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猫になって歩けば棒に当たる?

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 もう一度強い力で抱きしめられた後、座った彼女の膝の上にのせられたのだが、ぼくは大きな二度のショックにより四肢をピンと硬直させたまま動くことができずにいた。
「あらら? どうしたのかしら? 足がうまく動かせないのかな?」
 好きな女の子に猫の姿とはいえ初キスと大事な部分を直視された恥ずかしさ、初心な元男子高校生には刺激が強すぎです。しかもその後に彼女のマシュマロのようにすべすべでふわふわな膝でリラックスなんてできるわけないじゃないか!
 体が極度の緊張により震えだし逃げ出そうとしたところでバランスを崩した。彼女の膝の上から横転して無様に背中から絨毯に落ちてしまった。ただ絨毯はふかふかで痛くはなかった。畳にこんな絨毯を敷く家もなかなかなかないだろう。
 逃げ方は無様で第三者が見たら笑い転げている位滑稽だっただろうが、今のぼくはガクガクする足を一心不乱に動かしその部屋から脱出することしか頭に無かった。今の彼女の無垢さはぼくの小さすぎる器では受け切れない。

「あぁ、行っちゃった……私なにか痛いことしたのかしら?」
「んー、あのにゃんこスズにはありさの急なスキンシップには耐えられなかったのだろう。私にはまだ人間に触られ慣れていないように見えたよ。急ぎすぎたのかもしれんな。ゆっくり仲良くなればいいさ」
「はい、お父様。あれ? 猫神様は? さっきまでそこにいたのに」
「あぁ、おまえとスズのじゃれつきを満足そうに眺めていたが、さっきスズが出て行くのを追いかけるように出ていったよ。世話のかかるやつだニャなんて言っていそうだったね」
「あはは」
 夕暮れが夜の闇に飲みこまれ、薄暗くなり始めたこの部屋で新しい猫を迎えこれから楽しくなる予感に胸をいっぱいにしながら私は笑った。

 未だにバクバクと鳴りやまない心臓を抑えようと一度壁にもたれかかり足を止める。激しい運動のせいだけではなく後から押し寄せる羞恥、興奮、歓喜も心拍数をあげている。
 猫の体とはいえ、あの虎子望さんとキ、キスを。顔の筋肉がだらしなく緩むのを止められない。
 猫の体とはいえ、あの虎子望さんにあそこを見られた。恥ずかしくて顔が赤くなるのを止められない。
 怪人二十面相のごとくころころと顔の色、形を変えながらじたばたしてみた。
 猫になってから虎子望さんとお近づきになれるなんて夢にも思わなかった。一気に距離を埋められすぎて完全にパニックになったけどなんて幸運! これが運命ってものなのだろうか。
 と一人でテンションが上がってしまったが、冷静に考えると所詮猫と人間の関係。なにか起こるわけでもなし、遠い世界から想いを胸にしまいこんでいる、それは昔と変わらないだろう。
 気分が沈み心が落ち着きを取り戻したからか、心臓もかなり落ち着いてきたので再び歩みを再開した。
「やぁやぁ、予期せぬご主人親子との初顔合わせだったニャ。しっかり笑わせていただきました。ごちそうさまだニャ」
 俺に併走するように猫神様がぴょこっと姿を現した。
「お前のうちの主人って虎子望さんだったんだな」
「ほぉ、ご主人知ってたんだニャ?」
「娘さんが元同じクラスだったってだけだよ」
 恋心を抱いていたなんてひげを引っ張られても胸にしまっておこう。
「へー、ただのクラスメイトにしては不審なところがいっぱいだったようだけどニャ」
「いやいや、そりゃ人だったら急に年頃の女の子にキ、キスとかされたり、大事な部分見られたらあせるって!」
「ふーん。ま、おぬしはもう人間じゃないけどニャ」
「まだ猫になってから一日もたってないじゃん! 人間の頃の感じがまだ抜けないんだって!」
「そんなもんかニャ。人間なんてなったことないから知らないニャ。まぁ顔見知りならまったく知らない所よりは馴染みやすいんじゃないかニャ。よかったニャ〜」
 ぼくの心を見透かしていたのかと思いきやたいして興味なかったのかよ、あせって損した。
「それじゃご主人からオッケーもらったし晴れて虎子望家の猫になったおぬしを他の猫に紹介しないといかんニャ。いきなり飛び出して行ってしかも反対方向に行くとか勘弁してほしいニャ。遠回りは嫌いなんだニャ、わしは」
「す、すいません」
 おまえ朝方庭ですげー遠回りしてたじゃねーか!
 結局お昼に入ってきた玄関まできたところで最初は気がつかなかった階段を発見。中庭を囲むようにぐるりと一周できるような家の構造のようだ。
 確かにあの部屋を反対に飛び出さずに元の道に戻ったならこちらからくるより早く戻ってこれただろう。ぼくにとってはこれから住む屋敷の観察ができてよかったのだけど。
「この階段を登って……」
――うんしょ、こらしょ。
「行くと……」
――よっこらしょ、どっこらしょ。
「猫専用の二階スペースがあるのニャ……」
「なーんでこんなに一段一段おっさんみたいな掛け声あげなきゃいけない程高くなってるんだよ! しかも頭上の高さがないから跳べないし全然キャットフリーじゃないじゃんか」
「こ、こればかりはわしも……ぜぇぜぇ……知らないのニャ」
 全十三段を登り終わったときにはぼくらはフルマラソン完走後のランナーのようにへばっていた。
 汗がにじんで霞む目で二階の様子に目を凝らすと、猫専用だとは思えない程突き抜けた空間が目に飛び込んできた。
 高いところを好むといわれてる猫のためだろう縦の空間を大いにとり、さらにその空間を有効に活用するためにキャットタワーがいくつも屹立している。
 天井はガラス張りになっていて、磨かれたガラスは外の星空の煌めきを屈折させず、直接ぼくの目に飛び込んでくるようだ。
 本日何度目かの意識を違う世界とばしていたら猫神様が復活してきて自慢げに言う。
「どうだニャ? すごいだろう? わしが作った部屋ではないがわしに対する主人の愛情の結晶ともいえる空間だニャ。ここには人間は入れない、むろんご主人でもニャ。猫のプライバシースペースが屋敷にあるのニャ。これぞキャットフリーだニャ」
 猫神様は決め顔を作っていたが、ただただ気持ち悪いだけだった。
 まったくお金持ちってのは我ら庶民には思いもしない事にお金を費やしているんだな。こんなことにお金を使うなんてもったいないという人は多いと思う。けどぼくは素敵なことだと思う。
 自分のためだけど他者のため。
 自分の家だけれど自分のためじゃなく愛する者のため。特にそれが人間でないところがぼくは気に入った。ただの猫バカと言われれば違いないけど。
「オイオイオイオイ、華麗にスルー決めてくれてんじゃねーよ!」
「設定設定……」
「ん、んぅん……無視しないでほしいニャ〜」
「へー、だからあの階段的なものがあんなに狭かったわけね」
「そそ、これぞキャトフリーだニャ」
「何度も言わなくてもうまいと思ってないから」
「ウニャー、ひどいニャ。大事なことだから二回言ったのに」
「ワカッタ、ワカッタ」
「扱いがぞんざいだニャ」
 そこへぼくと猫神様のつまらない漫才に興味をもってきたってわけではないだろうが、部屋にいたと思われる猫が集まってきた。
「お、みんな良いところに来たニャ、今日は新入りを連れてきたから仲良くしてやってほしいニャ。えーと名前はスズ君だニャ」