RED+DATE+BOOK04
コイツ人の耳舐めやがった!!!
「すっげー顔真っ赤。もしかしてお前童貞?」
ニヤリと口の片端だけを上げて述べた言葉はそんなもの。
こういうのを開いた口がふさがらないと言うのだろうか?
言いたい事は山ほどあるのに喉から声が出なくて口をパクパクと動かすだけしか出来ない。
会長はそんな俺を見てクスリと馬鹿にしたような笑いを漏らし続けた言葉も先とあまり変わらない。むしろもっと悪い。
「なんなら俺が男にしてやろうか?ま、お前の場合処女喪失だけどな。」
「なっ!!!!」
それが日中の青い空!青い海!お金持ちのリゾート地!で言う言葉かっっ!!?
つーかそれセクハラだぞセクハラ!!
こんな事言われて黙ってられない。
おそらく今、コイツを殴ったとしても俺は悪くない!
そんな事を瞬時に考えて拳に力を入れたとき背後から「あの・・・。」と、か細い声が聞こえた。
「あ〜。お前も一緒の班だよな。」
かいちょーがその声の主に向かって言うから俺も急いで振り向いた。
俺より小さい一見大人しそうな奴。
薄茶の髪は耳が隠れるくらいまで伸ばされていてパッと見女の子みたいな容姿。
男のくせに可愛い奴ならこの学園には結構いる。
しかし、俺はその顔を見た瞬間ドクリと頭の中で心臓の鼓動を聞いた。
ソイツは眉を寄せて俯き加減になりながら口を動かしている。
否、既に俺の耳には声なんて入ってこなかった。
見覚えがあった。
今、目の前にいる男に見覚えがあった。
それはそんなに遠くない過去で。
フラッシュバックする映像。
翔の制服。
バラバラにされた俺の着ていたもの。
制服のそばに落ちていたハンカチ。
そのハンカチは俺の物だった。
けど、俺の手に返される前に他の人に渡したんだ。
ドクリドクリと心臓に血液が流れる音はやけに五月蝿い。
こいつは俺があの時ハンカチを渡した男だった。
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「なんで・・・」
無意識に身体が動いた。
「お前なんであんな事したんだよ!!!!???」
相手の首元を掴み上げる。
目を見れば俺の顔が写っていた。
「おい!やめろ!!」
後ろから羽交い絞めにされるようにかいちょーが俺を止めにかかる。
「はなせっっ!!」
もう、何をしたいのか分からない。
何故あんな事したのか?と問いただしても過去は過去だし。
それを分かってるから目の前の男を殴りたいのかもしれない。
殴ったところでもう過去なんて事はわかりきってるのだけど。
「落ち着け!!」
ぐるりと反転させられ両肩を強く握り緊められたことで俺はやっと自分が息を止めていた事に気づいた。
紫の髪の隙間から見える黒くてほんの少し茶色がたった目が俺の姿を捉えた。
瞳に写ったそれは情けない顔だ、と思った。
頭に登った血がだんだんと下がっていくのが分かる。
俺は無意識にかいちょーの制服を思い切り掴んで泣くのを堪えていた。
今の出来事をこそこそと話す回りの奴等の声が聞こえて、パッと手を離した。
「かいちょー、俺・・・ちょっと自由行動していい?」
これからホテルに行って自分達の荷物を預けその後ビーチで交流を深める予定。
そう、ジェット機に乗ったとき穴の開くほど見つめたスケジュールはもう既に頭の中に入っている。
だけど、無理だ。
少し一人になる時間が欲しい、未だ混乱している頭は時間を置けば少しはマシに働いてくれる。
「ダメだ。」
しかし降ってきたのはその行動を制する声。
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「なんで・・・だよ!?」
勝手な行動なんて許されないこと知ってたけど、察して欲しい。
冷静になりたいなんて逃げたいとあまりかわらないけどそれが必要だってことは一番分かってた。
「ふざけんなよ。こっちはスケジュール立ててあんだ。勝手な行動で規律乱すんじゃねーよ。」
その通りです。
アンタってこんなときだけ面白くも無い常識的な事を言うんだな。
「・・・分かった。」
グッと拳を握って俯いた。
前なんて向けない。
頭に残ったのはあの日の残像と直ぐ近くにいる男の顔。
ビックリしていた顔。
それを思い出す度に胸の中がドロドロしていて苦しかった。
多分憎しみとかってこういう感情なのかな、と思った。
「よし。全員揃ったな。移動するぞ。」
荷物を持って黙ってついていく。
意識したくなくても神経が男に行くのを感じた。
おそらくあっちもそうなのだろう。
空気がピリピリと肌を刺激した。
「ようこそいらっしゃいませ。」
ズラズラっと目の前に並ぶのはホテルマン。
格好からして高級さが漂っている。
ホテルマンは次々と荷物を持って背筋を伸ばして立っている。
あれよあれよと言う間に俺の荷物も無くなっていて目の前に掲げられたのは一枚のカード。
顔を上げると同時にそれは離される。
「わっ!」
反射的につまんで会長を見れば人の悪そうな顔。
「それ、お前とアイツの部屋。」
アイツ、と呼ばれた先を見て絶句。
「・・・・・・・・・。」
「仲良くやれよ。」
そんな言葉が耳を通り抜けていった。
ふかふかの絨毯に高そうな調度品。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
隣にはあの男。
俺達は一言も話さないままホテルマンに導かれるように歩を進めた。
「此方になります。」
ドアの前まで案内されてカードキーを滑らせる。
ホテルマンは荷物を置くと丁寧にお辞儀をして帰って言った。
二人だけになった空間。
「さて・・・。」
俺は目の前の男を見た。
そいつはビクッと肩を揺らし俯く。
俺とコイツを二人きりにさせた会長が悪い。
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「お前、どういうつもりであんな事したんだ?」
思った以上に低い声が出た。
再び揺れる肩。
「お前、校舎裏で絡まれてた奴だよな?」
それには恐る恐るといった感じで頷きが返された。
「俺になんか恨みでもあんのかよ?」
「・・・・・・。」
無言。
「何とか言えよっっ!!!」
相手の襟を片手で掴んで迫る。
綺麗に結んであるネクタイが少し歪んだ、掴んだ場所は皺になったかもしれない。
「ご・・・。」
かすかに、息の吐くように聞こえた言葉。
「ごめんなさぃ・・・。」
上げた顔は涙がいっぱい溜まった眼。
ソイツの身体は可哀想なくらい震えていた。
「っ・・・・・・・・・。」
思わず放してしまった手。
「ごめんなさい。ごめんなさぃい。」
涙を流しながら謝るそいつ。
今まで言おうとしてた言葉が全部なくなってしまった。
泣きたいのはコッチだ・・・。
ピーピー、と空気を破るように聞こえた音。
ドンドンとドアを叩く音も聞こえる。
俺は黙ってドアを開けた。
そこにいたのは思ったとおりの会長。
制服ではなくて私服になっている。
「何してんだよ。とっととしろ。」
会長はチラと目を左右に巡らした後それだけ言って背中を向けた。
この後のスケジュールはビーチで海水浴。
つーか・・・水着なんて持ってきてませんけど。
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅