RED+DATE+BOOK04
ま。俺と春二人きりってのが幸いだけどさ。
「良かった。亮は悪くない。ね?」
そんな顔で微笑まれたら違うなんて言えないじゃないか。
「ん。」
仕方無いように笑えば春も笑った。
「おやすみ亮。」
「おやすみ。」
閉じるのボタンを押してドアを閉める。
グンと重力を内臓が感じる前に上の階に着き、ドアは開いた。
はぁ・・・。なんか今日は色々あったよな。
林間学校に来てるっつーのに肉体的疲労感より精神的疲労感の方が断然大きい。
「ふぁ・・・。」
大きな欠伸をして亮は自分の部屋のブザーを鳴らした。
「亮君っっ!!」
「おう!」
勢いよく飛び出してきた可奈人にビックリする。
「どうした!?何かあったのか?」
可奈人は逆に驚いている亮を見ると眉を寄せて首を振った。
「なんでもないよ・・・。お茶でも飲む?」
「んー。いいや。眠いし。」
亮はもう一度大きな欠伸をすると寝室のある部屋に向かった。
「うーあー。」
訳もなく喉から声を出し、ベットに倒れる。
スプリングがギシと音を立てて亮を跳ね返し、亮はふわふわの枕に顔をうずめて大きく息を吸った。
寝心地よさそうだなこのベット。
ばーちゃんとじーちゃんが用意してくれた俺のベットもそうとう寝心地がいいんだけどこれでも安眠できそう。
あー。歯磨きしないと・・・。
でも眠・・・い?
あれ?可奈人君?何で君、人のベット入ってきてるの?
「何やってんのお前?」
「・・・・・・亮君に質問があります。」
「何?」
亮は上半身を起して可奈人のほうを向いた。
「亮君の好きな人はだれですか?」
「好きな人って・・・?楓とか?」
「違います。恋人として好きな人です。」
「恋人?いねーけど?」
「いない?それは亮君が人を好きになれないから?」
コレ俺が昼に言ったこと?
「っ・・・そう。俺、人を愛するとか恋人とか・・・無理だから。」
「無理?」
ハッとした。
コイツは、俺を好きで。
それなのに、無理だなんて。
「違うっ!違う・・・。お前を好きにならないとかじゃなくて・・・。」
何て言えばいい!?
何ていったら伝わる?
「まだ・・・俺を好きになって欲しくないんだ。スキって・・・恋人とかそういう意味で。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「意味・・・わかんないか。」
自分のいいたい事が上手く言葉に出来なくてもどかしい。
それが情けなくて俯いてしまう。
「・・・青木君とは付き合ってないんですか?」
「春?うん。友達だ。」
「じゃあ、」
可奈人を見たら可奈人の眼には零れそうな位の涙が滲んでいた。
「じゃあ、何で青木君とキスなんてするんですか?」
「あ。」
あ。じゃねぇだろ。あ、じゃ。
俺が自分に突っ込んでいると可奈人の涙は溢れ頬を濡らしていく。
「なんでっ・・・亮君は・・・ひっく・・・キスしたんですかっ?」
「それは・・・。」
つーか広まんの早くね?
ねぇ?何で部屋にいたはずの可奈人が知ってるわけ?
「お・・・俺・・・キスってあんまり重要って・・・思ってない・・・から。」
自分の語尾が小さくなっていくって分かる。
お願いだから泣き止んで!
「・・・重要じゃない?」
可奈人は零れる涙を拭くこともせず赤くなった眼で亮を見る。
「えーっと・・・スキンシップの一環・・・とか思ってる。」
「スキンシップ?亮君は帰国子女ですか?」
::::::::::::
「いや・・・違うんだけど・・・。」
何て言えばいいの?
えっと・・・
「先輩とかにされてたし。好きだからって。」
そう。桜先輩とか。
好きだからキスするんだよ、って。
「亮君は好きじゃなかったんですか?」
「俺?好きだよ。」
そういえば可奈人はまた泣き出してしまった。
「やっぱり・・・好きな人いるんじゃないですかぁぁ・・・!!!」
「は?」
え?なんで?何でそういう話になってんの?
「亮君はその先輩が好きなんですね?それなのに・・・ひっく・・・青木君とキスしたんですか?それとも青木君が好きになっちゃんったんですか?」
「ちょ・・・落ち着けって。」
「僕はっ!」
ビクッとした。
だって可奈人がイキナリ大きな声を出すから。
「僕は貴方が好きなんです。」
「っ・・・。」
この眼だ。
この真剣な眼。
俺は耐え切れなくなって眼をそらす。
「そうやって・・・逃げるんですか?」
グサッと何かが突き抜けた。
「だ・・・だから・・・ちゃんと考えるって言った!俺、お前の事まだ分からないし、だから・・・!!」
「亮君、キスなんて普通好きな人としかしません。愛している人としかしません。」
「・・・・・・・・・!」
「青木君も言ったんじゃないですか?」
春は
言ったよ。
俺は
言われたよ。
愛してるって。
「だけど・・・桜先輩だって。」
「その先輩だって・・・貴方にキスをした人は貴方を愛しているからしたんです。」
あいしているからキスをした?
あいしているからだって?
パキン
ほら、割れた。
急激に頭の中が冷たくなっていく。
ああ。冷静になれた。
あんな感情はもう沢山だ。
「俺の、好きはお前とは違うよ。」
少し笑ってそういうのだ。
「愛してるなんていらないんだ。俺の好きは、食べ物が好き、とか、動物が好きとかの奴。」
「そんな・・・でもその先輩や青木君はっ!」
「桜先輩は知ってたよ?あと、恵も、和哉先輩も・・・明星高校の俺が好きな人は知ってたよ。」
その行為に何も意味が無いことを。
::::::::::::
「それじゃあ・・・。」
「だから、幸せだろ?」
好き、なら幸せ。
愛はいらない。
可奈人は些か顔を青くして首を振った。
「わからない・・・。僕には分からないです。」
「じゃあ、無理だ。可奈人、俺を好きにならないで?」
「そんなっ!!」
残酷な事を言ってるって分かってるよ。
だけど、これは俺のルールだから。
「俺の考えは変わらないよ。ごめんな。」
「・・・・・・・・・・・・。」
可奈人は言葉を失って唖然としていた。
俺は・・・そんな雰囲気に耐えられなくなって携帯を持って部屋を出ようとした。
「亮君。」
「ん?」
振り向かないで聞いてみる。
ああ、俺を貶してくれればいいのに。
「それでも僕は・・・。」
泣いているのだろうか?
可奈人の声は酷く震えていた。
俺は最後まで聞きたくなくて部屋を出た。
ふかふかの絨毯を歩いて廊下の端まで歩いて。
そして階段を上った。
階段なら殆ど誰も使わないし誰もいないと思ったからだ。
「あーあ。」
あーあ。
心の中の溜め息はそのまま二酸化炭素になって吐き出された。
そして
「うわ・・・。」
ぼろぼろと溢れ出した涙。
急に早くなる鼓動。
切ない
切ない
きゅうきゅうなんてもんじゃない。
ギリギリと胸を締め付けるこの感覚は痛みだ。
「はっ・・・。」
呼吸すらまともに出来なくて苦しい。
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅