RED+DATE+BOOK02
部長と共に先頭を走っていたはずの宮先輩が俺の隣に来た。
「まだ、大丈夫ッス。」
こんなんでも一応先輩だ。
俺だって運動部でやってきたんだから先輩には敬語を使う。
いくらむかつくヤツでもだ。
「へぇ。」
ニヤリと笑って宮先輩はペースを上げた。
「おい、ミヤ。」
それは部長のペースよりも早い。
そいつはチラチラとニヤニヤ笑いながら俺を見てきた。
兆発と受け取っていいですよね。
それに合わせて俺もペースを上げる。
宮先輩はおっ。と言う顔になって隣についた俺を見た。
後ろでははぁ・・・という溜め息が聞こえる。
多分福野先輩だ。
そして俺と宮先輩は二人でペースを上げていった。
「ハァ・・・ハァ・・・草・・・なかなかしぶといんちゃう?」
「ハッ・・・そうっスか?」
だから俺は頑張って鍛えてんだっつーの。
十周目。
部長たちのグループにもう直ぐ追いつく。
「先輩も息上がってきてるんじゃないっスか?」
したり顔でそう言うと宮先輩はあからさまに顔をしかめてもっとペースを上げた。
部長たちのグループを抜かすとき他の部員から「齋藤君頑張れ~!」や「ミヤ辛そうだぞ~!」などの
ちゃかしが入った俺への応援が飛ぶ。
「亮・・・。」
春の隣を抜かすとき心配そうな声が聞こえたから大丈夫と笑って腰を叩いておいた。
「春君、転校生はすごいみたいだね~。」
福野が春に声をかける。
それにコクンと春は頷いた。
福野も春も自分のペースを保ちながら走ってるから少し息が上がってる程度だ。
しかしコレは日々の積み重ねから成立する。
「あそこまで走れるって事は彼は運動部だったのかな?」
「っス。バレーです。」
「へぇ。どこの高校だったの?」
「明星高校・・・。」
「えっ?」
「明星っす。」
「明星・・・。」
福野はビックリした顔をしてなるほどと頷いた。
「おもしろい後輩は齋藤君の事だったのか・・・。」
ポツリと呟いて再び走ることに集中した。
「ハァハァ・・・・。」
「ハッハッ・・・・。」
「ミヤと齋藤君ラスト一周です!」
遠藤先輩の声が聞こえた。
「先輩ラストッス。」
「ハァ・・・そないな事・・・・知ってるちゅーの!」
そしてまたペースをあげる。
俺は黙ってそれについていった。
「お疲れ様でーす!」
先に宮先輩、そしてそれにぴったり着いて行って俺もゴール。
宮先輩はゼェゼェ言いながらその場に仰向けになった。
胸が激しく上下している。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
「・・・大丈夫ですか?」
俺が覗き込むと目の前で手を振った。
「ハァ・・・あかん・・・ハァ・・・しんどいわ・・・・。」
「そうっスね。コレは結構キますね。」
俺はそう言ってウィンドブレーカーを脱ぐ。
スッと肌にあたる空気は汗でベタベタしていた身体にとても気持ちがいい。
「・・・お前・・・疲れてへんの?」
「疲れてますよ。でももっと走ってたんで。」
そう言うと宮先輩ははぁ!?と言う顔になって「ありえへんわ。」と呟いた。
「ミヤ・・・大丈夫?」
ぞろぞろと走り終えた人々が集まってくる。
部長は未だに仰向けになっている宮先輩の顔を覗きこんだ。
「聡・・・こいつありえへんで。」
「うん。そうみたいだね。」
俺はゆっくりとストレッチをしていた。
「あ。春お疲れ。」
それにコクリと頷いて春も俺の隣に座る。
「ミヤ驚くなよ~。齋藤君はなんと明星高校出身なんだって。そしてバレー部!」
汗を拭きながら部長はストンと座る。
あれ?俺そんな事言ったっけ?
春が教えたんかな?
「なん・・・やって?」
「だから和哉の後輩なんだよ。」
・・・ちょっと待った・・・今。
「ぶちょー・・・今・・・。」
「なんやってーーー!!!?」
俺が聞こうとした言葉は宮先輩の悲鳴に打ち消された。
「それほんまかいな!?あの和哉と!!?」
まただ・・・。
「本人に聞いてみればいいんだよ。」
その瞬間宮先輩の顔がドアップで迫ってきた。
「お前・・・明星高校にいたちゅーのはほんまか?」
「まぁ。」
俺は腰を引きながら答える。
「じゃあ・・・二年に上野和哉[ウエノカズヤ]っていたやろ?」
やっぱり聞き間違えじゃなかったんだ!
「和哉先輩の事知ってるんですか?」
まさかこんなところで和哉先輩の名が出てくるとは思わなかった。
「知ってるも何も・・・。」
「和哉と僕は従兄弟なんだよね。」
そう答えたのは福野部長だ。
「従兄弟・・・?でも和哉先輩はそんな事言って・・・。」
「うん。和哉だしね。必要な事以外言わないから。」
それは納得。
和哉先輩は無口な人だ。
「長期の休みはこっちに来て僕と和哉とミヤで遊んだりするんだよ。」
「・・・もしかして部長と宮先輩は二年?」
「そう。それと僕の事は部長じゃなくて聡って呼んでいいから。」
「時々アイツお前の事話すねん。」
「へっ?俺の事?」
「うん。今日でなるほどなってわかったよ。」
和哉先輩・・・俺の事なんて話してたんだよ・・・?
あの人無口な癖していう事は恥ずかしいことが多いからなぁ。
本人はすっごい真面目なんだけど。
「・・・でも一つだけ気になる事があるんだ。」
「はぁ・・・。」
「齋藤君身長はどのくらい?」
「・・・165cmです。あと亮って呼んでください。」
「こないなやつ草でいいねん。って165!?お前チビやなぁ~。」
プチプチ音がしてるのは俺の頭の血管が切れてるからですか?
そうですか?
あの単語なんて聞いてません。
今言ったのはチビヤっていう単語ですよね
。
何でしょうか?
ちびり屋の省略系ですか?
先輩なんだ。
落ち着け俺!
「う~ん・・・。」
首を傾げながら俺を覗き込む聡先輩。
「どないしたん?聡?」
「いやね、和哉はその子のところアタッカーって言ってたと思うんだけど。」
「あははは!!こないなチビがネットの上に手が届くわけあらへんやろ?」
「宮・・・先輩。俺・・・チビって言われるの嫌いなんですが・・・。」
震える声をどうにか抑えて言ってみる。
「ああ?チビにチビってゆーて何が悪いねん?」
プッチーン!!!!
切れました!!
毛細血管以上に太い動脈レベルの血管が切れました!
ブチキレベルマックスです!
「アンタなぁ・・・人が気にしてることわざわざ言って喧嘩売ってんのかよ!?それも俺が嫌だって言って
ること言いまくりやがって!!ああ?てめぇみたいなでけぇ奴にはチビの気持ちなんてわかんねぇだろ
うな!だけどほんの少しでも相手の事考えてみたらそんくらい考え付くだろうが?それともお前は自分
だけの世界に生きてっと思ってんのかよ?」
「・・・・・・・・・・。」
あんぐり口を開けてる宮先輩。
うっわ。だせぇ顔。
「それとも・・・今度は俺がアンタに言ってあげましょうか?こんなチビにも負けるスタミナしか持ってな
いって?」
フフンと鼻で笑ってやれば宮先輩は見る見るうちに顔を赤く染めた。
作品名:RED+DATE+BOOK02 作家名:笹色紅