追伸
「そうそう、森鴎外知ってる? 国語でやっただろ。家にオフクロのが何冊かあるって言ったら、貸してください、とか言っちゃって、オレも一通りは読んだけど、普通語るか? 今時の若者が……。結構きつかったよー」
「ははははは……」
二人は知らなかった。
すぐ後ろを乃子が歩いていた事を。
無遠慮に話す会話を残らず聞いていた事を。
二人が笑い出した時に、とうとう耐え切れなくなって、横の路地に駆けて行った事を……。
翌日から乃子は学校を休んでしまい、一週間以上経っても登校して来なかった。
そんなある日。
土曜日の昼前。耕介は前夜、夜中に帰宅した事もあり、十一時を回ってもベッドの中でダラダラとしていた。
ふと気付くと玄関のチャイムが鳴っている。
いつもなら家族が留守でも応じる事の無い耕介だったが、今日は何故か出てみる気になった。