RED+DATE+BOOK04
ドアを閉めてアイツを見る。
ヒックヒックと未だに声を引きつらせている。
少し会長が来て安心した。
あのまま泣かれていてもどうしようもなかったし自分も何がしたいのか分からない。
「お前も着替えろよ。」
ネクタイを解いてシャツに着替える。
確か・・・ハーパン持ってきたはず。
どちらも無言で着替える。
クローゼットにかけた制服。
その2つの距離がやけに離れていた。
「おせぇんだよ。」
ドアを開ければ不機嫌な顔。
「んで、お前なんで可奈人の所泣かせた訳?」
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「可奈人?アイツの名前?」
未だ準備に手間取っているもう一人はドアの向こう。
「名前もわかんねぇのか?」
「・・・・・・。」
「で?」
「あんたには関係ない。」
「へー。お前俺に向かってそういうこと言う?」
「だって事実だし。」
暫しの沈黙。
先に行動したのは葵。
両手首をつかまれたと思ったらすぐさま壁に縫い付けられた。
「何すんだっ!?」
「お前・・・そうやって全部閉じ込めておくつもりか?」
「・・・・・・。」
「自分だけの中に入って。」
「ちょ・・・何言って・・・?」
「じゃあ、お前に関係あるのは誰だ?」
「だれ・・・?」
「綾瀬か?青木か?」
春、楓?
関係?
だって彼等は友達だ。
「アイツ等には言うのか?」
「言うはずない!!」
「何故?」
なぜ?
何故?言わない?
だって・・・
だって言ったら・・・
スローモーションで頭をよぎる映像。
夢で何度も見たあの時のもの。
目の奥がちりちりする。
そして唇に柔らかな感触がした。
「ん!?」
目を大きくして現実にピントを合わせた時には咥内に異物の感触。
それが会長の舌だと気づいたのは自分のソレを絡め取られたとき。
「む・・・ぅん・・・。」
目の前には長い睫。
俺は今、コイツにキスされている。
それもディーープ!!?
腕をはって相手を突き飛ばしたいのに腕を取られている為それはかなわない。
いつの間にかに深くなった口付けで口を閉じるのもかなわない。
くちゅりと頭に響く音にどうしようもない羞恥と屈辱感が突き通った。
「ふっ・・・ぅ。」
それでもこの事態から脱却すべく足を蹴り上げた。
途端ビクリと固まる舌。
一気に口が開放されて酸素が入る。
息を止めていた事に気づいた。
「何すんだ!?」
未だ息は上がったままだが叫んだ。
「っーーーー。」
それなのに会長は片手を壁について身を縮めている。
あ。
もしかして俺蹴った所・・・。
「お・・・まえ、コレで俺と関係無いなんて言えねぇだろ?」
俯いたまま聞こえたのはくぐもった声。
「は・・・?」
「早くロビー来いよ。」
そしてそのまま背中を向けていってしまった。
歩き方はたどたどしかったけど。
「ごめんなさい・・・。」
可奈人は本当にすまなそうにして俺を見る。
どうやら集団リンチの可能性は無いらしい。
自由行動になった途端会長にファンも群がっていたし今はそれ所じゃないのかもしれない。
つーか・・・自由行動、班別にした意味ねぇし。
「・・・答えろよ。」
太陽に焼かれて暑くなっていく首の後ろを感じながらあの時の事を思い出した。
「なんで俺にあんな事したんだ?」
「っ・・・。」
なんで今更謝るなら・・・悪いことをしたと思っているのならそんな事したんだよ?
「・・・・・・・・・。」
数秒の無言の状態。
可奈人はもう一度俺の腕を取った。
「ちゃんと話します。」
向かった先はビーチにある飲食所。
海の家を超ゴージャスにしてお洒落にした感じ。
チラリとみたドリンクの値段は海の家じゃ買えない位のものでしたが。
案内された席に座る。
どうでもいいけどこの床は砂とかどうしてるんでしょうか?
ピッカピカなんですがワックスとか大丈夫なんですかね?
「あの・・・。」
床に意識が飛んでいた俺は可奈人の声で前を向いた。
「何か飲みますか?」
「いらない。」
店に入ってそれは無いだろ?と思うだろうが値段が値段だ。
いくら美味そうなアイスがあったってトロピカルジュースがあったって無駄遣いはしたくない。
第一金置いてきたし。
手ぶらな俺に気づいたのだろうか、可奈人は店員にアイスコーヒーを二つ頼んだ。
「俺、いらないって言ったけど。」
「コーヒー飲めませんでしたか?」
「そういうわけじゃないけど・・・。」
検討違いだって。
俺が溜め息を吐けば眉を寄せて俯いてしまった。
「・・・僕・・・本当にすみませんでした。」
そしてもっと深くお辞儀をする。
「ハンカチ・・・無くしてしまって・・・。」
「は?」
「探しても探してもやっぱりなくて・・・。」
その内には肩を揺らしてヒッヒッと泣いてしまう。
「お前・・・ふざけてんのか?」
「ふざけてなんかっ・・・。同じの探そうとしてたんだけど・・・まったく同じのは売ってなくて・・・。」
そりゃそうだ、あのハンカチは300円。
お金持ち様が行くような所には売ってない。
「・・・お前、制服やぶいたんだよな?」
「え?」
真っ赤な眼が大きく開かれる。
「俺が着てた緑の制服・・・。」
「や・・・やぶいてなんか!!そんな事してない!!」
あれ?
「だって・・・お前にやったハンカチが落ちてて・・・。」
何かがおかしい。
何かって・・・もしかしたらより高い確証が浮かんできてるのですが。
でも・・・待てよ!
「お前カイチョーのファンなんだよな!!!???」
「いいえ、ファンと言うほどでは・・・。」
「は?だって虐められてたじゃん。」
「あ・・・僕の父と葵さんのお父様が知り合いで・・・だから少しだけ葵さんとも面識がある位で・・・。」
「それでなんでじめられんだよ?」
そう聞けば恥ずかしそうな苦笑をした。
「父は事業に失敗してしまって・・・葵さんのお父様に援助をして頂いたりで・・・。それで葵さんと話すことがあるのですが・・・。」
なるほど、最初は対等で認められてても・・・って事か。
丁度アイスコーヒーが運ばれてきた。
可奈人はどうぞと俺にひとつを進める。
俺は遠慮なく貰ってミルクを入れた。
白い液体が黒い液体に飲み込まれていく様を見ながら考える。
部室にハンカチが落ちてたって事は事実。
だけど可奈人はそれを無くしたって言ってた。
「ちなみに・・・ハンカチ無くなったって分かったの何時なんだ?」
「その日の夕方には・・・ブレザーのポケットに入れておいたんだけど。」
こりゃ、もう決定だ。
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「はぁ・・・。」
なんだかな。
グッと疲れた。
机の上にベタッと顔をつける。
眼鏡がずれて頬に食い込むけどどうでもいい。
無駄に体力使った感がある。
今考えれば一人でムキになって人ん所泣かせて馬鹿みたいだ。
もっと早く言ってくれればこんなに疲れることもなかったのに。
・・・そうだ、なんでコイツもっと早く言わなかったんだ?
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅