RED+DATE+BOOK04
えへへと嬉しそうに笑う亮を髪を春はポンポンと撫でてやる。
「混まない内に入ろうぜ!」
その声で各々様々な思いをしながら立ち上がった。
「亮くん・・・気をつけてくださいね。」
「ん。流石に風呂場じゃ俺だって走らねぇよ。」
そうカラカラ笑う亮に可奈人はそういう事じゃないと心中で思いながら「いってらっしゃい」と部屋を出て行く亮を見送った。
先ほどとは違う笑顔を見せた彼は遠くから見た彼と変わりなかった。
今日一日の出来事で亮がどれだけ皆に影響を与えるか知った。
そしてその逆も。
楓との誤解が解けたら亮は本当に楽しそうに笑う。
それこそ心が晴れたとはっきりわかるように。
可奈人は自分もそんな存在になれるか・・・と考え苦笑した。
何を言うのか。
本当は謝って終わってもおかしくない筈だった。
それなのに自分の口からは恐ろしいほどするりと告白の言葉が出た。
そしてそれは否定も嫌悪もされることなくすんなりと受け止められた。
流石に同じ気持ちを返される事はなかったけれど、これは稀だといってもいい。
特に可奈人は葵を近くで見てきたのでそういう場合の結果は良く知っていた。
葵、だけではなくこの学校とも言える事だが。
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彼は優しい人なんだ。
漠然とそう思った。
人を傷つけないように、自分の考えとは違っていても拒絶をしない、理解を示そうとする。
そんな人間。
可奈人は自分もシャワーを浴びるべく浴室へ向かった。
大浴場、そこではちょっとしたパニックが起こっていた。
事の原因はひょっこり現れた緑色の頭。
それまで和気藹々と風呂を楽しんでいた篠宮男子生徒諸君に緊張が走った。
特に1年2組小林健吾なんて腰にタオルを巻いたまま固まってしまうくらい驚いた。
亮は風呂から出てきた健吾に気づくと近寄りニコリと笑った。
「小林風呂ん中どうだった?やっぱすげー広いの?」
健吾は目を丸くしたまま搾り出すような声で「うん。」と告げた。
亮は「こっちも広いのな〜。」とはしゃぎながら脱衣所を眺めている。
濡れた髪もそのまま健吾はふらふらと備え付けてある椅子に座った。
何故、彼はここにいるんだ?
そうぼんやり考えて少しのぼせてしまったのかもしれないと頭を振った。
健吾は亮の前の席である。
なのでちょくちょくと亮とは話していたし健吾は亮に好意を持っていた。
未だ学園内では様々な噂を聞くが亮と実際に接すればソレの殆どがガセかものすごく脚色を加えたものであることが分かる。
それが分かるにつれ彼に好意を抱く者が増えてきたし既に思慕を募らせている輩だっている。
何にしたって亮は目立つ。
緑の髪と天然であるという新緑の瞳。
それだけだって十分なのに顔は綺麗とも可愛いともとれるなんとも絶妙な配置なのだ。
それにあの性格。
好かれないわけがない。
その彼が何故ここにいる?
否、別に大浴場に来て悪いといっているわけではない。
ただ、彼はあまりにも無防備なのではないのだろうか。
此処は男性同士の恋愛が普通で、犯罪すれすれの出来事だってある。
隠し撮りなんて黙認され、本当の犯罪行為だって確かに存在するのだ。
一人ではなく春も一緒に来ているようだがコレではもっと目立ってしまうのではないのだろうか。
それこそ亮が全裸にでもなったらオカズにされるのは間違いなく、もっと酷ければそのまま暴走してしまう奴さえいるかもしれない。
彼はそのくらい回りに影響をあたえるのを知っているのだろうか?
健吾がそんな事を考えている内に亮は自分の荷物を鍵のついたケースに入れて上着に手をかけようとしている。
するりとTシャツを脱いで見えたのはなんとも白い肌。
脱いだものをポンとケースに入れればパパッと下も脱いでしまう。
その間約5秒。
なんとも男らしい脱ぎ方だ。
仕上げにタオルを腰に巻けばもう完璧だ。
「よっしゃ!入ろうぜ春!」
しかし春は未だシャツのボタンを外している所だ。
「え?もしかして春こういうのダメ?」
もたもたと手を動かしてる春を見かねて亮も春のシャツに手を掛ける。
「・・・ありがとう。」
するすると流れるようにボタンを外してもらい春は頭を下げた。
「んー。俺、杏那の世話でこういうの慣れてるし。」
などと言うが自分の脱衣はたたまない亮である。
ようやく脱ぎ終わった春も腰にタオルを巻いて準備完了だ。
「じゃ俺、入ってくんな!」
亮は健吾に手を振ってそのまま入浴場へ消えていった。
健吾はというとそれに手を振ったのはいいもののすぐさまその手を自分の口元に持っていった。
あれは・・・まずいだろう。
男だと思っていてもあれだけ綺麗な身体だったら邪まな感情を抱かない方がおかしいんじゃないのか!?
周りを見回せば何人かは前かがみだ。
健吾は遠い目で亮と春が向かった先を見守った。
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「うわー。気持ちいいな。」
肩まで湯に浸かった亮は大きく息をはいた。
片腕を風呂の縁に乗せて足を伸ばす。
「亮は風呂好き?」
隣には同じような体勢で春がいる。
しかし前髪が邪魔なようで後ろに流してある。
「うん。好き!春は好き?」
「うん。寮は大浴場派入ってる。」
「へー。寮にも風呂あるんだ?でも部活の後だと遅くなるよな。何時までやってんの?」
「12時には閉まる。」
「一人で入るの?」
「うん。」
春と仲がいいのはやっぱり楓くらいしか思い浮かばない。
だけど楓が大浴場に入るのは危ないし時間も合わないのだろうと亮は考えた。
「だから亮と入るの楽しみだった。」
ふ、と笑われて亮はやっぱコイツってかっこいいよな、睫長いし、と心の中で呟いた。
「それにしても・・・春って鍛えてる?」
亮はチラチラと自分の身体と見比べながら湯に浸かって歪んで見える春の身体を横目で見る。
着痩せするとは思っていたけど春の身体は思っていた以上にたくましい。
「うん。寮のジムでちょっと。」
「ジム!!?え?そんなんあんの!?」
未だ篠宮学園の全貌を分かってない亮は寮にそんなのあんなんてずりぃ!と騒ぐ。
俺・・・だってジムなんてあれば・・・
と、もう一度春の身体を見るが自分の見慣れた身体とは全然違う造りに溜め息を吐いた。
「どうやったらそんなに腹割れんだよ?」
そういう亮の腹もちゃんと六つに割れているが深さが違う。
興味津々な亮に春は真顔で亮の腹に手を伸ばした。
「亮だって割れてる。」
するっと大きな手で触られたが嫌な気分は全然しない。
「ん。だけど春の方がすげーし。」
亮も手を伸ばしては首から腹にかけて厚みを確かめるようになぞっていく。
傍から見ればなんとも危ない光景だ。
それも風呂の中で。
「やっぱ遺伝か?親父はなんか薄いんだよな。春の親父さんはたくましそうだ。」
「うん。わからないけど。だけど・・・亮は綺麗だね。」
「は?」
「身体。白いし肌もつるつるだ。」
「・・・・・・。」
作品名:RED+DATE+BOOK04 作家名:笹色紅