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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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おしゃべりな男

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第4章 返事



翔太は高を括っていた自分を恥じた。
初めての飲み会も、今回のコンサートも有里は二つ返事だった。
今度もきっと即OKをもらえるだろうと思っていた。
レストランを出ると、主導権は完全に有里に移っていた。

「あの観覧車、いつも見るだけで乗ったことないんだ。高崎君は?」
「あ、僕もそうです」
「コンチネンタルホテルやベイブリッジがきっときれいに見えるでしょうね」
「そうですね」

二人は観覧車の順番待ちの行列に並んだ。
翔太は行列に並ぶという大義名分の下、有里と密着できることが嬉しかった。
今までこんなに近くに有里を感じたことはなかった。
有里の髪からリンスの香りがした。

順番が来て二人は観覧車に乗り込んだ。
並んで座るのも変なので、翔太は反対側の座席に有里と向かい合って座った。
観覧車はゆっくりと地上から離れていった。
二人は黙って外の風景を眺めた。
時間がいつもの二分の一くらいのスピードで過ぎていく気がした。
観覧車がそろそろ一番高い位置に着きそうになったとき、有里が口を開いた。

「高崎君、モーツァルトのお話してよ」
「えっ、どうしてですか?」
「いいから」
「わかりました。僕が高校生のとき初めて聞いたクラシックのレコードが、ピアノコンチェルトの21番だったんです。2楽章がとってもきれいな旋律でね、映画にも使われたんですよ。
映画のタイトルから別名『短くも美しく燃え』って言うんです。つまりモーツァルトが自分でつけたタイトルではないんです。
今一番好きな曲は、う~ん、そうですねえ、「クラリネット5重奏曲」かな。特に1楽章のクラリネットの入り方がカッコいいんですよ。
そうそう、アヴェヴェルムコルプスもいいですよ。合唱曲なんですけどね、とにかくきれいなハーモニーで…」
「高崎君」
「は、はい」
「おしゃべりな男を黙らせる方法知ってる?」
「い、いえ」

有里は突然翔太に近づき、自分の唇を翔太の唇に軽く押し当てた。




3秒のキス。




「さっきの質問のお返事よ」

翔太はベイブリッジに向かってガッツポーズをした。

(おわり)
作品名:おしゃべりな男 作家名:タマ与太郎