RED+DATE+BOOK04
苦し紛れに笑おうとしてもそれはヒュッと喉の奥でかき消された。
胸を掴んで階段に膝を着く。
うわ・・・手触りだっていいよこの階段。
なんて気を紛らわそうともするが上手くいかない。
「いってぇ・・・。」
締め付けは酷くなるばかりで涙だって止まらない。
ああ、情けない。
もう高校になったっていうのになんで自分はこんな所で泣いているんだ?
切ない
悲しい
辛い
痛い
苦しい
悔しい
情けない
形容詞を次々上げてこの感情に名前をつける。
だけどどれも当てはまって全てを言い表すことなんて出来ない。
:::::::::::::::
「はっ・・・は・・・。」
荒い息と苦しい喉。
頭の中で考えるのは堂々巡りの感情だけ。
「あー。もうっ!」
ゴシゴシと目元を拭うが堰を切ったように涙は流れ続ける。
止まれ止まれと念じるが自分の意思では止まらない。
「どうしろって言うんだ・・・。」
ポツリとそう零した。
そして、背中から声が聞こえた。
「亮・・・?」
振り返ってみれば汗だくの純平。
「え?」
空気が固まった瞬間。
でも時間が止まったのは本当に一瞬だ。
「じゅんぺ・・・お前こんな所で何やってんの?」
純平の格好は短パンとTシャツ。
そして足はランニングシューズだ。
こめかみからは汗が流れて顎へと流れている。
「何って・・・。」
純平は人がいるとは思わなかったのか固まったまま唇だけを動かした。
しかし直ぐに顎の汗を拭い亮から眼をそらした。
「トレーニングだ。」
あ・・・そうか純平は陸上部だし・・・。
そういえば俺もボール触りたいな。
「お前・・・こそ・・・。」
「あ。」
未だ眼からはボロボロ涙が流れている。
慌てて零れた雫を手で払うが全然止まらない。
「ちょ・・・眼にごミが・・・。」
苦しい言い訳だが一時的でも胸の痛みが無くなったのは幸いしている。
だから顔の筋肉だってちゃんと動いた。
ちゃんと笑えたと思う。
「・・・青木か?」
「は?」
青木・・・はる?
「なんで?」
あー。眼を開けたままだと涙が滲むのがよくわかるね。
おいおい、俺の涙腺は壊れたか?
「なんでって・・・お前・・・じゃあ、何で泣いてるんだよ。」
「・・・・・・わかんね。」
むしろそんな理由なんて考えたくない。
考えることなんて一切したくない。
「わからねぇ・・・って・・・。」
純平は眉間に皺を寄せて亮を睨んだ。
「じゃあ泣いてんじゃねーよ。お前が泣いてると・・・調子狂う。」
「そんな事言ったって・・・止まらない。」
そう。止まらない。
壊れたんだ涙腺が。
へらって笑うと純平が困ったような苦しそうな顔をした。
::::::::::::::
「泣くな。」
後頭部を大きい手で引き寄せられる。
俺の鼻は純平の胸に当たった。
頭の中はバニラの香り。
あと純平の匂い。
「泣くな。」
優しい声が聞こえる。
心音はトクントクンって耳に落ちる。
大きく息を吸う。
優しい。
やさしい。
心地よい。
でも、悲しい。
ごめん。
ごめん。
ごめんね純平。
俺、お前を利用する。
手を純平の背中に回した。
ごめん。
「ごめん・・・。」
そう言ったらもっと強く抱きしめられた。
涙は止まった。
「・・・っ何だよこれぇぇぇ!!?」
あああああああ!!!?
だってこれ・・・!!
これっっ!!!
俺と・・・春っっ!!!!
携帯のディスプレイに映ってるのは俺と春。
俺と春のキスシーンッッッ!!!?
「な・・・!!なんで!?なんでコレっっ!!?」
コレさっきの!!
なんで純平の携帯に!!?
「回ってきた。」
純平は濡れた髪をタオルで拭きながら冷蔵庫をあけペットボトルを二本出した。
その一本を携帯を突きつけている亮に手渡す。
「あ・・・ありがと。」
「あと、氷。眼冷やさねぇと腫れるぞ。」
「ん。」
氷の入った袋を眼に当てれば気持ちいい。
「ってゆーか・・・じゅんぺー・・・これ。」
「学内メールで全員・・・つってもお前は抜いてあんのか?それで回ってきた。」
そう。
それの添付ファイルは俺と春のキスしている写メール。
先ほどのやつだ。
「なんでこんなの・・・!?」
だから可奈人も知ってたのか!?
つーか学内メールなんてあったのか・・・。
で?その学内メールっつーのは?
「全員に渡ってる?」
「多分な。」
:::::::::::::
「マジかよ・・・。これ何処から発信されてんの?」
「フリーメールだろ。」
無料アドレスか・・・。
「学内メールって・・・全員にメール送信されちゃったんだよな?春・・・も見た?」
「俺はそれ、携帯に転送してるから来た時分かったけど転送してないやつだったらログインするまでは見ないだろ。つーか・・・なんで知らねぇんだよ?」
「すんません。」
って問題はそこじゃなくて!
「俺、春に会いに行かなきゃ!」
「・・・・・・・・・。」
会いに行かなきゃ。
会いに行って・・・。
「お前・・・青木のせいで泣いてたんじゃないのか?」
「違う・・・。」
別に・・・泣きたくて泣いた訳じゃないし。
「何かあるとお前泣いてるよな。」
酷く優しい顔で純平はそう言った。
そして俺の頭を撫でた。
ぎゅーってなる。
苦しくないけど痛い。
嫌だ。
いやだ。
止めてよ。
ゆっくり、両手で純平の手首を持ち上げた。
「純平。俺、ダメだよ。」
「何が?」
純平は不思議そうな顔で俺と持ち上げられた自分の手を見ている。
「俺・・・春に言わなきゃ。好きじゃないって。」
俺とお前の好きは違うって!
「は?好きじゃない?」
「キスって好きな人とするんだろ?愛しい人とするんだろ?」
意味が無いって。
「は?」
「教えて。そうじゃなきゃ・・・。」
また傷つける。
傷つける。
「また・・・泣いてる。」
俺が掴んでるとは違う方の手で涙は払われた。
「ダメだよ。純平。」
痛いんだ。
その手。
「何が?」
「お前・・・優しいから利用したくなる。」
手を振り払われたと思ったら、
抱きしめられた。
「お前・・・馬鹿かっ?」
痛い。
痛い。
純平、ごめん。
ごめん。
ずるい奴でごめん。
気づいたよ。
俺、残酷な事してた。
最悪な事してた。
頭に浮かんだ人は皆笑顔。
だけど、俺に関わった人皆は俺が傷つけた。
凄く遅いのだけど。
「馬鹿だよ。」
今更気づくなんて馬鹿だよ。
気づかなきゃいけないのに、守られて、傷つけてた。
「利用って言うなアホ。」
「だって・・・。」
「お前、何考えてるかわかんねぇ。」
「俺だって・・・そうだ。」
純平が何考えてるかわかんない。
こんな事しなくていい。
俺なんかにしなくていいのに。
「お前の方が優しい。俺・・・どうしようもない奴だ。」
「だから!考えすぎなんだよ!アホが。」
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅