RED+DATE+BOOK03
間違いの道でもそれが今の本心だった。
「そうですか。」
桐生さんは尚も複雑な顔で俺を見る。
多分大人なこの人は分かってるのだ。
俺が不器用な選択をしてるって、でもそれを正す事も咎める事もしない。
そんなに優しくしなくたっていいと思うのに。
「うん。心配かけちゃってごめんね。」
「そんな!」
「だから大丈夫だよ。もう大丈夫。」
俺が穏やかに笑うと桐生さんもようやく納得してくれたみたいだった。
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「お!なんや楓ちゃんも来とるやないか。」
「こんにちは。辰朗先輩。」
笑って辰朗先輩は僕の為に椅子を引いてくれた。
只今僕と春は二年ニ組にきている。
バレー部の部長、聡先輩と副部長、辰朗先輩がいる所だ。
どうやらこの二人は亮の前の学校、すなわち明星高校に友達がいるらしい。
「福野部長・・・それで・・・。」
春は聡先輩の前に立つ。
「うん。君が話したいのは和哉なんだろ?」
「はい。」
「僕も亮君の事は気になってたから。でも、どうする気なんだい?」
「・・・俺じゃまだダメなんで。」
そう言って悔しそうに唇を噛む春。
こんな春見たこと無い。
思わず僕は前に立った。
「っ僕達じゃまだ亮の事知らなすぎてどうにも出来ないんです。だから・・・!」
だから少しでも亮の事を知ってどれほどのつらさか分かろうというのか?
事の発端は自分だというのに・・・。
「っ・・・!」
視界が揺らぐ、それに気づいたのだろう春がポンポンと頭を叩いてくれた。
「てか理由なんていらねーんちゃうの?草の友達なんやから草の事心配して当たり前やろ。はよ聡も電話したれ。」
「分かったよ。」
そう言うと聡先輩は携帯電話を取り出して耳に当てた。
「・・・・・・・・・・。」
僕はゴクリと喉をならして拳を握り締めた。
「あ。もしもし〜?和哉?」
『・・・聡か?』
「そうそう久しぶり!」
和哉も教室にいるのだろうか?
ざわざわと複数のしゃべり声が聞こえる。
その中でも女の子みたいな高い声が『誰だよ〜?』と言っていた。
『何だ?』
いたって簡潔で素直な質問だ。
聡はそんな和哉に変わってないなぁと懐かしい気持ちになりながら本題に入った。
「実はね、齋藤亮君なんだけど・・・。」
『亮?やっとバレー部にいったか?・・・桜違う、亮が相手じゃない。』
亮という言葉に後ろのギャラリーがもっと五月蝿くなったのは気のせいだろうか?
「ああ、うん。昨日来てくれた。」
『面白いヤツだろう。あの運動神経はなかなかなものだぞ。』
「ねー。あんなちっちゃい身長であそこまでのジャンプ力!そして両利きなんだって?本当に素晴らしい逸材を寄越してくれたよ。」
「福野部長・・・。」
思いっきりそれた話に春が静かに圧力をかける。
「って違う違う!実は和哉と話したがってる後輩がいるんだ!亮君の事で。」
『亮の事で?』
「そう。とにかく代わるから!」
そう言って大人しく電話を春に渡す聡。
「もしもし・・・。」
『もしもし・・・。』
「・・・・・・・・・・・・・。」
『・・・・・・・・・・・・・・・。』
どちらも無言である。
「ちょ・・・春!僕が話すから!!」
慌てて僕は春の手から電話をとった。
「すみません。お電話代わりました。僕、綾瀬楓と申します。」
『・・・上野和哉だ。』
「いきなりの電話申し訳ございません。今、お時間頂けますか?」
『ああ。亮の事を聞きたいんだろう?丁度いい。』
「丁度いい?」
そう言うと電話の向こうで和哉が誰かを呼ぶ声が聞こえた。
『俺より亮の事知ってるやつがいいだろう。・・・桜は自分の飯でも食べてろ。』
ギャーギャーと文句を言ってるのが桜先輩か。
『なんで俺じゃなくて恵なのさ!?』なんて言葉が聞こえてくる。
そして次に聞こえたのがまた違う声。
『電話代わりました〜。え〜。亮の恩人すぎるほどの恩人でいくら崇め奉らってもらってもたりないくらいの・・・イテッ!ちょっと桜先輩殴らないで下さい。』
「あの・・・。」
気持ちとは裏腹な電話先のハイテンションさについていけない楓。
『すんません。亮の幼馴染の佐藤恵です。どーも。で?聞きたいことアイツの事?』
「綾瀬楓です。そう・・・亮のことを聞きたくて。」
『なんで?つーかアイツあっちでどう?』
その言葉に胸が締め付けられる思いがした。
「・・・実は・・・。」
楓は恵に水をかけられた事や昨日の制服が破られていた事について話した。
その間恵は一言も何も喋らなかった。
「そして今日は亮が学校を休んでしまって。どうしていいか・・・分からなくて。」
『へー。そんな事あったんだ?』
「はい。」
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それが亮に対してか恵を初めとした明星高校の一面かどうかは分からなかった。
『ふーん。ねぇ、桜先輩。亮あっちでいじめられてるってさ。』
少しの間があってそして地を這うような低い声が聞こえてきた。
『・・・亮の事お前がいじめたわけ?』
楓はビクリと身体を強張らせた。
声だけとは言っても相手は物凄く怒っている。
「っいえ・・・。僕じゃなくて・・・でも僕達をしたってくれてる人だから最終的には僕・・・です。」
『ふーん。でもお前亮ちゃんと友達なんでしょ?』
今度は比較的軽い声だ。
「はいっ!」
『なら・・・亮ちゃんの事信じとけば?』
「は?」
『だってあんた等が亮ちゃんの事庇えばもっといじめは酷くなるだろ?っーかさぁ、そんな事わかってんなら友達になんなよ。』
ズキリと胸が痛んだ。
電話の先では和哉や恵が「それは言いすぎだ。」と桜を嗜めている。
それに桜は「だって亮ちゃんがいじめられてるなんて我慢できない!」と反論をしているみたいだ。
『っと電話かわりました〜。桜先輩はちょっと過激すぎだからあんまり気にしないように。』
わざと明るい口調に変えてるのだろう恵が溌剌と喋る。
「・・・いえ。」
楓はざわざわする心を抑えながら声を絞り出した。
『あのさ、いじめ云々より・・・制服はちょっといただけなかったかもしれない。』
「先輩から頂いたって・・・。」
『そう。タイは桜先輩がやったものだから別に桜先輩がまた送る気満々だしいいんだけど、制服が・・・大月って言って大月翔先輩の方がちょっとな。』
「宝物だって・・・。」
『亮が言ってたんだな。うーん・・・翔先輩は亮をある意味救ってくれた人物なんだよ。亮が言ってないみたいだから詳しくは言えないけど。で、今翔先輩とは会えないんだ。多分亮は一生会えない。』
「そんな・・・。」
『だからダメージ受けてんならそっち。でさぁ〜これからなんてなるようにしかならねーんだから先ずは亮の出方とか窺ってみたら?あんたらが亮を心配してるってわかるしさぁ。』
「でも僕は心配してるだけで。」
『アイツそういうの分かるから大丈夫。桜先輩言ってたように信じてみるのも一つの手。別に無理にリアクション起こさなくたっていいんじゃねぇの?』
「信じる・・・。」
作品名:RED+DATE+BOOK03 作家名:笹色紅