウサギが森にいるのは普通だと思うけど?」
普通じゃないウサギにまさか普通なんてことを言われるなんて思ってもみなかった。なんか不思議な気分だ。
「あなた名前なんて言うの?」
「ウサギ」
「そうじゃなくって」
「君が人間だからボクはウサギだろ?」
「はぁ?」
ウサギの言ってることはアリスの理解の範疇を超えていた。意味がわからない。
「ボクにしてみれば世の中なんて、ウサギかそうでないかの2つに分けられるんだ」
「はぁ?」
「だからボクはウサギなのさ」
「意味わかんない」
「そうだ、ここを真っ直ぐ行くとウサギではないのがいるよ」
ウサギの持つステッキの先は森の奥深くを指し示していた。
「あっちに誰がいるの?」
「ウサギではないのだよ」
「はぁ?」
「じゃあ、ボクは紅茶を飲みにお茶会に行って来るから」
ウサギはぴょんぴょん跳ねるように二本の足で歩き、どこかに消えてしまった。
残されたアリスの頭の上には『?』マークがいくつも浮かんでいる。世の中には不思議なこともあるものだ。
「……そうだ、夢だった」
アリスは再び歩き出した。今度はウサギが教えてくれた方向に歩いてみたのだが、なにやら歌声が聞こえてくる。
今度アリスの前に現れたのは歌を歌っている以外は普通の3匹のリスだった。
「こんにちわ、あなたたち何で歌なんて歌ってるの?」
3匹のリスたちは歌うのを止め、順々にアリスの方を振り向き話し始めた。
「リスだって時には歌いたくなることだってあるさ」
「リスが歌を歌うのは変かい?」
「歌わないリスがいるんだから、歌うリスもいるに決まっているだろ?」
決まっているだろと言われても困る。歌わないリスがいるから歌うリスもいるなんて理屈今まで聞いたことがない。
「そんな理屈わかるわけないでしょ!」
また3匹のリスたちはアリスの言葉を受けて順々に話し始めた。
「わかるわけないなら、その逆もあるさ」
「わからないの逆はわかる」
「だから君もわかるさ」
余計わからなくなった。
さっきのウサギといい、このリスたちといい、この森にいる動物はみんなこうなのだろうか? だったら早くこの森から出たい、頭がおかしくなる前に……。
「この森の出口を教えて欲しいんだけど?」
またまた3匹のリスたちはアリスの言葉を受けて順々に話し始めた。
「入り口があったなら出口もあるさ」
「でも、入り口が無かったなら、出口もないね」
「出口がないなら、探しても見つからないよね」
質問をしてまともな答えが帰って来ないことは察しがついていたハズなのに、質問をしてしまった自分をアリスはひどく後悔した。
こんなリスと話していても日が暮れてしまうと思い、アリスはリスたちに何も言わず再び歩き出した。
アリスの後ろでは、またリスたちが歌を歌い始めた。
リスの歌声が聞こえなくなり程なくして、アリスの目の前に、まるで彼女を最初から待っていたように、羽を生やした小さくて可愛らしい妖精が現れた。
その妖精を見た瞬間、アリスは思わず声を張り上げた。
「あっ!!」
アリスは驚いて声を張り上げたのだが、その理由というのが、この妖精と全く同じ妖精を絵本で見たことがあるという驚きからだった。
大きな声を出して驚いたアリスに一瞬ビックリしたようすの妖精だったが、すぐに笑顔でアリスの顔の前まで羽をはためかせ飛んで来た。
「人間さんこんにちわ」
この時アリスは『ははーん』と思った。
この妖精の絵は、小さいころお母さんに読んでもらった絵本の挿し絵に描いてあった妖精と同じで、さっきの王子さまも、その絵本で見たことがあったような気がする。
絵本の話の内容と題名はよく思い出せないけど、きっとこの夢はその絵本をモチーフにしたもの何だとアリスは思った。でも、あんなウサギやリスは絶対出てこなかった。つまり絵本どおりでもないということだ。
「人間さん、あなたはなんでこの森の中にいるの」
「あたしの名前はアリス。超一流の美少女魔法使いで、妖精のお姫さまが怪物に捕まったと聞いて助けに来てやったの」
アリスはまた適当なことを言った。でも妖精はアリスの言ったこと全部を鵜呑みにしてしまった。
「それは、それは、では妖精の隠れ里まで私が案内しますのでついて来て下さい」
こうしてアリスは妖精の隠れ里まで行くことなった。
作品名:破天荒アリス! 作家名:秋月あきら(秋月瑛)