RED+DATE+BOOK04
だけどそんな事気にならないくらい俺達は近かった。
否、気にならないってのは違うのかもしれない。
俺は、やっぱり自分の生活と違う、テレビとかでしか見たことのないような光景を見ると驚いたし。
購買でハーゲンダッツとか俺が見たこともないような菓子がふつうに置いてあったり、どうみても0一個多くねぇ?みたいな値段を見て溜息を吐いたりしていた。
だけど只純粋に笑ってられたから気づかなかったんだ。
「そうだね。」
先ほどの楓の言葉が耳に張り付いている。
彼は否定しなかった。
そこでようやく自分の心の中がわかった。
俺、否定してほしかったんだ。
只、それだけがほしかったんだ。
違うって。
楓と俺は同じだって。
「馬鹿みてぇ……。」
それでなくてもこの学校は家柄で決まっているのにそんな事を言うはずない。
ザワリと心が動いた。
不安?
そう、この気持ちを表す一番の言葉は不安だ。
それが言葉にしてしまって確信を持った。
「馬鹿みてぇ…。」
亮はそれだけ零すと穴のあくように冊子を見つめた。
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窓の外に広がる海を見てそろそろ目的地に到着したことに気づく。
マリンブルーに広がる海はキラキラと輝いている。
その反面先ほどの一件で亮の心模様は曇天。
否、大雨である。
はぁ〜・・・なんつー事言っちまったんだろ俺・・・。
本日何回目かの溜め息。
そもそも自分があんな事を言わなければ、あんなガキくさい態度なんて取らなければこんな事にはならなかった。
チラと冊子の陰に隠れて楓を盗み見すれば彼は窓の外をじっと見ていた。
はぁ・・・と再び溜め息を吐いて眼を伏せた。
僕は、何を勘違いしていたんだろう。
亮と会ったのはつい1ヶ月ほど前。
それなのに、彼は僕の中心になった。
楓は無言で窓から不思議な色合いに混じる海を眺める。
彼は僕を『友達』と言ってくれた。
それがどんなに嬉しかったか、あの時の気持ちはおそらくずっと忘れることなんて出来ない。
僕の、この切り取られた世界が意味を持った時だった。
裏のない笑顔。
心からの言葉。
だけど、彼と僕の世界は違うのだ。
そう、ちゃんと分かっていたはず。
それなのに望みを持ってしまった。
変化を願った。
他力本願な想いなんて叶うはずないのに。
そう、叶うはずなんてない。
それは彼の口からはっきり言われてしまった。
世界が違うのだ、と。
それは、例え彼が『齋藤』でも『篠宮』でも同じことなのだろう。
彼が違うといったらそれは全て壊れてしまう。
その場だけの嘘だとしたらどんなにいいだろう。
「亮、ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだよ。」
と言えば彼は許してくれる。
だけど、嘘ではなかったら?
彼の本心だったら?
それだけが怖くて聞けない。
このままでも彼が離れていってしまうのは分かってるのに。
『まもなく目的に到着しますので...。』
添乗員がマイクを持ってシートベルトの着用を求める。
楓は黙ってその指示に従った。
目の前の光景に眉をかしげる青年一人。
なんだ?
何があった?
ジェット機がついた場所は有名なリゾート地。
ホテルを出ればすぐ海がある、おそらく篠宮のプライベートビーチであろうからほぼ貸切状態だ。
いや、そんな事はいい。
問題はこの空気。
機から降りるとすぐ様割り振りられた班に分かれる。
俺は綾瀬達とは違う機に乗っていたから少し彷徨って自分の行く場所を探した。
綾瀬、に青木。
こいつ等は1年の中でも特に目立つから見当たらないという心配はしない。
それに2年の先輩も学校では知られている人物だ。
だから俺、木野下純平はなんの問題も無しに合流したのだけれど。
「・・・おい、何があった?」
どうにも重く、暗い空気は俺よりそうとう低い背丈の綾瀬から醸し出されているらしい。
「あ・・・木野下君。」
ようやく今気づきましたの顔は無理して笑ってますがバレバレ。
嘘がつけない奴だ。
むしろ・・・綾瀬はこんな風にあからさまに態度を出していたっけ?
「どうした?」
「な・・・何が?」
はい。挙動不審。
「うわっっ!!!やめろって!!」
心底嫌がる声が聞こえてきたのは3グループほど挟んだ向こう側。
その声にビクリと反応した肩を純平は見逃さなかった。
アイツか。
横目で青木を見れば彼はコクリと頷いた。
アイツ絡みねぇ。
ひょこひょこと緑の髪が見え隠れする人物は想像以上に俺達に影響を与えた。
それこそ幼少から築き上げられてきた理念を覆してしまうんじゃないかって程に。
その考え、行動こそが異質であったのにも関わらず、特定の人物が渇望していた事だったからだ。
俺のクラスがいい例である。
崇高対象者2人に干渉した新参者。
有名な家、親というだけで親衛隊なんて世間一般からはちょっと行き過ぎたものが出来上がってしまう非常識、それでも俺達にとってはごく当たり前な常識の中に生きてきたそれはタブーともとれた行動だった。
しかし、彼は受け入れられた。
そりゃあクラスにも青木や綾瀬、それに親衛隊がある人の信者など沢山いたがアイツの性格と、なんてたって、緑の髪と翠の眼がばれた時にもうそんなのどうでも良くなっていたんだと思う。
それと、青木と綾瀬達の変化。
小さい奴は初等部から同じ空間で過ごしているのにも関わらずあいつ等のあんな顔見たのははじめての人が多かった。
その変化を認め、すんなり納得したこのクラスも凄いといえようが。
「で?」
何があったのか話す様に青木に視線を送るが青木は眉を寄せたまま首を傾げる。
「・・・・・・・・・・・・。」
そうだな、お前に聞いた俺が間違ってるんだよな。
純平は痛み出した眉間を押さえて目を瞑った。
とうとう話かけられないまま降りてしまった・・・。
ジェット機を降りたらもう班行動になってしまう。
鞄がやけに重く感じるのはどうしようもない。
視線で追っているのはやはり楓。
そんな女々しい事をしている自分が滑稽に思えてくる。
ははっ・・・と口元に乾いた笑いを作った所で背中に強い衝動が走った。
「いっ!!」
前に転びそうになり反射的に正面にあった背中を掴む。
「す・・・すみません!」
強く握ったせいで少し皺になってしまった所を引っ張る。
「すみませんじゃ警察なんかいらねぇよな。」
「げっ!」
クルリと振り向いたその人は篠宮学園の生徒会長様。
「げ、とは何だ?げ、とは?」
「や・・・いや・・・。」
アルカイックスマイルでにじり寄ってくるその様は怖いとしか言いようがない。
「うわっっ!!!やめろって!!」
ぐるりと首に腕を巻きつけられそのまま髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。
抵抗してかいちょーの手首を掴み動きを止めてやれば面白くなさそうな目とぶつかった。
「やめろよ!」と全て言う前にゾワリと耳に生暖かい感触。
「ひぁ!」
思いっきり腕を突っぱねて会長の身体を離す。
「お・・・おおおおおまっっ!!」
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅