RED+DATE+BOOK04
ふぅとよく分からない溜め息を吐いてグラスに口をつける。
「でも抱いて欲しいって言われた。」
「げほっ・・・!!」
思わず咳き込んでしまった口を押さえる。
抱いて・・・
抱いて!?
「ちょ・・・けほ・・・それ男だよな?」
::::::::::::
「うん。」
マジ?
マジ!?なんだ!?
そりゃ明星も男子高校だったしそういうのはあったよ?
俺だって手紙とかに「抱きたい」とか「欲しい」とかその他もにゃもにゃな意味のはあったよ。
だけど、実際にそんなのありえない話だと思ってたさ!
ああ。あいつとあいつがくっついたなんて話も聞いたし、ちゃかして頑張りすぎんなよー。とかも言った。
だけど・・・
だけど・・・マジで男と男でセックスってすんだ!!?
え?まてよ・・・。だって・・・。
あそこは出る場所で入れる場所じゃねーだろ!?!!?
いやいやいやいや・・・。
すげぇ・・・。
すげーな篠宮高校。いや・・・明星もか。
で・・・春はその人抱いたの?
なんて聞けるわけでもなく亮は苦しい笑みを浮かべてこう言った。
「そっか・・・俺もこっちでキスされちゃってさ。でも男同士のキスなんて蜂に刺されたもんだよな。」
そう。
篠宮にいるからって春が同性愛を気にしてない訳ではない。
それにそんな無理やりキスされたなんて経験があったら嫌悪してない方が嘘かもしれない。
だから笑い話で飛ばそうと思ったのに春はその言葉を聞いた瞬間ショックを受けた眼をした。
表情こそは変わってないが信じられないという目をしたのだ。
「え・・・?どうした春?」
もしかして男とキスしたなんて言ったから軽蔑されてしまったのだろうか?
ソレくらい春はこういうのはダメな人間なのだろうか?
「・・・誰・・・としたの?」
「か・・・かいちょう。」
春の声は震えていて唇は殆ど動いてなかった。
そしてガクリと顔はふせられてしまった。
「は・・・はる?」
「亮は・・・」
本気で地雷を踏んでしまったのではないか?と思って嫌な汗が背中を流れる。
「亮は・・・藤堂会長を好きなの?」
::::::::::::
「いや。」
即答。
そして間。
その間で亮の脳内ではさまざまな事柄がよぎっていた。
好きなわけではない。
そう。好きでキスをしたわけではない。あれは春と同じ、無理やりの状況だ。
この中で今、問題なのはキスをしたことにある。
春がなんでイキナリあんな傷ついた顔をしたのは自分の一言が原因だったからだ。
えーっと・・・会長とキスをしたのがまずかったんだよな?
仮に春が同性愛をちょー嫌ってる人間だったらどうする?
それで友達が同性とキスをしたと。
あ。それはダメだよな。
でも・・・春も男とキスした事あるんだからどっちもどっちって事になんねぇかな?
そうだ。それに春が同性愛が嫌いでもそれを他人にまで突きつける事なんて出来ない。
それに春はそんな事しない。
じゃあ、俺はセーフって事?えーっとそうなると・・・結論としては春は友達の俺が同性とキスをしたから驚いたって事でいいのか?
あ。でもコレって俺の中じゃ結構・・・普通なんだけど・・・。
いや・・・普通っていっても所構わずなんてやんねぇけど。
これってやっぱマズイのか。
おかしいのか・・・?
以上。
「亮は・・・会長が好きじゃないの?」
顔を上げた春は先ほどよりは元気が出たみたいだ。
「うん。好きじゃない。」
「そう。」
あれ?春、機嫌直った?そう思ったが直ぐに深刻な表情になった。
「じゃあ、俺は?」
「ん?」
「俺は好き?」
俺が春の事好きって?
「うん。俺、春の事好きだ・・・。」
よ。
だけど。最後は唇にふさがれて俺の唇は『よ』の形のまま固まった。
ふに、と触れ合った唇。
いつの間にか腕は春につかまれていた。
俺は、風呂で思ったとおり、ああ・・・こいつ睫長いなんて頭で思い描いて。
でもソレは一瞬で吹き飛んだ。
「亮、俺も好き。」
「・・・は?・・・え?」
俺・・・春とキスした?
::::::::::::
「凄く好き。」
そしてまた唇は重なる。
ちゅっと短い音。
「好き。」
啄ばむようなキス。
「すき。」
「ちょ・・・まった!」
春の口を手で塞ぐ。
だけど春はその手を持って指にキスをした。
「大好き。」
「っっ!!?」
自分の顔に血液が登っていくのが分かる。
春の頬だって少し赤い。
「ちょ・・・春!キスは・・・普通は・・・常識では唇は友達とはしないよ!」
「うん。知ってる。」
「それに俺は男だし・・・。」
「うん。」
「えっと・・・だから。」
「俺は、亮が好き、触れたい。」
そっと春の手が頬に触れる。
「キスしたい。」
そして唇が重なって。
「亮が愛おしいよ。」
そういって微笑った。
「っ・・・・・・・・・!!」
かき混ぜられる脳内。
血はどっちに流れた?
待って。
愛おしいって・・・
「もしかして・・・春。」
もしかして
「俺を愛してるなんて言わないよな?」
喉がヒュッと鳴った。
そんな事
言うはずない。
だけど、俺の予想は見事に外れる。
「愛してるよ。」
そんな事、言ってはいけないんだ。
「ダメ・・・ダメだよ、はる。」
愛してる?
愛してるだって?
「何故?」
愛してるなんてダメだ。
「ダメだよ。俺も春は好きだ。だけど」
だけど
「愛してるなんてダメだ。わからない。」
分からない。
分からない?
分かってたじゃないか?
分かっていたからこそじゃ、ないか。
指が震える。
心臓が動く。
血が流れる。
どっちに?
下にだろう?
外にだろう?
それは・・・
「好き、と愛してるは違う。」
そう、好きと愛しているは違う。
全然違う。
お願い。
「違うんだよ、春。」
だから、好き。ならいい。
だけど、愛してるじゃダメだよ。
「ね、だから愛してるなんて言わないで?」
あいしてるなんて
「・・・・・・・・・・・・。」
春はじっと亮の顔を見つめると目元に口付けをした。
「ごめん、亮。泣かないで?」
「え?」
そういえば・・・映る春の顔は少し歪んでいる。
俺・・・泣いてたの?
「好きでいい。だから泣かないで?」
ね、と子供をあやすように優しい声で囁かれる。
頬を手で包まれればじんわりと心が温かくなった。
「うん。」
ごめん。
ごめんね。
コレは誰の言葉?
誰に言ったの?
そんな言葉を心で聞きながら眼を閉じた。
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「じゃ・・・俺上の階だから。」
エレベーターが開いて俺は春を見上げた。
「亮・・・ごめんね。」
「っ・・・春は悪くないだろ!悪いのは・・・」
ちゅ
・・・。
ちゅ、って・・・ちゅ、って春くん。
君、何でそんなにキスばっかり。
「キスは嫌じゃない?」
「嫌じゃないけど・・・。」
場所を考えような。場所を。
仮にもエレベーターのドアは開いているわけだし。
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅