扉を開けたメール
師走の風
その日の午後、花山と華奈は二時間もかけて電車を乗り継ぎ、既に閉鎖されている、お好み焼き屋「ともちゃん」の店舗の前まで歩いてきた。花山は穂高から、店を見に行くように云われたのである。それを知った華奈は、花山から離れたくないらしく、同行の許可を穂高に求めた。そのとき、老いた陶芸家は、相好を崩して承諾した。
懐かしいような気持ちで「ともちゃん」と書かれた看板を見たとき、花山は「ともみ」というのが敬子の本名かも知れないことに気付いた。色あせたシャッターには「売り店舗」と記されている張り紙があった。その光景は悪夢を見たあとのような、後味の悪さを感じさせた。
ふたりは間もなく、陶芸家の家に帰ることにした。そのとき、隣の美容師が現れて眼を細めた。
「こんにちは、ともみさん。何だかたくましい感じになったわね」
「こんにちは。ありがとうございます。」
華奈も笑顔になった。
「年末年始、頑張ってください。さようなら」
花山も笑顔で明るく云った。
「さようなら」
「良いお年を」
美容師に見送られながら、ふたりは本当に帰ることにした。花山は殆ど納得できたような気持ちだが、華奈は如何にも残念そうな表情だった。