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猫になって歩けば棒に当たる?

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「いえ、何でもいいんです! ぼくは今なにが起ころうとしているのか全く分からないんです。どんな情報でもいいから欲しいんです」
 ぼくの勢いに必死さを感じてくれたのか、彼女は佇まいを直した。いつものテディベア座りだ。
「わかったわ。結構長い話になるかもしれないから座って頂戴。あと他のみんなもこれから巻き込まれるかもしれないから聞いて頂戴な」
 こうしてみんなテディベア座りで円を作ってはなしを聞くこととなった。

「まずみんなミケ様からなるべく野良猫たちと接触しないように言われていると思うけれどそうよね?」
「う、うん。みんな目つきが怖くて自分から近づきたくもないよ」
「気丈なお嬢様はこの前喧嘩売ってたけどな」
「う、うるさいわね! 襲われそうになったから抵抗しただけよ!」
「まあまあ。それで? そのこととなにか関係があるんですか?」
「そうね。特に全身真っ黒で他の野良猫とは異質な雰囲気を持ってる猫は見たことあるかしら?」
「うーん、ぼくはないなー」
「私も」
「俺もないな」
「ん? ぼくはもしかしたら見たことがあるかもしれない。なんだか深い闇を連想させる猫だった」
 ぼくはここにくる最初の日に病院を出てから出会ったあの黒い猫を想起していた。確かにあいつは他の猫とは大きく異なった雰囲気を持っていた。
「私も見たことはないのだけれどミケ様が言っていたのはたぶんその猫なのでしょう」
「それでその怖そうな猫にミケ様は襲われちゃったの?」
 シャルトーは言った。まるで自分が襲われているかのように足は震えていた。
「確証はないわ。最近は特に気をつけるように言われていたからそうではないかなと私は考えているってだけね」
 仮にも神なのだから余程のことでないとああまでズタボロになるとは考えにくい。前見たく考え事してて道でトラックに轢かれたとかだったら、あの時ぼくらに気をつけろと言うはずがない。シャルトーを除いてみんなはそんな心配をされるほどぼーとしていない。
――奴と会ったら全力で逃げるニャ
 あの時あいつはそう言った。詳しくは話してくれなかったが鬼気迫る顔は冗談にはとれなかった。
「ぼくがその猫を見た時猫神様はあの黒い猫と敵対関係にあると言っていました。だからぼくも今回のこともそれに関係あると見た方がいいと思います」
「あら、スズさんなにも知らないとか言ってたくせに結構知ってらしたんですのね。私から情報を引っ張りだす必要なんてなかったんじゃありませんこと? 私よりよく知っているというのにスズさん結構意地悪な方なんですのね」
 そういうとセンプスさんはしずしずと泣く真似をした。
「だー。ベ、別にそんなつもりじゃないですってば! しかもその話してくれなかったらぼくたぶんこのこと思い出さなかったですし!」
 嘘泣きと分かっていてもぼくは結構慌てて下手な弁明しかできなかった。
「あー、スズっちが泣かせたー。ひでー」
「スズ君自慢はよくないよ」
「私はどんなスズさんでも大好きです!」
「あなたはもう少し空気を読んでください。そしてお友達でお願いします」
「三対二でスズ君はいじめっ子のSに決定ね」
「えぇ! 急になんですかそれ。そんなくだらない話してる場合じゃないでしょ!」
「私はどんなスズさんでも受け入れます! だ、だから、一緒にねて……」
「だ、か、らーそんな話してる時じゃ。そしてあなたは最初のキャラが崩れすぎています、自重してください」
 いつの間にかセンプスさんはクスクス笑ってるし、二人もニヤニコしてるし今までの重い雰囲気はどこに行ってしまったんだ。
 猫神様が見たらなんて言うか……
 きっと、人が深刻な時だってのにみんなしてなに笑ってるのニャーとか怒りそうだな。
「なになに? コイバナ? わしも混ぜて混ぜて」
「……」
「ぬあ!? 猫神様! いつの間に!?」
「さっきの間に。いやーみんななんか楽しそうな雰囲気でわしだけ仲間はずれとかずるいニャ」
 ぼくも含めて五匹全員突然の猫神様出現に水槽の金魚のように口をアグアグさせるだけで、誰も次の言葉が出せないでいた。

「みんなどうしたのニャ? そんなに口あけてたら口の中渇いて声がカラカラになっちゃうニャ?」
 とまどう猫神様の姿は先日のぼろぼろの身体が嘘のようで艶やかな毛並みと引き締まった筋肉、健康そのものである。
「あ、あの。もう大丈夫なのミケ様? 結構痛々しい身体だったけど……」
「ぼくには大丈夫なようにしか見えないんだけど」
「綺麗に見えても実は大丈夫じゃないんだニャ。外傷なんてのはすぐに治せるんだニャ。なにせわし神だし」
――あ、そっか。
 五匹全員が同じことを思っただろう。猫神様だのミケ様だの呼んでいるが実際の所このアホみたいな猫が神であることをいつも意識することは無理だと思う。
「見た目は健康そのものなんだけどニャ。実は結構衰弱してるし気持ちはへこんでるのニャ。とんでもないことに気がついてしまって……」
「とんでもない? 奴が来るとかいってたなそのことか?」
「まーそれも。惜しいけど、実は……」
 みなが猫神様の次の言葉に注目する。シャルトーがごくりと生唾を飲み込む音が聞こえてきた。敵が来るよりもとんでもないことってなんだ?
「実はわしほんとは雌だったみたい。今まで生きてきて初めて知った衝撃の事実ニャ」
「――――――――――うぇ?」
 あまりの脈絡の無さに制御できずに口から変な音が吐き出されてしまった。このタイミングでそんなどうでもいいことをカミングアウトする猫神様は本当にどんな脳を持っているのか頭を切り開いて覗いてみたい衝動に駆られる。
 強大な敵が迫って来て、結構深刻な状態なのだろうかと心配していたぼくらのこの不安な気持ちをどう静めてくれるものか。
「本当に衝撃の事実ですけど、今はもうちょっと別に大変なことが起きているのではなくて? ミケ様?」
 真っ先に立ち直ったのはセンプスさんだった。やはり頼れる姉御肌は違うなあと関心。いつもはおっとりした目元も今ばかりは液体窒素顔負けの冷たい視線だ。
「あ、うむ。でも本当に衝撃だったんだニャ……」
 怯みながらもまだ抵抗する猫神様。その頑張りをもうちょっと神らしいところで使ってほしいと願うのはぼくだけではないだろう。
「うにゃー、わかったニャ余計なこと言ってすまないニャ。実は今神様要素を大きく失っちゃって途方にくれてるのニャ」
 みんなの空気読め視線に耐えかねてようやく猫神様が話し始めた。
「神様要素を失う? でも傷の手当てとかはできたんでしょう?」
「怪我を治すのなんて初歩の初歩のことで朝飯前だニャ。ただこれから起こるであろう闘争で足手まといになるだろうニャ」
「やっぱり敵が攻めてくるんだ。うぅ、怖いよぉ」
「たぶんこの辺りの野良猫達の大群がこの屋敷にやってくるだろうニャ。わしを捕まえに」
「ミケ様を? どうして?」
「わしが奴の力を封印したからなんだけど。そうだニャあ、どうせだし最初から話しておこうかニャ。最近皆に野良猫になるべくちょっかいを出さないようにと注意していたわけから話していこうかニャ」