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RED+DATE+BOOK01

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「あの、お母様。」

「なぁに?亮ちゃん。」

「・・・手に持って俺に向けてるソレ何?」

只今車の中。

馴染んだ故郷に涙を飲んでさよならを告げてきた。

あれから学校では本当に色々あった・・・・色々・・・そう色々。

思い出すとちょっとぐったりしてやはり寂しい。

しかし、そんなアンニュイな気分に浸っている暇は無い。

だっておふくろが持ってるのはヘアーカラースプレー。

洗い流せる!お手軽!と書いてありその下にはクールな人物の絵。

その髪の色は純黒だ。

「その髪じゃおじいさんに怒られちゃうかもしれないからね?」

半疑問系でもそれは肯定ですよね?

そもそもおふくろがそんなモノを持ってるのは俺の髪が緑だからですが。

や。勿論地毛じゃなくて染めたものですよ。

俺は葉緑体は持ってないので緑にはなりません。

「・・・ピアスも取るの?」

「勿論よ。」

にっこり笑っても空気は威圧してます。

俺はしぶしぶ右耳についてる2つの樹皮ピアスと左耳についている1つを取った。

「つーかさ・・・眼が黒じゃねぇんだから髪黒にすんのはおかしいって。」

そう、俺の眼は少し緑がかっているのだ。

緑っていってもエメラルドみたいな緑じゃない。

薄い緑・・・緑に見えなくもない緑だ。

別に両親もどっちの家系にもロシア人とか外国人がいるわけじゃない。

ちょっとした変異なのだ。

まぁ、俺としては気に入ってるからいいのだけれど結構大変。

直射日光に弱い事が一番しんどい。

もちろん黒眼だって直射日光に当たれば失明だってするんだけど俺の場合黒眼でも平気な時に眼鏡やら

帽子やらを被って眼をガードしなくてはいけない。

コレはちょっと邪魔。

生まれたときからだからもう慣れましたけどね。

「眼はしょうがないけど・・・黒髪でも似合うわよ。」

「・・・・・・分かった。」

ちゃんと染めろって訳でもないし此処は折れてやろう。

第一言い争ってたら眠ってる杏那を起こすかもしれないし。

やはり日本人は黒眼黒髪ってな。

・・・そう考えると通ってた学校の校則は緩かったんだなー。と考える。

ピンクとか虹色とかもいたしな。

ちょうど車がドライブスルーに着いて外に出る。

そして俺はトイレで髪を黒にして再び車に乗り込んだ。

ちゃっかり桃ソフトを買ってもらって。







「まぁまぁ・・・よく来たわね~。」

「・・・・・・・・・。」

「お母さん、お久しぶりです。」

「・・・・・・・・・。」

「お久しぶりです、お義母様。」

「・・・・・・・・・。」

「杏里[アンリ]さんも亮介[リョウスケ]も長旅大変だったでしょ?さぁ、上がって。」

「・・・・・・・・・。」

「あ、お義母様、息子の亮と杏那です。亮、挨拶しなさい。」

「・・・・・・・・・。」


ハッ!!



「初めまして。齋藤亮です。」

危ねぇ、危ねぇ・・・意識飛んでたぜ。

ニコリと笑うとオヤジの母ちゃんは「本当に美形なのね~。」と少し驚いていた。

「いえ、そんな事ないです。」と返して腕の中の杏那を少し揺さぶった。

起きる気配は無い。

「娘の杏那です。今寝ちゃってるんですが・・・」

おふくろが杏那の紹介をしているのを流して聞きながら俺は再び目を左右に動かした。



・・・でけぇ・・・・。

すげぇ・・・・。

金持ちだ!!

思い浮かんだ言葉はこんなもん。

シンプルイズベストって訳じゃなくて語彙が乏しいだけ。

車に乗ってるときからなんだか塀が続くなぁ~と思ってたら、なんとその塀の家がオヤジの実家だった

のだ。

大きな門をくぐり綺麗に手入れされた日本庭園を渡ってようやく家に到着。

すげぇよテレビでしか見たことねぇよ。

オヤジって凄かったんだな!

と、素直に感動。

初めて都会を見た田舎者状態だが別にいい。

それだけ感動、サプライズだ!





俺が感動に浸ってる間に短い挨拶は済んだのかおふくろ達は既に上がっていた。

「ふふふ・・・そんなに驚かれるとちょっと嬉しいわね。」

そう言いながらくすくす笑うオヤジの母ちゃん。

「いや・・・マジで凄いです。こんなの京都の修学旅行以来です。」

素直な感想をいうと嬉しそうに微笑んだ。

「亮ったら・・・。」

オヤジは笑っておふくろは呆れている。

こりゃまた長い廊下を歩いて辿り着いた先は障子で閉鎖された部屋。

おそらくこの先にオヤジの親父がいるんだ。

「おとうさん、亮介と杏里さんが来て下さいましたよ。」

俺はゴクリと息を飲んで両親の後に足を踏み入れた。

「おお!!待ってたぞ!さぁさぁお上がりなさい。」

はれ?

そこにいたのは満面の笑みで迎えるオヤジをもっとジジィにした人。

や。どっからどう考えてもオヤジの親父でしかないんだけど・・・なんつーかもっと厳しい顔をしてるもの

だと思った。

その人は俺と俺の抱いている杏那を見るともっと嬉しそうな顔をした。

「君が亮君だね。そして杏那ちゃんか。」

「あ・・・はい。初めまして、齋藤亮です。」

ちょっとポカーンとして答えてしまったが相手はうんうんと数回頷き本当に本当に嬉しそうに笑った。

「・・・俺の事認めてくれるんですか?」

思わず口をついてしまった言葉にそこにいた全員がこっちをみた。

しまった!!と思った時にはもう遅かった。

「・・・そうだね、亮君と・・・杏里さん、亮介には悪いことをしたね。」

それでもオヤジの親父はすまなそうに俯いて怒ることなく謝罪の言葉を口にした。

「そんな・・・お義父さん、顔を上げてください。」

おふくろが慌てて間に入る。

「いや、今考えると本当に馬鹿なことをしたと思ってるんだ。それが謝罪の言葉も言えずじまいで・・・。



これはどっちかって言うと俺の事じゃなくておふくろとオヤジの事なんだけど、俺は心にのしかかって

た重りがなくなるのを感じた。

俺は前に出た。

「・・・杏那・・・まだ眠ってますけど。」

静かに腕の中で眠る杏那を祖父の手に渡した。

「これからよろしくお願いします、お祖父さん、お祖母さん。」

ビックリしている祖父に心からの笑顔で答えてやる。

こうして俺は新しい家族を得た。

祖父と祖母は俺から見ても本当にいい人だった。

でっけぇ風呂に入って染めた色が落ちて緑になった髪を見ても嫌悪することなく似合うといってくれた

し、色々な話も出来た。

出合ってその日の夜には「じっちゃん」と呼ぶようになり祖父も「亮」と呼ぶようになった。

オヤジはそんな俺たちをくすぐったそうに見ていた。

「え?じゃあ篠宮学園ってオヤジの兄貴がやってる学校なの!?」

「そうなんだよ。亮にも是非気に入ってもらいたいんだけどね。」

そうだった・・・オヤジの旧姓は篠宮じゃんか!

だから編入試験もなくてあんな簡単にそれも微妙な時期に入れたのか。

「へー。すっげぇんだなオヤジの家って。」

「まぁな・・・。」

「友達出来るといいわねぇ。」

「ふふふ・・・亮君なら直ぐに人気者になるでしょうね。」

のほほんと家族団欒。

落ち着いていて楽しい。
作品名:RED+DATE+BOOK01 作家名:笹色紅