RED+DATE+BOOK04
落ち着いて、落ち着いてと手の平を突き出して二人を制するがその勢いは増すばかり。
「どうなんだよ?」
「初めてじゃないんですか!?」
「ちょ・・・うわ!!」
右踵に激痛!
ビィンと痛みを訴える感覚、転ぶ!!と言う考えが脳に伝わる前に俺は後ろに倒れた。
反射的に眼を瞑って体を強張らせた・・・のに衝撃は来ない。
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「あ・・・あれ?」
恐る恐る眼を開けて見れば両肩に置かれた手が眼に入った。
整えられた爪と綺麗な長い指。
「何をやっているんだか・・・。大丈夫かい?」
流れる銀髪が俺の頬を流れた。
「ふ・・・副会長?」
俺が転ばなかった理由、それは副会長が後ろから両肩を支えてくれたから。
会長、副会長と初めて会ったときの記憶が蘇る。
とは言っても俺は副会長とは何も関係ないのだけど。
「葵、既に集合時間は過ぎてるんだ。早く解散させて行くよ。」
会長はおー。と気の抜けた声を出して残りのメンバーの元に向かった。
「あの・・・ありがとうございました。」
なんだかわかんないけど色々助かった。
「どう致しまして、篠宮亮君。」
「え?」
副会長って夏の海よっか冬の雪原の方が似合いそうだな・・・なんて考えていたらそんな事を言われる。
「や・・・俺は齋藤・・・。」
「あ、そうだったね。齋藤亮君。」
何を意図して篠宮なんて・・・もしかしなくても俺が篠宮にいるってのはバレてる?
「おい、雅之!行くぞ!!」
自分が待たせたくせに会長はそう言うとスタスタとホテルの方に歩いていってしまう。
「じゃあ、また。」
ニコリと笑って副会長も会長に続いた。
残された俺と可奈人。
「なぁ、今更なんだけどこの学校って変だよな。」
「え?どこが?」
「無駄に顔がいい奴いすぎじゃねぇの?」
「亮くんも十分綺麗だとおもうけど。」
「冗談。」
鼻の頭で引っかかってる眼鏡を上げて俺達もホテルに向かった。
「あー。じゅんぺー!」
ロビーに行けば肩にタオルをかけてソファーに座る人物。
「お前泳いだの?」
濡れた髪をつまみ上げれば少し砂もついている。
純平は些かげっそりした顔で俺を見上げた。
「何?どうした?」
「はぁー。」
そして深い溜め息。
「じゅんぺー?大丈夫か?」
「あいつは?」
純平は俺の後ろにいる可奈人に目を走らせた。
「ああ・・・えーっと・・・友達になった。可奈人、悪ぃけど先に部屋戻ってて。遅くなるかもしんねぇけど・・・。」
「うん。大丈夫だよ。一応鍵は貰っていくね。」
「待った!ケー番交換しておく。」
赤外線で通信して別れる。
「で?どーしたじゅんぺ?」
ソファーの向かいに座れば再び純平は溜め息を吐いた。
「お前、綾瀬と何があった?」
「え・・・。もしかして楓・・・俺の所何か言ってた?」
「って事は何かあったんだな・・・。」
純平はやはりという顔で眉を寄せた。
「何か・・・つーか、俺が一方的にキレちゃってさ・・・。」
かいつまんで事の内容を話せば純平は黙って目を閉じた。
「俺、悪いことしたって分かってるから謝りに行こうと思って。」
「そうしてくれ。」
力の無い声で即答する純平に亮は首を傾げた。
「じゅんぺーは泳いだのか?濡れてるし。」
「お前のせいだアホ。」
「はぁ!!?」
実は純平、心あらずな楓を庇って波を被ったり砂に突っ込んだりしていた。
勿論、春も同様で今頃はシャワーでも浴びていることだろう。
「なんで俺のせいなんだよ?」
「自分の言葉に責任を持てって事だ。」
こんなに影響されるのもどうかと思うが、自分もその内の一人に入りつつある。
むしろ既に入っているのか・・・。
「じゅんぺ・・・俺って違くないよな?ちゃんと篠宮の生徒だよな?」
コイツは何を言うんだろう。
先ほどまでガキのように怒っていたのに今度は不安に瞳を染めている。
「お前って本当馬鹿?だから草って言われんだよアーホ。篠宮じゃなかったら此処にいねーだろが。」
「そ・・・そうだよな。」
「お前が思ってるよりクラスの奴はお前の所認めてる。分かるだろ?」
「・・・うん。」
酷かった嫌がらせも段々減ってきている。
ヒソヒソと話す奴も少なくなった。
クラスメートは既に笑いあえるようになった。
コレだけで十分じゃないか。
亮は再びかみ締めるように頷いた。
「じゃ!俺謝ってくる!!」
思い立ったら即行動!
春と楓の部屋番号を聞いてエレベーターに急いだ。
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「202・・・202・・・。」
忘れないように口ずさみながら進む。
ふわふわの絨毯は歩き心地が良い。
そこの角を曲がればもう辿り着く。
急かす心臓に伴って足も速くなる。
一歩状態を前に出した時に次のもう一歩は踏み出せなくなった。
数メートル先には楓と春。
そしてその横には彼等の部屋。
眼に入った映像は声を奪った。
瞬時に来た道を戻る。
最初はゆっくりそして駆け出した。
顔が熱い。
胸がバクバクいってる。
どうしようどうしようどうしよう。
エレベーターに乗り込み出鱈目にボタンを押す。
動きだしたのを身体で感じてからズルズルと座り込んだ。
「うわ・・・マジ・・・?」
眼を瞑れば先ほどの光景がありありと浮かんでくる。
そう、楓と春が抱き合っていた映像が。
眼の前のボタンを押す。
すると数秒も経たないうちにドアが開いた。
「亮くんおかえりなさい!」
ニコニコと出迎えたのは可奈人だ。
亮はそれに「おー。」と気のない返事を返して部屋に入った。
「あれ・・・?亮くん顔が赤いです。」
「えあ・・・そうか・・・?」
亮は自分の頬に両手を持っていくと慌てて言葉を紡いだ。
ぐるぐると頭の中で回ってるのは楓と春が抱き合ってる姿。
「焼けちゃったんですか?」
可奈人は濡れたタオルを亮に渡した。
「サンキュ・・・。」
眼鏡を取ってソレを顔全体にかぶせる。
「・・・・・・なぁ・・・可奈人・・・。」
「はい?」
「楓と春って仲良いよな・・・。」
「そうですね。青木君と綾瀬君は中等部の始めから仲が良かったみたいですよ。」
中等部って言ったら・・・3年くらい前?
そうだ、俺が転校してきた時だって楓が一番に紹介してくれたのは春だったじゃないか。
「え・・・と・・・。」
こんな事聞いていいんだろうか?
聞いてどうなる?
どうにもならない?
そうだ、聞いても何も変わらない。
「春・・・と楓って付き合ってるのか?」
やけに震えた自分の声を遠くで聞いた。
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「え・・・と・・・。」
可奈人は一呼吸置いた後首を傾げた。
亮はその一瞬で数秒前の過去を後悔した。
聞かなきゃよかった!!
そんなの第三者じゃなくて本人に聞くべきだったんだ!
頭をもたげる罪悪感にどうしようもない胸の動悸を感じた。
「やっぱ・・・」
「おそらく・・・。」
いい。と続く言葉は可奈人の言葉によって飲み込まれた。
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅