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RED+DATE+BOOK03

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「俺が抱っこできない杏那なんて杏那じゃない!大体親父がもっと頑張ってくれればこんな事にはならなかったんだよ。」

朝の食卓でそれもじーちゃんもばーちゃんもいるこの場では不適切な俺の言葉はさらりと流される。

「亮が杏里ちゃんに沢山愛されて産まれたんだろうね、もちろん俺も沢山愛したけど?」

爽やかな笑顔でなんつー事言うんだよこのオヤジは。

「ソレはドーモ。」

いつものパターン。

じーちゃんとばーちゃんは俺達のやり取りにニコニコ笑ってるし。

俺は心の中だけで溜め息を吐いて目の前にある食事を口に運んだ。






「じゃ、桐生さん行って来るね。」

ゆっくりと車が止められて俺は鞄を持った。

「亮君・・・無理は為さらないで下さいね。」

「・・・・・・・・・・・・。」

それは傍から見て無理をしてるって事だ。

今朝の事といい・・・俺ってそんなにまいってる様に見えるのかな?

「ん。大丈夫だって!それともそんなに体力無さそうに見える?」

体力じゃなくて精神の問題って事はおれ自身がよく解ってるけど、ここではあえてそういっておく。

「そうですね。だけど本当に・・・。」

「うん!じゃあ行ってきます!!」

まだ何か言いたそうな桐生さんに手を振って学校へ向かった。







俺が春や楓・・・その他の人気者となるべく関わらないようにして4日。

そう4日も経ったのだ。

それなのに未だに冷たい視線はなくならない。

嫌がらせはピタリと止んだが視線は消えないのだ。

むしろなんだか凄く居心地の悪い物へと変わっている。

俺がもう一緒にいないっていうのはわかってるはずなのになんで良くは為らないのか・・・?




:::::::::::::




「わかんねーなぁ。」

俺は寝転がりながら空を仰いだ。

くぅーとお腹は鳴るがあまり食欲は無い。

食べだしたら全部食べるけど食べる気がおきないのだ。

「はぁー。」

と大きい溜め息は青空に呑まれていった。

ヴーヴーヴーヴーヴー・・・!!!

「うぉ!!」

いきなりの轟音に思わずビクリと体が硬直してしまう。

犯人は携帯電話。

タイルにそのまま置いたままのそれはダイレクトに音をたてている。

「も・・・もしもし!!」

急いで耳に押し付ければ聞こえてきたのはだるそうな声。

『お前なんでそんなに慌ててんの?』

メグミちゃんこと佐藤恵君でしたー。

「なんだよ、メグミちゃんかよ。」

再び仰向けに寝転がる。

『メグミ言うなアホ。』

「アホ言うな馬鹿。」

『馬鹿はお前だろうが。』

てか、恵君。

今、俺漫才やる気分じゃないんですよ。

「何の様だよー?これから飯食うの邪魔すんな。」

『お前飯何処で食ってんの?』

「どこでもいいだろ?お前こそ今日は桜先輩や和哉先輩と一緒じゃねーの?」

『今日は違う。てかお前今話せるよな?』

「・・・なんだよ改まって。」

いつもそんな事聞かないでべらべらしゃべるだろうが。

『なんで綾瀬君達の事シカトしてるわけ?』 

「っ・・・。」

思わず息が詰まった。

「なんで・・・。」

待て、待て。何で明星にいる恵が知ってるんだよ?

俺は何も言ってねぇぞ!

『なんで。なんて事はどうだっていいんだよ。お前意味も無しでそんな事してねぇだろ?』

俺の事知ってる人で恵と連絡取れる奴。

篠宮の人間が明星と関わり合いが在るって事だよな。

・・・・・・・・・・・・。

聡部長かよ・・・。

「和哉先輩伝いだな。」

『だからそんな事はどうだっていいんだっつーの。』

「なんだって人の事を・・・。」

『だからそんな事どうだっていいって言ってんだろうが!』

キィンと耳に響く恵の怒鳴り声。

「なに・・・いきなりキレてんだよ?」

俺はドキドキと騒ぎ出す心臓を押さえるようにギュッと服の上から握りしめた。

::::::::::::::


『お前がキレさせてんだよ。で?どうなんだ?』

「っ・・・恵には関係ねーだろ?俺がこっちで何してようがお前には関係ないだろ!」

なんだか悔しくなって俺も喧嘩腰になってしまう。

『それが関係あんの。綾瀬君達から頼まれてんの。』

「なんだよそれ・・・。」

『当たり前だろうが。お前綾瀬君達の気持ち考えたか?考えなんて馬鹿な事はしてねぇよな?』

「・・・考えた。」

『だったら本人達からお前にどうこう言えるはずねぇだろ?それともお前はその気持ちさえも否定すんのかよ?』

「俺は・・・。」

『言えよ。なんでこんな行動取ってんだよ?』

知ってた。

知ってる。

楓たちの気持ち知ってる。

自分のせいで俺が離れたと思ってるから何も言わないんだ。

むしろ罪悪感を感じてるんだ。

優しい人たちだから。

コレは俺のエゴなのに。

「・・・穢されたくなかったんだ。」

よく言うよ。

自分の勝手な感情のくせに。

自分の事守りたいだけのくせに。

「俺の大切な思い出壊されたくなかったんだ。」

思い出が壊れるなんて自分次第なのに。

本当はそんな事ないってわかってるのに。

壊れるときは俺自身が否定をしたときだ。

『それってこっちの事だよな?』

俺は黙って頷いた。

声に出さなきゃ伝わらないって解ってたけど、おそらく恵ならわかってくれる。

『桜先輩はまたネクタイ送るってよ。』

「それも聞いたのかよ?」

『お前、まだ翔先輩の所・・・。』

その名前に胸が詰まった。

「違ぇよ・・・アレは只のきっかけ。そのうちにはこうなってたって。」

『嘘吐くな。バレバレなんだよ。』

「なんで嘘なんて分かるんだよ。」

『何年付き合ってきたと思ってんだよ馬鹿。それにお前嘘下手だし。』

「そんなはずない。俺の嘘は上手いはずだ。」

『下手だ。現に今破られてんじゃん。』


::::::::::::::


軽い言葉でよく言うよ。

俺が溜め込んでる言葉を。

折角隠してる言葉をわざわざ出させる事ないのに。

汚い感情を聞こうなんてしなくていいのに。

世間は優しい人間に易しくは無いのに。

それでもそんな人を惑わそうとしている俺は悪魔なのかもしれない。

「・・・大切にしてたんだ。」

『知ってる。』

「翔から貰った物だから凄く大切にしてたんだ。タイなんか初めて桜先輩から貰った物だったんだ。」

『ああ。』

「なんであんな事するんだと思う?どれだけ大切な物か分かってないのに。」

『・・・・・・・・・・・・。』

「証拠だったんだよ。翔と・・・桜先輩と、明星に俺がいたっていう証拠だったんだ。翔が俺といたって証拠だったんだ!」

『そんなん無くたって亮がいたのは知ってる。』

「違う・・・違う・・・そういう事じゃなくて・・・俺の中で大切な物が壊されたんだ。」

胸が痛い、ジクジク侵食していく。

眼の前がチカチカする。

苦しい。

苦しい。

「何の権利があって幸せな記憶を奪う?なんで・・・あの時に浸っちゃいけない?なんでっっ!!?」

優しい記憶を取り消さないでよ。

『亮・・・ちょっと落ち着け。亮。』

その声に再び光りが戻ってきた。
作品名:RED+DATE+BOOK03 作家名:笹色紅