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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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海人の宝

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「佐藤さんよ、この浜辺の有刺鉄線を見て日本の国会議員として屈辱的だと思わないのか。日本の安全のためとはいえ、他国の軍隊に、この土地を占拠されているんだぞ。戦争に負けて取り上げられた土地に基地を造られ、さらにそれを広げるために海を埋め立てることまでされようとしているんだ。有刺鉄線の看板を見ろよ。「入ったら日本の法律で罰せられる」って。こりゃなんだ。日本人をバカにしてやがるんじゃないのか。そのくせ、奴らは騒音出したり、犯罪やったりとやりたい放題じゃないか。まだ日本は占領状態にあるとしか思えん。日米安保とかいうが、この軍隊は、あんたらが参拝する靖国の英霊とやらを処刑した軍隊だぞ。そんな奴らのいいなりにいつまでなるんだ。真の愛国者なら、こんなものとっとと撤去しようとまず思うのじゃないのか」
 龍司の言葉遣いは、相手が国会議員であることなどものともしないほど荒々しかった。いくら何でも言い過ぎじゃないのかと周囲の活動家たちさえにも思わせるほどだった。また、龍司の意見は活動家たちにとっては、ややピントの合わないものだったみたいだ。テント内は、しばらくシーンとなった。


 佐藤は表情が急に深刻になり、
「いや、いろいろな意見を聞かせていただきありがたく思います。時間も時間なので、ここらで失礼させていただきます」
と述べて、秘書、ガードマンと共にテント村を去った。予定では、この後、名古市の市長や市議会議員と面会するため市役所にいくという。来年の一月には、この市で市長選が予定されている。現市長は、かならずしも新基地建設に反対ではないと聞く。

 その日の晩、龍司は「バー・アップル」に立ち寄った。急にビールかウィスキーが飲みたくなったのだ。まだ、開店したばかりの午後八時だ。中に入ると、思わぬ人物と再会だった。数時間前、テント村で出会った男。佐藤俊雄衆議員議員、防衛政務官だ。
 佐藤議員はカウンターで飲んでいるのに対し、秘書とガードマンは少し離れたテーブルで御茶を飲んでいるという感じだ。中にいる客はその三人だけで、あとはバーテンダーのマスターだ
 龍司は入っていいのか、一瞬、足止まった。「やあ、君か。また会えたな。遠慮せず、入ったらどうだ。ここは私の店ではない」
 マスターも歓迎の表情を龍司に見せた。何とも気まずい雰囲気。秘書とガードマンは、じろじろと龍司を見つめ、不歓迎であると言いたそうだ。
 龍司は、さっとカウンターに座った。
「マスター、彼に今、私が飲んでいるバーボンを一杯」
と佐藤。
「いや、結構ですよ。国会議員は、そんなことしちゃあいけないんでしょう」
と龍司は言ったが、
「ふん、構わないよ、今は選挙中じゃない。それにある種の経費として落とせるかもしれない」
と冗談ぽく佐藤は微笑み言った。
「俺が買収されるとでも思ったら、大間違いですよ。これでも辺奈古のウミンチュウですから」
「とんでもない。君に敬意を表しているんだよ。昼間、君の演説には感服したよ。もっともな主張だ」
「え、そう思うのなら、あなたも反対だってことですか」
と龍司。すると佐藤はほくそ笑って言った。
「この問題はな、実のところ、とても複雑なんだよ」
「複雑というのはどういうことで?」
「日米安保、日米同盟のため仕方ないとよくいわれるよな。そこに実をいうと大きな勘違いがある」
「勘違いって? 米軍は日本を守っているから仕方ないってことでしょう」
「ふふ、守ってなんかいないよ。そもそも、そのために駐留しているんじゃない」
という佐藤の言葉に龍司は衝撃を受けた。
「嘘でしょう。よくいうじゃないですか。日本中に基地があるのも、思いやり予算といって駐留経費を払うのも、日本が守って貰うからだと、そのためにも沖縄への基地負担はいかしかたないって」
「あんな演説をした君でさえ、その程度の認識というのが現状だよな。まず、いい例が沖縄の海兵隊だ。普天間には飛行場があり、この辺奈古には訓練所がある。その他、北部の山間部にもジャングル戦闘のための訓練所があるよな。しかし、これらの施設は日本の防衛のためにあるわけではない。皆、イラクやアフガニスタンへの戦闘のための前線配備と訓練のためさ。ちなみに言っておくけど、海兵隊というのは大規模な戦闘に対処するための軍隊ではない。戦争が起これば、地ならしのため最初に戦場に入る先遣隊のような役割を担っている。それ以外にいうと、救出部隊として民間人を紛争地帯から救い出す任務も担っている」
「じゃあ、彼らは日本人を救ってくれると?」
「ふふ、例えば、朝鮮半島などで有事が起こった場合、最初に救出対象になるのはアメリカ人と永住資格を持つ者、まあ、それは仕方ないだろう。だが、次はというと、それはイギリス人、カナダ人、オーストラリア人などのアメリカの友好国の市民だ」
「え、日本人は含まれていない?」
「いや、その次の優先順位の「その他」の分類に含まれることになるかな、はは」
「その他だって?」
「ああ、そうさ、ここでいろいろと好き勝手に日本人の税金で訓練しているが、日本人は必ずしも助けてもらう対象になってないとさ」
「こりゃあ、驚きだ。てっきり自衛隊が出来ないから代わりに助けて貰えると思っていたのに。だけど、日本の国土が攻められたら米軍は守ることになっているのでしょう。日米安保条約にも沿う書いているはずだ」
「ふふ、条約には、そう書いているのだけど、それにはいろいろと条件がついているのがみそだ」
「条件とは?」
「仮にどこかの国が日本に侵攻することがあっても、米軍が動くには、大統領と米国の連邦議会の承認があってでないといけないということさ。彼らの国の憲法に照らして、つまりはアメリカの国益に則したものであるかどうかの判断をした上でということだ。大統領がOKしても2ヶ月すれば議会が拒否すればそれで停止だ」
「条約で決まっていても、自動的には防衛しないってこと? その時のアメリカの事情に左右されるってことですか」
「まさしくその通り。そもそも、条約とは別に日米で防衛のガイドライン合意がされており、その中には、日本防衛の一義的責任は自衛隊にあるとなっている。米軍は、自衛隊が先に出た後に、それをサポートするのが役割だと」
「え、それって今までの政府の説明とは逆では、自衛隊は盾で、米軍は矛の役割を担っているって。それじゃあ、自衛隊が前面で戦わなければいけないってことで」
「そう、そのうえ、そのサポートさえしてもらえるかはっきり約束していない」
「じゃあ、いったい何のために米軍は日本にいるんですか」
「それは君も知っているんだろう。日本が戦争に負けて、その占領のために最初に来たんだ。だが、その役割が日米安保で日本を守る立場になった。どうしてか分かるか」
「うーん、歴史の授業で習ったけど、冷戦になってソ連と対抗するためとか」
「その通り、日米安保はソ連包囲網の一環だったんだ。ソ連の共産主義の拡散を防ぐ防波堤の役割を日本に担わせたんだ」
「だから、日本をソ連から守っていた」
作品名:海人の宝 作家名:かいかた・まさし