RED+DATE+BOOK03
ピタリと息の止まる音は一瞬で先ほどよりおおく胸が上下している。
吹きかけられる息が気持ち悪い。
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「義眼て知ってる?それにすれば赤も緑も黄色も青も・・・お前等がすきな会長の髪の色・・・紫だってなんだってし放題だぜ?」
襟首を掴んでいないほうの手をすっと上げるとビクリと相手の身体が硬直するのが分かった。
「痛いかもしんないけど?」
クスクスと笑いながらその手を徐々に顔に向けてあげる。
「我慢できるよね?」
自分の爪が相手の眼前に来たところでそれは止められた。
亮の手首を掴んでいるのはがっちりとした大きな手。
「止めろ。」
声は静かだが掴んでいる手は力が入っている。
手から沿うように視線を上げればそれはかいちょーだった。
そして俺が掴んでいた相手の前に立ったのは春。
思わず緩んだ手によってズルリと落ちていく身体を受け止めていた。
つい前を見れば楓が青い顔をして俺を見ていた。
眼が合ってそれは不意にそらされる。
そこで俺の頭は急速に回転し始めた。
何をやったかを冷めた頭で全身で理解したのだ。
頭の先から血がザァっと足元に向かっていく。
息が出来なくなって。
この場所から只逃げ出したくなった。
だけど全身が石になったようにピクリとも、指先でさえ動かせない。
静寂が耳の奥を痛くした。
腕の圧迫感がなくなって俺の手は重力に従うように下に落ちた。
みんなの眼が見るのがとても怖かった。
背中と手には冷たい汗。
「亮。」
前から聞こえてきた声に面白いほど身体が跳ねた。
やさしい声色が鼓膜を震わせた。
それでも俺は顔を上げられなかった。
春が動く気配がした。
「亮!」
楓が俺の名前を呼んで飛び出る。
二人が俺の前に立っている。
数秒もかからない行動なのに俺には息の詰まるほど時間の流れを感じた。
戸惑うように楓の細い指は俺の手をとった。
「亮。」
暖かい手がきゅっと指を握り緊める。
俺は反射的に顔を上げて、後悔した。
楓の眼に映った俺はとても酷い顔をしていた。
存在が醜かった。
俺のせいでみんな穢れてしまうとおもった。
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「ごめん。」
ちゃんと声が出たかは分からない。
震える唇が数センチ開いただけかもしれない。
俺は楓の手を振り切って思いっきり地面を蹴った。
今までの最高のスタートダッシュをきった。
叫ぶような楓の自分を呼ぶ声が聞こえたがそれを振り切るかのように走った。
食堂を出てやみくもに走る。
「亮!待って!!」
後ろから聞こえるのは春の声。
俺を追いかけてきたのだろう。
「来るな!」
歯を食いしばって叫んだ。
ダメだ。
ダメだ。
今、俺に触ったらみんな汚れちゃう。
俺はみんなが思っている程清くない。
ずるいし卑怯だ。
お前等みたいに優しくないんだ。
それなのに。
なんで青木君、君は俺の気持ちを察してくれないんですか??
「来るなって言われたら追いたくなる。」
チラリと後ろを見れば無表情で追いかけてくる春。
「マジ!!追いかけてこないで春!!」
「嫌だ。此処で亮を見失ったらどこかいっちゃう気がする。」
どんな理屈だよ!!?
でも俺は一人になりたいんだ。
こんな汚いままの感情と存在で向き合いたくないんだ。
「ちょっと自分探しに行くだけだから!!」
ハァハァ言って全速力で走りながら叫ぶ俺。
自分でも何を言っているのかよく分からない。
校舎内を猛スピードで突っ走る。
もちろん生徒達は驚いた顔で俺と春の鬼ごっこをみているのだろう。
「じゃあ、俺も行く。」
「一人がいいの!!」
なんて言ったら追いかけてくれるのを止めてくれるんだ!?
「一人になんてさせない。」
「なんでだよぉぉ!!?」
もう俺泣きそうです。
もちろんコンパスが全然違うのだからだんだん俺と春の距離は縮まっていく。
「くそっ・・・!!」
俺は中靴のまま外に出て雑木林になっている場所に入り木の陰に身を潜めた。
ドクリドクリと心臓は血液を運ぶ。
荒い息は口元を手で押さえてなるべく静かにしようとした。
ガサガサと走り去る音がして俺はそっと反対方向に走り出した。
なるべく音をたてないでそれも忍び足で走る。
どこか隠れる場所ないの!?
と辺りを見回せば倉庫らしきもの発見。
隊長!自分はちょっと身を潜めるであります!!
少し重い扉を開ければ石灰と土の匂い。
高飛び用の分厚いマットや陸上のスタート台が並べてある。
「体育倉庫かな。」
どっちしにろ鍵があいててラッキー。
俺が一先ずの一人になれる所を見つけて内心ホッとした瞬間、背中を圧迫されたような衝撃が走った。
「っ!!」
呼吸が一瞬止まり、前につんのめって立ててあったマットに胸を打ちつける。
急いで後ろを振り向くと光を背にして立っている厳つい男が一人。
「え?」
その男は後ろ手で扉を簡単に閉めてニヤリと笑った。
「誰あんた?」
見覚えの無いマッチョ。
俺だって男だから身体は鍛えたいと思うけど理想以上になりすぎて逆に遠慮したいと思ってしまうくらいの筋肉マンが其処には立っていた。
上腕二頭筋がピクピク動いていて気持ち悪い。
関係者以外は入るなって言われるのかとも思ったがそんな様子はさらさらない。
むしろ入り口を遮られるように立っているのだ。
このシチュエーション・・・もしかして俺ピンチ?
「君、齋藤亮君だよね?」
「そう・・・だけど。」
あれ?俺の名前知ってんの?
じゃあ、俺に用があるわけ?
ニキビ面のマッチョマンは荒い息で一人顔を高潮させながら喜んでいるようだ。
「こんな所で君に会えるなんてね。」
「・・・・・・何か用なんですか?」
普段他人から注がれる敵意の眼ではないのに何故か寒気がする。
ジリジリと近づいてくる男に俺は後ずさるがすでに背中にはマットの感触。
「俺、亮君の所前からイイと思ってたんだよ。」
「・・・はぁ。」
イイと思ってたんですか。
俺の何がイイんですかね?
「俺とイイことしよう。」
「うわっ!!!」
俺がYES・NOの返事をする前にソイツは襲い掛かってきた。
俺よりそうとう体格が良くてデカイマッチョに潰されそうになる。
ぎゃぁぁぁぁー!!!耳にかかる息が超気持ち悪ぃよぉ!!!
てか、イイことってなんですか!?
もしかして・・・
もしかして・・・
男が俺の両腕をマットに縛り付けて首筋に顔を埋めてくる。
俺、掘られそうなのー!!!?
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『レイプされたりです。』
いつぞやの桐生さんの声が頭に呼び戻される。
「嫌だぁぁ!!!」
掘られるなんて絶対無理!!
「俺ホモじゃねぇしー!!!」
「大丈夫だよ。俺上手いからね。」
耳元で生暖かくて荒い息出しながら喋らないで下さい!!
汗ばんだ頬が首に触れて超気持ち悪いですから!!
「ヤダヤダヤダ!!!マジ超ヤダ!!」
「段々気持ち良くなってくるからね。」
作品名:RED+DATE+BOOK03 作家名:笹色紅