おしゃべりな男
『よろしくお願いします!』
翔太は両手でガッツポーズをした。
コンサートの当日がやってきた。
会社はお休みの土曜日。
天気が良いせいもあり、横浜はたくさんの人が行き交っている。
「みなとみらい」の駅で待ち合わせた二人は、
オープンエアのカフェでお茶を飲んだ後、
コンサート会場のみなとみらいホールへ向かった。
プログラムはラベルやドビュッシーのフランス印象派の曲に加え、
サティの曲が数曲並んでいる。
この後のディナーを上手く乗り切ろうとそわそわする翔太とは対照的に、
有里は満足そうにそのピアノに聴き入った。
コンサートが終わり、二人は翔太の予約したレストランに向かった。
二人に用意された席は窓側で、遊園地のコスモワールドが良く見えた。
ワインも進み、二人の会話は弾んだ。
話が盛り上がる一方で、翔太は会話が途切れるときを待った。
大事なことを有里に告白するためだ。
有里がデザートのシャーベットを食べ終え、スプーンを置いた。
やっとそのときが来た。
「森下さん、あのう…実は僕、ときめいてます、今」
「えっ、なに?」
「つまりその、森下さんと一緒にいるとすげー楽しいんです」
「まあ、うれしい」
「質問していいですか? ぼ、僕のことどう思ってますか?
あの、できたらお付き合いしていただけませんか?」
有里は「ウフフ」と小さく笑うとライトアップされた遊園地の方に顔を向けた。
10秒くらいの沈黙の後、有里が口を開いた。
「ねえ、高崎君、観覧車乗ろうよ」