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猫になって歩けば棒に当たる?

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 ここまで言われて行かないのは男が廃るってものです。僕は覚悟を決めて奴ら集団の方へにじり寄って行きました。
「よし、日々邪魔なだけだと思ってたこの砥ぎ磨いてきた爪を使う時が来た」
 爪の具合を確認して僕は猫の集団の中に飛び込んでいった。
「うおおおおお」
 自分でも驚くくらい大きな叫び声をあげて敵の方に飛びかかりました。僕こんなに大きな声出せたんだ。まずは一番近くにいた油断しきっている猫の鼻っ面に爪を立ててやりました。今までにない奇妙な感覚でした。ですがこの時は無我夢中で目の前の敵のことしか考えられませんでした。
 この猫たちはみけ様をさらいにきた悪い奴なんだ。一匹たりともみけ様に近づかせてなるもんか!
 余程僕の声がへんてこだったのかそれともまだ覚醒しきっていない頭で辺りを見回そうとしているようで周りの猫たちは寝ぼけなまこのままあっちへフラフラこっちへフラフラとして状況を把握しかねているようでした。そのうちにまた数匹の足に爪を立てて思いっきり踏みつけてやりました。
「おい、痛てえ。だれだよ俺の足に爪立てた奴」
「俺じゃねえよ。俺もさっきうしろ足踏まれたんだ」
 大体一〇匹位の集まりでそのあいだを僕は駆け回りながら、自慢の爪で奴らに痛手を与えてやりました。奇襲大成功です。
「おい、みんな落ち着け! なんだかぐるぐる回りなが俺らに爪立ててくる奴がいるぞ。とりあえずみんな起きろ」
 おっとそろそろばれてしまったようです。僕は後一匹のお尻をひっかいてやろうと忍び足で背後にまわりました。
「こいつか!」
「フギャ」
 鼻っ面にパンチが飛んできました。純君のお遊びの攻撃とは全く違う。僕の顔の骨がどうなろうとかまわない、『潰れろ!』といった意志のこめられたパンチでした。
 今まで味わったことのない痛みが鼻先に集中して、僕は地面を転がってもだえてしまいました。。
「こいつか。なんだパンチ一つでひっくり返るようなアマちゃんかよ。ここの家の猫か?」
 僕の二倍はありそうな体躯をもったこの中で一番偉そうな猫が転がった僕の方にやってきました。いや彼だけじゃありませんさっき寝そべっていた猫みんながぼくを取り囲むようにして近寄ってきます。作戦は失敗に終わったようです。たくさんの猫に囲まれては貧弱な僕にはどうしようもありません。
 そういえば僕が駆けまわっていたころロイ君はなにをしていたのでしょうか。先に行けっていうからあとからついてみんなやっつけてくれるとばかり思っていたのですが、ちらりとも影を見かけませんでした。僕が頑張っていたのになにをしていたのでしょう。
「おい、おまえここの猫だろ。猫神がいるっていう城はどこだ?」
「ふがふが」
 鼻の周りから血が吹き出てうまく話すことができません。
「なに言ってるかわかんねえぞ」
「フニャン」
 また鼻っ面にパンチが飛んできました。さっきよりはましですがそれでも容赦ないパンチです。傷ができて敏感になってる所にまたパンチするなんてなんて残虐な奴らでしょう。
「おまえら……ふがふが…・・お前らなんかにおしりやるもんか!」
「……お前の汚いおしりなんかいるか」
 二、三匹僕から離れた猫がいます。本当にそういう意味じゃないのに。
「ち、ちがぅ。教えてやるもんかって言おうとしたんだ」
「いいから吐けや。ゴタゴタぬかしてるとお前の腹の中身全部吐かせるぞ」
「ギュフ」
 今度は僕の柔い腹に蹴りが飛び込んできました。あまりの衝撃に本当に今朝のご飯のカスがちょっ口から吐きだされ飛び散りました。生々しくどろりとした液に包まれた魚の骨のようなそれはとても自分の口から出てきたものとは思えないほど非現実過ぎて直視できませんでした。
「おい、吐く気になったか」
 鼻からたれ続ける血は僕の思考をどんどん鈍らせ、お腹の痛みはみけ様を守るという決意をじわじわと侵して弱らせてきます。僕にしては頑張ったよね。ちょっとは時間稼ぎになったよね。そう自分に言い聞かせて口を開こうとしたその瞬間
「コラー」
 猫の輪に突如として波ができぼくを取り囲んでいた輪が崩れ去りました。
 僕はやっとロイ君が助けに来てくれたのかと感激で目に薄く涙の膜を張ったものですが現実はもっと大きなものでした。
「家の魚に手を出すなんて百万年早いわ―。貴様らとっちめてやっからなー」
 騒々しく現れたのはなんてことはないうちの漁師さんでした。そういえば魚を食い散らかされているのに近くに人がいないのはおかしいなーと思っていたのですが近くに置いてあったのを取りに行っていたのでしょう漁の網と銛を持っていました。
「ほとんど食い散らかしおって。貴様らただじゃ済まさんぞ!」
 網によってほとんどの猫が逃げ場を失い、あたふたしていました。銛でお尻をはたかれたりしています。ぼくのお尻じゃなくて自分らのお尻がおじさんにやられていていい気味でした。
 期待していたロイ君ではありませんでしたがなんとか窮地を脱した僕は安堵で腰と気持ちが折れて、だらしなく地面にお腹をつけた状態で伸びてしまいました。まだ朝特有の冷たい空気を宿していた土が僕のお腹を優しく抱いてくれます。立ち上がる気力も失い、僕の意識もだんだんと保つことが難しくなってきました。心身ともに大分無茶を続けてきたからでしょうか。もう眠くなってきました。
「おい……シャル坊……どうしてこんな……」
 漁師のおじさんの声が遠くから聞こえてきますが、よく聞き取れません。とにかく僕はここで眠るんだ。最後に意識の片隅に出てきたロイ君はなぜか青冷めた顔で僕の方を覗きこんできたような気がしましたが、とりあえず今は寝かせてください。

  二人きりになってから相手の気配が読めず、広い庭をうろうろしていたぼくら。なんだか楽しそうな彼女はほっといて索敵に集中……したいのだけど全然集中できない。何とかひきはがそうとするのだが、ダニのようにぼくの身体に密着してはなれない。
「ゴロニャン」
 のどまで震わせてご満悦なようだ。
 先程から辺りを見回っているのだがさっきから同じ道を行ったり来たりしているような気がしている。基本庭の中を散策したりしなかったのでまるで道がわからない。はっきり言って母屋の方角もわかっているか怪しい。ロイは都会というか街の騒々しさが好きだったみたいでそれについていくぼくの方も必然的に街の方に詳しくなっていったのは道理であろう。
 たまにはこうして自然の中で歩くのも癒されていいものだが人間時代と違い猫の生活はストレスなく日々を送れていたので癒しが必要なのかは微妙なところだ。
 誰とも鉢合わせないのでもう屋敷に侵入されてしまっているのではないかと最悪の予感を振り払いながら慎重に歩みを進めるぼく。となりで緊張感全くなしの完全に女モードに入ってる猫が一匹。
「あの、そろそろ真面目に探してくれませんかね?」
「いやん、私の目に映るのはスズさんのみ。こんな間近で見られる機会はそうそう逃せません」
「いやいつも一緒にいるし、隙あらばぼくの尻尾を狙って来てるじゃないか」
「いやいや、これはデートです。いつもとは一味違うんです」
「いやいや、いつも隙あらばぼくをさらって連れまわしてるよね。デートと称して」