猫になって歩けば棒に当たる?
やっと根本からの話をすることにした猫神様を取り囲むようにしてみんな座りなおした。今度はセンプスさんを除いて思い思いの座り方である。
「そうじゃのぉ。これはとおーい昔の深ーい因縁から始まったのじゃ……」
「さびれた村の長老的な話し方は求めてないから。普通にいこう普通に」
「む。そうかニャ」
調子に乗らせると変な方向にすぐ脱線して危険だ。しっかり釘をさしておこう。
「今回わしが力を大きく失ったのはある一匹の猫を止めるためなんだニャ。その猫はオオグロという名で、名前通り真っ黒な奴なんだニャ。これで見た目に反して心は美しい奴だったらよかったのだがニャ。世の中そううまくはまわらないものだニャ。そいつはひんまがった性格でわしもずっと手を焼いていたんだニャ」
「ひんまがった性格?」
「そうそう。さらに神はなんでそんな奴に力を与えたのかわからんが奴は人間をむりやり猫に転生させる力を持っていたのニャ」
おい、ここはしっかり突っ込んでおくべきところなのか? だがここで突っ込むと奴の思いのまま。いちいちボケに突っ込んでいたらいつになっても話が前に進まないからな。
「えー、でも神様ってミケ様のことでしょー」
うわー、空気読もうよシャルトー君。
「あー、そうだったうっかりしてたニャ。わしも神か!」
え! まじで忘れてたのかよ! わざとボケじゃなく年季の入ったボケだったのか……
「失礼なこと考えてるバカがいるがこれはわざとボケたんだニャ。他の子はわかってるみたいだけど」
「うるせー。それで? なんでおまえはそんな変な力を与えたのさ?」
「いやそれがのぉ、わしの知らないところで別の神があやつに力を与えていたようなんだニャ。いまいちはっきりした理由がわからんが、ここ日本にはたくさんの神が存在しているからニャあ」
「それでその力というのと今回ミケ様が弱って帰って来たのと何か関係があるんですか?」
「そう、わしはその力は人間にあまりに大きく影響する力だから多用することを禁じたのだがあやつは知らんぷり。見境なく人間を猫へと転生させているのだニャ。特に情が深い人間が奴の罠にかかってしまうのだニャ。あやつはわざと危険な所で立ち止まったりしてあやつを救おうとした人間は事故に会ってしまう。そして死んだあとに無理やり猫に転生さて自分の手下や奴隷として使う。なんとも卑劣な力だニャ」
「ってことはぼくの相手がその猫だったらぼくは今頃あいつの……」
「そうなっていた可能性もあるニャ」
ぼくは選択肢が用意されていて望んでこの世界にきたが、あいつのやり方は嫌がる人も問答無用ってわけか恐ろしい奴だ。
「まあその話は置いておいて。それでわしもついに耐えかねて奴を完全に止める気で会いに行ったんだニャ。その力を封印しにね。だが奴の力は予想以上に大きかった……」
そう言うと顔を上げ目を閉じた。
「奴の力の源は奴自身のとてつもない深い憎しみと周りの不安、恐れ、嫉妬、憤怒などの負のオーラが糧になって強力になるようなんだニャ」
「負のオーラですか。そのオオグロさんの周りにいるのは無理やり猫にさせられた方や普段人間から理不尽な扱いを受けていることの多い野良猫達。強大な力が集まるのが目に見えるようですわ」
「そう。だがわしはその力の大きさを見誤り、封印することには成功したのだがわしの方もかなり消耗してあんなざまで帰ってきたというわけだニャ」
少し長く語るだけで大分消耗したのか、身体をミルーにもたれさせて一息ついた。見た目よりずっと衰弱しているらしい。
「ミケ様大丈夫ですの?」
「ああ、すまんの。また少し休めば何とかなると思うニャ。わしも年をとりすぎたみたいだニャ」
「それでそのオオグロってのは今どこにいるんだ? それこそ今まさにこっちに向かって来てるんじゃないのか。その封印を解けるのはお前しかいないんだろ?」
「わしを殺しても封印は解けない。そのことを奴は知っているだろうからすでに多くの刺客をこの屋敷へと放ってわしを捕らえようと動き始めているだろうニャ。オオグロ自身も出てくると思うニャ」
「そうか、でも屋敷内には入らせたらまずいよな。虎子望さんたちに迷惑かかるだろうし。何とか庭あたりで迎撃したいとこだが……なにかいい案とかあるのか?」
「とりあえずわしが微弱なバリアを屋敷の敷地内に張っているが、ちと心もとない強さでしかなくてニャ。雑魚どもは入ってこられんがやり手だと突破されてしまうだろうニャ」
「一応厳選はされるってわけか。ふむふむ」
数で押し切られたらひとたまりもないだろうと考えていたぼくはこの言葉でとりあえず安堵した。
「それじゃあ、できるだけ庭で敵を片付けられるのがベストなんだな。うおーなんか燃えてきたっす」
「おお、ロイ結構戦えたりするのか?」
「おうよ! 遊びに行く時に時々奴らと場所の取り合いでもめたりで喧嘩するからな。まあまあ慣れてるぜ」
早くも闘志を漲らせ叫んでいるロイは熱くなりすぎているので放置しておいてミルーの方に視線を投げた。
「わ、私に戦えっていうの? そんな、乙女に鞭を打つなんてスズさんやっぱりSなのね!」
「い、いやそんなつもりはなかったんだよ。無理に参加なんてさせないさ」
「いいえ、たとえ役に立たなくったって邪魔になったってスズさんと一緒に行くわ!」
「いや、邪魔になるのは困るかな」
「あのう、僕も戦うよ。みけ様いなくなっちゃったらヤダもん。怖いけど僕もできることやるよ」
「そっか。ありがとな。一緒に猫神様守ろうな」
まだ五年も生きてないだろうにこんなにも強くなれるものなんだな。それと比べるのと人間ってのは五歳じゃ誰かを守ろうなんて考えることもできないんだ。人間の脆弱さと猫という生き物に尊敬の念を抱いた瞬間だった。
「私は猫神様と一緒に部屋にいるわ。とりあえず休ませてあげないと」
「そうですか。ではぼくら四匹は外に出て敵の動向を探ってきますね」
「気をつけてね。無理だけはしないで」
「はい。センプスさんも気を付けてください」
そしてぼくらは屋敷の外の様子を見るためにセンプスさんと別れ階下へ降りて行った。
外に出ると早朝特有の霞がかった太陽がぼくらを出迎えてくれた。ぼくの心もこれからのことが不安で靄がかかったようで気持ち悪い。しかも出たとたんにぼくの感じれる範囲でもすでに五匹以上の敵意がこの屋敷へと向かってきているようだ。
人間と猫というのは全然違った感覚で生き物を感じ取れるものだと今更ながらに感心した。今は目を閉じるだけで物音がするわけでもない相手の生きている存在感というかオーラというかそこにいると感じ取れる。これじゃ人間が野良猫を捕まえるのが難しいわけだ。
「なんか物騒な雰囲気を持ってるのが近づいて来てるな」
「お、スズっちわかるのか。流石だな〜。だいたい十匹位かな?」
「う〜ん、ぼくは五匹しか感じられなかったけど」
「十一匹ですわスズさん」
会話に身体ごと割って入ってきたミルー。本当に強引な奴だ。
「十一匹か……場所のおおよその目安とかはわかる?」
「あちらは三つのグループで行動しているようです。三、四、四かしら」
「よくわかるねぇ。ミルーさんすごいよぉ」
「愛のなせる技ですわ」
作品名:猫になって歩けば棒に当たる? 作家名:月灯