RED+DATE+BOOK03
ハァハァ言ってんじゃねぇよ!このマッチョ!!!
気持ちよくなんてなってたまるか!!
バタバタと暴れてみるが全然ビクともしない。
「ぎゃー!!顔近づけんな!!」
頭をぶんぶん振って抵抗してると手首に激痛。
「っっ!!!」
「もうちょっと大人しい方が僕は好みだな。」
ギリリと握り締められる俺の両手首。
「いたっ・・・放せクソッ!」
「先ずは調教からかな。」
調教って俺は家畜でもサーカスの動物でもねぇぞー!!!
手に血が伝わらなくなるのを感じながら俺の身体の力もだんだん抜けていく。
「いやだぁぁぁぁーーーー!!!!」
倉庫に響く自分の声が耳に入る。
それともう一つ異質な音。
ガラガラという軽快な音と共に眩しいくらいの光が入ってきた。
「・・・はへ?」
男の向こう、倉庫の入り口に見えるのは背中に光を背負った人間。
救世主!!?メシアなの!?
ああ!天使の羽も見えるよ俺!
そんな幻覚は静かな怒りを含んだ声によって散らされた。
「何・・・してるんスか?」
其処にたっていたのは白いヴェールに身を包んだ天使様でも頭にわっかをのせたハゲでもなかった。
「じゅん・・・ぺい?」
青い体育用のジャージを着たクラスメート。
木野下純平。
茶色い髪とピアス人間のジャージ姿。うわぉ、微妙。そんな考えが頭をよぎったが決して余裕があるわけではない。
現実逃避一歩手前だ。
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俺に覆いかぶさっていた男は純平の姿を認めるといきなり態度を変わらせた。
「や・・・やぁ木野下君。」
「先輩・・・何やってんすか?」
「何・・・って別に何もやってないよ。これから出ようと思ってた所だ。」
あっさり俺を解放して変態マッチョは出て行ってしまった。
「セーフ・・・。」
俺は思わずズルズルと下がって座り込んだ。
純平はそのマッチョを睨んでいたが遠くに言ったのを確認すると俺に眼を走らせた。
「お前、何してるわけ?」
「何って・・・。」
男に襲われそうになったなんて口がさけても言えないし、春達から逃げてるなんてもっと言えない。
おそらく前者だとは見ただけでわかるだろうけど。
「・・・そういや俺と話したくないんだっけ?」
「え?」
思わず俺は目を丸くして純平の顔を凝視してしまった。
「『俺にかまうな』なんだろ。」
「っ・・・。」
そうだ。
俺は何て事を言ってしまったんだろう。
俺が純平に言ったんだ『もう、俺にかまわないで』って。
純平だけじゃなくて春にも楓にも。
それなのに彼等は・・・。
「待って!!」
背を向ける純平に思わず手を伸ばしてしまう。
俺は立ち上がろうとした。
べしゃ。
そして埃っぽい床に倒れこんだ。
「げふっ!」
「はぁ?」
亮は腹をおもいっきりぶつけた!!!
100のダメージ。
いてぇ!!
顔だけ上を向けると純平が何やってんだお前!?って顔をして俺を見下ろしていた。
なんだか下半身に力が入らない。
だせぇ!もしかして俺腰抜けた!!?
「大丈夫かよ・・・?」
そして直ぐに手を差し伸べてくれる。
「・・・なんで?」
なんで?
「何が?」
「なんでそんな事してくれんの?」
なんでそんなに優しいんだ?
「俺、純平に酷いこと言った。春にも楓にも言ったよ・・・。」
覚悟を持って言ったんだ。
もう本当に関わらないようにって。
友達を切り捨てて。
自分を守る為だけに人を傷つけた。
「ごめん。」
結局出たのはそんな言葉。
「ごめんなさい。」
謝るのは自己満足。
それでも俺の気持ちは伝えなきゃいけない。
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ポタッと黒いシミが出来る。
眼をギュッと瞑ると頬には生暖かい水が伝うのを感じた。
喉がからからで言葉が上手く紡げない。
「ごめ・・・!」
グイっと腕を引っ張られて倒れこんだ先は青のジャージ。
「・・・お前そんなに考えんなよ。」
そして苦笑まじりの声。
「そりゃあんな机にされちゃ誰だって思うことだし、それでなくてもお前噂が絶えねぇから色んな事されてたんだろ?」
「だからって・・・」
だからって俺が傷つける理由なんて無い。
守りたい物があったのも事実。
だけど、コレは他人に壊される物じゃない。
そう理解したのはついさっきなんだけど。
「しょーがねぇんだよ。」
「そん・・・な言葉で・・・すまない。」
「すむんだよ。お前は1−2のクラスメート。既にもう俺のは精算済み。」
「なんだよソレ・・・。」
「それより青木と綾瀬の方をどうにかしろよ。お前達のせいで教室が喪中みてぇだ。」
「・・・ごめん。」
やはり謝ることしか出来ない自分。
心中に燻っている感情は言葉にならないものだから。
それでもこの苦しいほどの歓喜と感謝、そして少しの悲しみは自分を守ってくれている。
「お前って不思議な奴だよな。」
ポツンと囁きかけられた言葉に顔を上げた。
「俺?」
この学校に来て何度か言われた言葉。
だけど未だにその意味は理解できない。
「この学校にお前みたいな奴いないぜ。」
「・・・・・・・・・。」
わからないから黙っていた。
そして純平は続ける。
「お前みたいに人の事気にしてる・・・優しい奴はいない。」
「俺は優しくなんかない!」
自分でも驚くくらいに出た声は少し倉庫に響いて消えた。
少しの沈黙の後、フッという笑い声がした。
「お前は馬鹿ってくらいお人よしだろ。そうとう馬鹿ってくらいに。」
「それって・・・。」
褒めてるのか?
って言うか馬鹿って強調しすぎじゃねぇの?
「どっちにしろ早く仲直りしろって事。」
純平はケラケラ笑いながら俺の頭をくしゃくしゃにした。
恵がよくやってたことだなぁ。と頭の中でぼんやり思った。
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「・・・・・・そういえばさっきの先輩だったんだろ?・・・大丈夫なのか・・・?」
大丈夫?と聞いてみてもあの時純平が来てくれなかったらどうなっていたか・・・。
思い出しただけでも鳥肌が立ってくる。
「平気だ。」
帰ってきたのは思いのほか冷たい声。
それにドキリとしながらも亮は「ありがとな。」と咄嗟に出た単語を口に出した。
「ありがとう。純平。」
もう一度意味を確かめながらちゃんと心を込めて、純平の眼を見て言う。
純平は少し止まったあと眼を泳がせて、居心地の悪そうに頭をかいた。
「お前そこから知らねぇからこんなに馬鹿なんだな。」
「・・・何が?」
馬鹿馬鹿と言われて気持ちがいいはずは無い。
しかし知らないことや誤魔化されたような物言いはやはり気になるものだ。
純平はやはりと言う顔をして近くにあった腰ほどの台に背中を預けた。
「此処は金持ちが通う学校ってのはわかるよな。」
「ああ。で、お坊ちゃま!なんだろ。」
「お坊ちゃまかどうかはしらねぇけどな。で、家でレベルがもう決まってんだよ。」
「レベル・・・?」
「例えば・・・綾瀬楓は綾瀬財閥の跡取り息子。」
「は?」
「青木は青木製薬の次男。」
「へ?」
作品名:RED+DATE+BOOK03 作家名:笹色紅