RED+DATE+BOOK03
『まぁ、亮が何かやったらメールか電話頂戴。あとでこの携帯にアド送るから。あ?桜先輩もっすか?面倒くせぇ・・・イタ!』
どうやら時間的にももうギリギリみたいだ。
『じゃ、亮の事よろしく頼むわ。あいつ馬鹿だからなにすっかわかんねーけど間違いって気づいたら謝れる奴。コレだけ覚えといて。』
「はい。あの・・・ありがとうございました。」
『ん。じゃー。』
「さようなら。」
ツーツーと無機質な電子音が耳に入り静かに携帯を下ろした。
「で?なんやって?」
辰朗先輩が覗き込むように声をかける。
「信じろ・・・って。制服は本当に大切な物だったらしいです。亮がもう一生会えない人に貰ったやつみたいで・・・。」
携帯を持つ手が震える。
「楓・・・。」
「っ春!僕悔しいよ・・・!なんで大切な友達が僕のせいで辛い目にあわなくちゃいけないんだ!?なんでっ・・・!!」
僕が泣くのなんて間違ってる。
でも眼から溢れる涙は止まらない。
「そやな〜。俺らはある意味決められた奴としか仲良くでけへんからなー。」
「桜さんに・・・友達になるなって言われた。」
「桜・・・って和哉とよく一緒にいる桜・・・?あいつそんな事言ったの?」
「はぁ?俺は知らんでそんな奴!」
「まぁ・・・俺だって桜には一回しか会ったこと無いよ。」
「・・・・でも楓は亮と友達なんでしょ?」
春の静かな言葉に楓は顔を上げた。
「ぅん、うん!俺は亮と友達だよ!」
これがたとえ自分のエゴでも彼といた時間は大切だった。
「僕達にも非はあるみたいだしね。彼の制服・・・あの日、僕達が初めて亮君にあったのにも関わらず僕とミヤの名前が書いてあった。」
「ちゅーことは体育館にいたやつ等やな?」
「君達は亮君のことに専念しな?僕達はちょっと探りいれてみるから。」
「草も罪な男なんやな〜。」
茶化すような辰朗先輩の言葉と心強い聡先輩の言葉に楓は励まされた。
信じること・・・それがどんな事かはまだ楓にはわかってなかったけど。
「おはよー。桐生さん。」
翌日俺はすっかり熱も下がって朝のジョギングをしていた。
桐生さんはまだ6時頃だというのにもうスーツを着てピシッときめている。
「亮君、おはようございます。お身体はもう大丈夫ですか?」
「うん!薬効いたみたいだし、それに桐生さんの粥で治った!」
「それは良かったです。」
ニコリと笑う桐生さんに亮も笑い返す。
「出るまで・・・後、一時間はあるよな。俺飯食ってくんね!」
「ええ。お待ちしてますよ。」
「・・・もしかして桐生さん朝飯もひとりで食うの?」
「ええ、そうですが。」
「じゃあ、一緒に食おうぜ!じーちゃんに言っておくから!」
「えぁ?いいですよ、亮君。」
「みんなで食ったほうが美味いって!」
俺は桐生さんの手を取って家に入る。
じぃーちゃんは確かもう起きて居間にいるはずだ。
「じぃーちゃん!桐生さんも朝飯一緒でいいだろ?」
襖をスパーンと開けるとじーちゃんは俺と桐生さんをみて少し眼を大きくさせた。
「ああ。もちろんだよ。」
だけれど直ぐにニコリと笑って頷く。
「じゃ、桐生さんはここにいてよ!俺シャワー浴びてくる!」
桐生さんが何か言おうとしていたけど俺はそれに笑って風呂場に走った。
「すみません・・・慶介[ケイスケ]様・・・。」
二人だけになると桐生は難しい顔で頭を下げた。
「いいや、君が謝ることではないよ。」
「私はおいとまさせて頂きます。」
背を向けて立ち去ろうとするが直ぐに言葉がとんでくる。
「そう堅くならなくていい。亮が誘ったのだから食べていきなさい。」
「しかし・・・。」
言葉を濁すと慶介は桐生に微笑んだ。
「あの子は不思議な子だね。見返りを求めない笑顔をくれるのだから。君がいないと知ったら悲しむだろう。」
「・・・・・・はい。」
観念したように桐生は膝をつく。
「そう、亮も嬉しがるだろう。」
嬉しそうにしゃべる慶介とは裏腹に桐生の表情は晴れない。
「つかぬ事をお聞きしても宜しいですか?」
「なんだい?」
「亮君は・・・京様の事はご存知なのでしょうか?」
「私からはまだ言っていないが・・・いずれ京も帰ってくるだろう。」
「はい。」
「あの子も悪い子ではないのだがね。」
慶介は苦笑して自分の茶に口をつけた。
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「い〜い湯だな〜っと。」
本当はシャワーだけですますつもりだったのだが温かいお湯がちゃんと張ってあったので湯船でリラックスな俺。
ぶくぶくと鼻上まで沈んで眼を閉じた。
今日はいつも以上に頑張らなければいけない。
ツキン、ツキンと未だに胸は痛むけど、おそらく学校に行ったらもっと酷くなるのだろう。
でも、決めた事はもうあやふやにしていたくない。
風呂を出て、真新しい制服。
そう、篠宮の制服に着替えたらもう後戻りは出来ない。
そのくらいの覚悟を。
「今、この時間だけはちょっと惜しんでもいいよな?」
泣きそうな自分の顔が水にうつった。
「じゃあ、桐生さん行ってくんね!帰りは部活出るからその時間でよろしく・・・え〜っと8時30分過ぎかな?」
「わかりました。御気をつけて。」
篠宮学園校門前。
SHR開始時間20分前。
俺は元気よく車を飛び出した。
頭は相変わらず緑、右耳には黒と金の樹皮ピアス、左にはピンクの石が埋め込まれてる。
そして制服は濃紺。
どっからどう見ても篠宮学園の一生徒だ。
―もう、草なんて言わせません。
ふいに出た考えに苦笑した。
言わせないじゃなくて言う事もなくなるだ。
「・・・守らなきゃ。」
亮は拳を握り締めて一歩ずつ校舎に歩いていった。
「おはよー。」
いつも通り入っていけばまた俺の席には人だかり。
またかよ・・・なんて思いながら近づくとやはり机には幼稚な落書きがされていた。
「おう!草、はよ。・・・っーかやっと制服きたのか。全身緑じゃなくなったんだな。」
甲斐甲斐しく雑巾を持ちながらじゅんぺーは俺に声をかける。
「はよ。」
それに一言だけ答えた。
机には昨日制服に書かれていたような『〜に近づくな』というやつに加え、死ねだとか馬鹿だとか・・・。
まぁ、初日とそうそう変わらないもの。
「今日は除光液持ってる奴いなくてよ〜・・・しょーがねぇから俺がちょっと消しといてやった。感謝しろ!」
偉そうに笑いながらいうじゅんペーの顔から眼を逸らした。
「もう、いい。」
「は?」
「もう消さなくていい。マジックで落書きされて全部黒くなってももう、消さなくていい。」
「そ・・・そりゃあ消したらまた書かれるで苦労は無駄になるかもしらねぇけど・・・。」
「違う。そうじゃない。」
いつまでも下を向いている俺にじゅんぺーは黙ってしまった。
「じゃあ、なんだよ?」
沈黙の後に聞こえた言葉。
それに俺は答えた。
「もう、俺にかまわなくていい。俺の机から離れて、木野下君。」
極力冷たい声でそう告げた。
作品名:RED+DATE+BOOK03 作家名:笹色紅