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RED+DATE+BOOK02

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「青木・・・お前いい度胸だな。」

会長が春を睨む。

「・・・・・・。」

えええ?春・・・もしかして俺を心配に思ってやってくれたのか?

「亮は殴ることは許したけどそれ以外の事は許してない。」

口調は普通なんだけど・・・これは怒ってる?

俺は春の手を自分の口からどかした。

「春、俺は大丈夫だからな。もし卒倒したら迷惑かけちまうけどどっかで休ませてくれさえすればいい

し。」

「・・・亮、違う。」

「何が?」

俺としては早く殴られてこの微妙な空間から逃げ出したいのですが。

プリンだってまだ一口しか食べてないのですが。

分からない俺を差し置いて春と会長は互いに睨み合っている。

「かか・・・会長!俺、やっぱ痛いの嫌だわ!だから・・・今日の学食おごりって事で許してくれねぇ?」

俺のせいで春にまで迷惑かかるなんて最悪!

可愛い顔してファンは怖ぇんだぞ。

「はぁ?」

こうなりゃ卑怯者って言われてもいいや。

「会長なら心が広いからそのくらいで許してくれるだろ?デザートもつけるしさ!」

疑問系でも命令だぜ!

コレで断ったらお前は心が狭いヤツだ!

大勢いるファンの前でその発言は出来まい。

「まぁ・・・。」

「じゃあ、俺買ってきてやるよ!牛丼でいいよな?」

そしてさり気に俺が決める。

これぞ人を丸め込ませる話術!

桜先輩直伝だから効力は確かなはず。

「あ、ああ・・・。」

「春、手伝ってよ。俺まだ良くわかんねぇし。」

「・・・分かった。」

そしてさり気に戦闘回避ってね。

俺にしちゃあ上出来じゃない?

俺と春は急いで学食を選ぶ機械の前に立った。

ふぅと大きく溜め息を吐く。

「ごめん、亮。」

「ああ?ソレ言うなら俺だろ?心配してくれたんだろ。あんがとな。」

俺は以前楓がやっていた様に学生手帳のカードを機械に入れて牛丼のボタンを押した。

ついでにオレンジジュースもつけてやる。

カシャンとチケットが出てくる。

「コレをあそこのスタッフに渡せばいいんだな。」

お願いしますと渡すと意外にも牛丼は直ぐに来た。

「かいちょーお待ちどう。じゃ、俺たち失礼します。」

春もオレンジジュースを隣に置いて一礼した。

「楓、行こう。」

俺は会長が待てとか言ってる声をなるべく聞かなかった事にして教室に戻った。













「うわ~・・・怖かったねぇ・・・。」

楓が胸に手を置いてホッと溜め息を吐いた。

「カイチョーが話の分かつ奴で良かったよ。」

それより怖いのがやはり俺を睨みまくってた周りの方々。

ってかあれは不可抗力だよな?

でも謝ってあのことは無効になったからもう大丈夫だろう。

「亮・・・行儀悪いよ。」

「でもコレ食べたい。」

俺は廊下を歩きながら桐生さんお手製のプリンを食べていた。

全部食べられなかったからそのまま手に持ってきたのだ。

腕にはちゃんと空になった弁当箱が納まっている。

「ダメ。教室に戻ってから。」

春が首を振って制する。

「春は亮だと普通にしゃべるよね~。」

楓がひょっこり前に出た。

「は?どういう事?」

「春はねすっごい人見知りなんだよ。だからあんまり話さないの。」

「へ~。」

春を見上げると少し難しい顔をしている。

「だから回りからはクールだって言われてるんだよ。」

「へ~。」

春はクールって言うよりちょっとぼーっとしてる感じだよな?

クールなんて冷たそうな雰囲気は纏ってない。

むしろ名前どおり春っぽい暖かな陽気のヤツではないか。

へぇ~ボタンがあれば満へぇ~押してやるぜ。

「亮は・・・違うから。」

春がボソッと口を開いた。

「は?何が?」

俺が違う?なんか春は俺に対して訳のわからない事を言うよな。

「うん。なんか亮は違うよね。」

「だから何が?」

お前もか楓?

俺が心底分からない顔をして首を傾げているのに楓はクスクス笑って教室に駆け足で入っていった。

「何が違うんだよ~?」

俺は楓に続いて走って教室に入る。

「っうお!!」

そして教室の縁につまずいた。

危うく顔面から突っ込みそうになるがガシッと春が後ろから支えてくれる。

「悪ぃな・・・。」

俺が春にお礼を言おうと顔を上げると正面には顔を黄色の物体で汚した茶髪の青年が。

茶髪にピアス、そして着崩した制服には見覚えがある。

「じゅ・・・じゅんペー?」

たらりと滑り落ちた物体から覗く黒い瞳はまさしく怒りを帯びて俺を見ている。

俺は背中に冷たい汗をかいて無言で自分の右手を見た。

プリンのカップの中には食べるはずだったものが入っていない。

イコール・・・

「うわぁぁぁ!!じゅんペーごめん!!!」

俺はこけるようにして自分の机に行きスポーツタオルを持ってくる、そして手で顔から物体を避けてい

る純平に差し出す。

どんな怒りの言葉が振ってくるかビクビクしてたのだが聞こえたのは意外な言葉。

「・・・これちゃんとバニラビーンズ使ってんだな。」

「は?」

ばにらびーんずってなに?

びーんずっていうんだから豆?

ばにら豆?

プリンのついた指をぺろりと舐める純平。

そして少し驚いた顔をした。

「じゅ・・・じゅんぺーこれ。」

純平はタオルをチラリと見たが取ることは無く「顔洗ってきてから貸して。」と教室を出て行こうとす

る。

「俺も行く!!」

慌てて純平の後を追って教室を出た。

廊下に設置してある水道場でバシャバシャと顔洗っている純平。

純平も目立つのだろうかチラチラと辺りから視線を感じる。

「はい。」

顔を洗い終えた純平に広げたタオルを渡した。

「・・・・・・・。」

無言でそれを受け取る純平。

前髪からは水が少し滴っている。

「ごめんな・・・じゅんペー。」

「いや・・・別にどぉってことねーし。」

純平は外見はすっげーヤンキーっぽいが実は結構いいやつだ。

「・・・なぁ・・・ばにら豆ってなに?」

そこで俺は先ほどの疑問を聞いてみることに。

「ばにら豆・・・?・・・バニラビーンズ?」

「そうそれ!」

純平はプッと噴出すと肩を揺らして笑った。

八重歯がちらりだ。


「バニラビーンズってのはバニラの果実だよ。」

「バニラって植物なのか?」

「ああ。バニラビーンズから香料になんのがバニラエッセンス。」

「へぇ~!」

今日はへぇ~ボタンがあったら押しっぱなしだな。

「詳しいんだな。バニラ好きなん?」

「バニラつーか・・・好きっつーか・・・。」

じゅんぺーは言葉を濁す。

「あ。もしかしてお前植物博士とかそういう系か!?」

俺が絶対そうだろうと眼を輝かせるとじゅんペーはあきれた様に溜め息を吐いた。

「なんだよ~、じゅんぺー博士教えろよ。」

「博士ゆーな。草。」

草?

この人今、わたくしの事『くさ』って言いました?

くさって言うのは『臭い』の省略系ではなくて『草』ですよね?

「っお前草ってなんだよ!?草って!!?」

「だってお前全身緑じゃん。」

肌の色まで緑みたいな言い方すんな!
作品名:RED+DATE+BOOK02 作家名:笹色紅