小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

猫になって歩けば棒に当たる?

INDEX|22ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

 ぼくらが話している間彼らの方はまたももめていた。
「おい、そんな雨にうたれてよれよれになった段ボールみたいになりやがって。あの時一丁前の口きいといてそのざまはなんなんだ」
 口がでかいところは変わっていないみたいだな。
「あんたには関係ない。それより女一匹仕留めていなかったお前らはなにしてたんだ」
「ふん、少し前に会ったバカな猫だったからまた脅してやっていたところだったんだ」
 なぜかそこで胸を反らせるトラ猫。そんなに威張れるようなことなのだろうか。
「ふん、前より痩せてちっとはまともに動けるようになったと思っていたがそんなことはなかったみたいだな。結局外見は変わっても中身の臆病さは変わってないようだな」
 彼のその言葉に彼の顔は真っ赤に染まる。周りの取り巻きも怒りで毛が逆立っている。
「俺が臆病だと? オオグロさんがここら一帯をまとめ上げる前までのボスはこの俺だった。その俺が臆病者だと?」
「実際そうだろ。ボスだといって荒事はほとんど取り巻いてる連中が数に物言わせて弱いものから物を奪う。その奪ってきた物をお前がなにもせずに取り巻きから貰う。あんたはなにもしちゃいない。こんな使えないボスだからあとからやってきたオオグロさんにここらをあっさり奪われるんだよ」
「うるさいうるさい黙れ――――」
 あまりの怒りに言葉が出ないのかそれとも反論しようにもその通りだからできないのか、身体を震わせて怒るだけで手負いの彼にすら幼稚な言葉でしか反撃できていなかった。
「まあ、あんたがボスじゃなくて良かったよ。俺はボスとかそういう器に興味はないからいいけど流石にあんたみたいな無能な奴がボスだと生きていくのにも苦労するだろうからな」
 そう言うと彼は満身創痍の身体を引きずりながらぼくらとは反対の方向、屋敷の外へ歩き始めた。
「あ、おいお前どこ行くんだよ」
 その不可解な行動に真っ先に待ったをかけたのは仲間であるトラ猫であった。
 そんな悲痛を含んだ叫びさえ彼は無視して歩く。が、ふとぼくの方へ振り返った。
「もう身体がいうこと利かねえ。だから今回はこれで俺は帰る。だが負けたわけじゃないからな。またどこかで会ったらその時は必ずぶっ飛ばす」
 そして今度はパッと駆けだし、茂みの中へと消えていった。
 彼の自分勝手な感じは今に始まったことではなかったからぼくはまたかと苦笑いするしかできなかった。しかしトラ猫たちの方は苦笑いすら浮かべることなく、魂を引き抜かれたような顔をしていた。
 その魂の抜け殻に声をかけた。
「それでどうするんだ? お前らの頼みの綱はどこかに行っちまったぞ。俺があいつをあそこまで傷めつけてやったんだ。お前らもそうなりたいか?」
 ぼくの強気な姿勢に彼らはすっかり恐縮してしまったようだ。腰の抜けたままじりじりと後退して距離を開けたと思ったら捨て台詞すら言うことなく風のように撤退していった。奴らが腰ぬけで助かった。実際ぼくも彼と同じく虚勢を張る位にしか身体が動かない。
「ふう、行ってしまわれましたね。スズさんがあんなに傷ついて帰って来た時はどうなるかと思いましたが」
「そうだね。ぼくも連中が死ぬ気でかかってきていたら確実にやられていたね。どんな時でも諦めたらそこで勝つ可能性はゼロになってしまうんだ」
「その分スズさんはわずかな可能性に賭けた勇敢で立派な……」
「やめてください。ただ虚勢を張っただけです。この通り今は立っているのもやっと。ふう少し休もう」
 震える足をなだめるように寝そべったぼくに疲労が一気にのしかかってきた。そしてミルーさんも覆いかぶさってきた。
 あまりに唐突なことだったのでまた新しい襲撃者かと思った程だ。
「な、なにするンですか!」
 慌てふためくぼくを幼児に優しく諭すようにミルーさんは言う。
「だってスズさんあの時言ったじゃないですか。終わったらぼくと愛を育もうって」
「いや、ぼくはいつ何時もそんな痛いセリフは口にしていません」
 断固拒否である。というより本当にそんなこと言った覚えはないのだ。
「いえいえアイコンタクトしたじゃありませんか。あの彼との決戦の前に。私その言葉を胸にあの下品な奴らと対峙できたのです。この状況をうまく乗り越えることができたら、スズさんとの関係も乗り越えることができるのだと何度もそう心に言い聞かせて乗り切ったのですよ」
「いやいやいや、あれはそんな深い意味じゃないって。ただ頑張ってって言いたかっただけで……」
「ふふふ、そんな照れなくても私にはお見通しです。本当はもう私の魅力にメロメロなはずです。きっと私のもとに駆け付けるために必死に戦ってあんなにも早く私の元に来てくださったのですから」
「……」
 ぐうの音も出ない。ミルーさんを守りたいと戦ったことは確かだが、そこまで勘違いされては反論しても取り合ってくれないであろう。
 ぼくは意を決した。というより限界であった。
 ミルーさんよりも早くのしかかってきた疲労がぼくを押しつぶした。
「ちょ、ちょっとスズさん聞いてます? って寝てる?! そんな……私のこの気持ち、奪われる覚悟はどうすればいいんですのー」
 最後に耳にむりやりねじ込まれてきた叫びは聞かなかったことにしておくことにしよう。

猫が身様がコロコロ転がっている。お腹を抱えて転がっている。コロコロと。
「うーんお腹が痛い。わしは動けないぞ。そんなわしを攫っていこうというのかニャ」
「別に今ここで力を返してくれればなにもお前みたいな重い荷物しょって帰らなくてもいいんだがな」
「いや、わし重くなんてないよ。大体いつも2・908キロ位だニャ」
「お前の体重事情が聞きたいわけじゃねえ。早く力を返せ。さもないと……」
「さもないと?」
 ミケ様の瞳孔が大きく開き、静かな部屋にごくりと喉を鳴らす音が鈍く反響した。
「八つ裂きだ」「ギャーーーーーーーーーーーーーー」
 まるで待ちかまえていたかのように発せられた叫びはオオグロ様の言葉が終わるか終らないかの瀬戸際だった。たぶんオオグロ様が『帰る』とか言っても怯えるようなギャーが発せられていただろう。実際口で騒ぐほど怯えてなどいない。
「テメェ」
「ギャー」
「俺を」
「ギャー」
「なめてんの」
「ギャー」
「か」
「ギャイヒン」
 最後の『か』でオオグロ様の頭突きが繰り出された。
 目をつぶって叫び続けているミケ様には接近していたオオグロ様の姿を見ることはできなかったであろう。最後の『イヒン』は衝撃で舌でも噛んだのだと推測できる。
 傍で見ていた私にそれを止めることはそんなに難しくは無かった。けれど傍にいた分ミケ様の無駄な奇声が耳に響いて、いい加減にしてくださいと言おうと思っていたところ、オオグロ様が止めてくれそうだったので、静観していることに決めたのです。
「ひたひ。はにすんだ」
「テメェがキンキン声で喚くからだろうが。わざと」
「わざとじゃないニャ。本当に八つ裂きにされる光景を思い浮かべたらあんな声が漏れ出てきたんだニャ」
「誰もそんな想像しろなんて頼んでない。俺の力を返せって言ってんだ」
「ヒタヒ。口ひっぱるらー」