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猫になって歩けば棒に当たる?

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「たぶん半年の見込みを無理に起こすから身体を今までどおりに動かすのに厳しいリハビリが必要になるだろうニャ。まあ頑張れば何とかなるだろうニャ」
「で、でもそんな急に戻れって言っても……」
「戻れとは言ってないニャ。そういう方法もあるっていう話。ただわしにはもうこれ位しかおぬしの想いをお嬢様に伝えられる方法は思いつかないニャ。人間に戻った後の想いの伝え方くらい自分で考えろニャ。おぬし男だろうわしは雌だから男の気持ちなんてわからんニャ」
「そう言えばおまえ雌だったんだっけ。なのになんで雄の三毛猫なんてやってんだよ」
「最近気がついたんだニャ。三毛のオスは遺伝子的にあり得ないらしいから拝まれたりするんだニャ」
「ま、どうでもいいんだけど。人間に戻る話、もう少し考えさせてくれ」
「どうでもいいとかひどいニャ。そう言うこと言う奴になんか力貸してやらないニャ」
「えー、ケチ。さっきは突っ込みのキレがないとか言ってたじゃん」
「それ突っ込み? ただ興味無いことはっきり言っただけじゃん!」
「ぼく流の突っ込み術だよ。三ヶ月も一緒にいるのにまだ理解してなかったのかよ」
「そんなの知らないし知りたくもないニャ。まあそうならいいんだけど。決まったら教えてくれニャ。まあわしはそんなもやもやしてるより動いてスカッとした方がいいと思うけどニャ。当たって砕けろだっけニャ? まあ砕けてもミルーが拾ってくれるニャ。頑張れ」
 そう言って猫神様は尻尾をフリフリしながら去っていった。
 うん。猫神様の言う通りかもしれない。こうやってうじうじ悩んで後悔するより当たってみたほうが自分も納得できるだろう。
 ぼくはまたゴロゴロしながら告白の計画を考え始めた。もう元気が無さそうには見えないだろう。動き始めるって最初はエネルギーがいるけど始めようと決めたら心が躍るものなんだなぁとしみじみと思っていた。

 悩んでいたのは少しの間だけ。決心してからはすぐに猫神様の所へ飛んでいき頭を下げた。
「おねがーい。人間に戻してー」
 某アニメの青い狸型ロボットにすがりつく眼鏡君が頭によぎった。
「何だニャいきなり。今さっき少し考えさせてくれって言ったばかりじゃニャいか」
「もう決心した」
「早いニャア。まあいいけどみんなに挨拶とかしなくてもいいのかニャ? いきなり消えたら特にミル―
が発狂しそうだにゃ」
「いいんだ。適当に旅にでも出たと言ってくれれば」
「そうか。それじゃとりあえず病院にでも行こうかニャ」
 そして猫神様と僕のいる病院へと向かった。
 部屋の中の様子も僕の容態もこの前来ていた時と特に変化のない病室に窓から入っていく。包帯は所々はずれていて今は顔が全部出ている点が最初の頃と違う所だろう。
「相変わらず不細工な顔ニャ」
「ひどいこと言うな! 結構傷つくから!」
 僕の顔を覗き込みながらぼそっと呟く猫神様。
「今のままならイケメン猫でモテモテだし、ミルーと結ばれちゃえば? もったいないよ」
「今の姿は好きだけど……もう一度きちんと思いを伝えたいんだ。どんな結果になろうともね」
「そうか覚悟は揺るがないんだニャ? ならいいけど。そうそう人間に戻ったら猫とはもう話せないからニャ。言ってることもわからないニャ。元通りのおぬしに戻るわけだからニャ」
「え! 猫の時の記憶は無くなるってことか? お前とももう話さなくていいってことか」
「わしとは話せるし記憶は無くならないニャ。というかわしともう話したくないのかい!」
「うーん、だってお前と長く話してると頭痛くなってくるし。あーまた頭が痛くなってきた……」
「あーそれもう人間に戻してるから。じゃまたね。錫木一郎君」
「おい、先に言ってから……」
 こうしてぼくの意識は古いテレビの電源を切るようにぷっつりと切れていった。

「……ちろう。いちろう!」
「……んせい! 患者の意識がさめ……」
 微かに周りの声が耳に入ってくる。さらに薄く目を開くと目尻に涙をため込んだ母親の姿が映った。とりあえず僕は人間の身体に無事戻って来たらしい。しかし僕は手も足も口すらまともに動かせなかった。こんな身体に戻ってきて良かったのかと思うほど身体は動かないし色々なところが痛む。想像していたよりも動けるようになって虎子望さんに告白するには時間がかかりそうだった。
 それでも僕は固く決心したのだ。どんなにつらくとも苦しくとも踏ん張って回復してやる。そう気合を入れ直しもう一度目を閉じた。
 次に目が覚めた時は病室に一人きりだった。いや窓際に三毛猫が座っていた。
「こんばんは。調子はいかがですか?」
 昔と同じように頭に直接音が鳴り響いた。僕はまだ口が動かせない。そのことをわかっているみたいだ。以前と勝手が変わっていないようなので、こちらも軽く応答してみた。
「なにキャラ変えようとしてるの?」
「ひどいニャ。わしが生まれ変わろうとしてるのにその反応。おぬしのためを思ってやってるのに」
「僕の為?」
「だっておぬしわしと話すと頭痛くなるとか言ってたじゃニャいか。だから変わろうと思ったのに」
 あの言葉をそこまで真摯に受け止めていたのに驚いたが、まあ治す気になったのならいいことだと思う。
「それより僕のこの状況を変えてくれ。今更お前を変えたって意味ないじゃん」
「今更とか言うニャ。わしだって誰からも愛されるご当地神様になりたいニャ!」
「ご当地神様ってなんだよ。別に人間からなんて愛されなくてもいいじゃんか」
「そんなことないニャ。人間に愛されると余ったパンとかくれるニャ。いいことずくめだニャ」
「僕はどんなに仲良くなってもパンあげないよ」
「じゃいいや。元気でやれニャー」
 僕に背を向け窓から飛び降りる恰好をしている。しかしいつになっても飛び降りない。結局パンが手に入れられる状況を捨てることができないのだ。仕方ないので声をかけてやることにした。
「助けてください。パン買ってあげますから。お願いします」
「しょうがニャいニャー。クリームパンとあんぱん一個ずつで協力してやらないこともニャいニャ」
 目を輝かせてしょうがないとか言われても、期待してたのが丸見えじゃないか。
「最近はパン嗜好が強いのか? 前はおにぎりばっかりだったけど」
「そうなんだニャ。特に甘いのが入ったのがお気に入りなんだニャ」
「ツナ入りとかあるけど」
「なんだと! そんなものまであるのか! 技術の進歩は半端ないな。それを持ってこい」
「興奮しすぎ。急に口調が荒々しい雄のものになってるぞ」
「おっと。あんぱんとクリームパン、あとツナのパンを差し出せば協力してやってもいいニャ」
「追加かよ」
「文句と反論は協力はいらないという意思表示だと受け止めるニャー」
「わかったよ。その三つ買ってあげるよ。だからお願いします助けてください」
「フフン。そんなに言うのなら協力してやってもいいニャ」
 こんなに安い神様はいないだろう。今度からは三百円神様と呼んであげることに決めた。
「それで? なにを協力してくれるの?」
「そうだニャあ……。打て打てイチロー、走れー盗めーイチロー!」
「それだけ?」
「それだけとかいうニャ!」
「だってそれ名前すら違うじゃん。僕一郎、イチローじゃない」